エピローグ

 絵本を読み終えた途端、孫たちは次なる興味に惹かれて庭に飛び出していった。それを見送った後、シャニィは小さく笑う。


「時間は偉大だわ。小猿や奇天烈きてれつ令嬢が随分と出世したものね」


 海賊閣下の物語が創作ではなく、事実が基になっていると知る者は限られている。宝箱に入っていた太陽の女神が、実際はただの変わり者の伯爵令嬢で、おまけに最初は押しかける相手を間違えていたということも、知る人ぞ知ることだ。


「だけどあなたならともかく、どうしてまた太陽の女神だなんて大袈裟おおげさなことになったのかしら。髪の色かしらね」


 シャニィはかなり濃い金の髪をしていた。とはいえ、方々で様々な騒動に巻き込まれつつ、笑いながら夢中で生きてきた時の流れの中に、その色も忘れ形見のように置いてきている。


「さすがにこんなに白くなってしまったから、今となっては誰にもわからないでしょうけど」


 シャニィは髪を指先でつまんで見つめた。それだけ長い時間、望んだ相手と共にいることができたのだと思うと、この白さえ愛おしく思えるから不思議だ。


「……別に髪の色が金だろうが白だろうが、昔も今も俺にとってはそれだけが変わらない真実だったさ」


 ヴァンジューはあのよく響く低い声でふいにそう言うと、照れたのか再び本の向こうに隠れてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

海賊閣下と太陽の女神 吉楽滔々 @kankansai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ