第32話 悪魔と天使と…「鬼」

―侵入者、弱くない?


「発動してないわよ♡」


…へ?


何に驚いているのかについては、少し前にさかのぼる。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「そんな…!!」


そう驚く神官の胸から自身の腕を抜いた、その少し後のこと。


「ミ~ナちゃん♡お疲れ様ぁ♡」


…そもそもあんたが否定していればこんな苦労はせずに済んだというのに…!!

背後から聞こえる声に対し、睨みつけて非難してみる。


「あらあら…仕方ないじゃない?状態で断るわけにはいかなかったもの」


普段は色ボケしているベルもなんとなく察したのか、そう返してくる。

確かにそうかもしれないが…はぁ…


「まぁまぁ、そんなことより、早く逃げた方が良いわよぉ?そうじゃないと面倒なことになりそう♡」


…どういう…


「ミナ様ぁ!!!」


…!!

突然聞こえてきた大きな声に驚き、声の方向を見る。

するとそこには、大量の下級魔物たちが。


「すげぇ、使徒どもを一人で全滅させたぞ!!」

「さすが四天王…!!」

「うわぁ…!!握手とかしてもらえるかな…!?」

「行ってみようぜ!!」

「…だから言ったじゃない?『面倒なことになる』って」


そういうことはもっと早く言ってくれ…とりあえず、逃げるか。

…ていうか「使徒」って何?


「あっ、ミナ様…!!」

「あらあら…皆ぁ~、死体の処理はお願いね~♡」

「ベル様、かしこまりました!!」


そんな喧騒を尻目に、私は自分の部屋に戻るために階段を上ろうとしているところだった。


「ミナちゃ~ん、待って~♡…使徒のこと、知りたいでしょ?」


知るか…と言いたいところだが、それは確かに知りたいな。


「んふふ♡素直なんだから♡とりあえず、また私の部屋にイきましょうか♡」


…非常に断りたいが、まぁ仕方ない。

そのまましばらく歩き、ベルの部屋に到着する。


「こっちに座っちゃって~♡…えっと、使徒のことについてだったわね?」


コク


「そうねぇ…まずは天使と悪魔について説明した方が良いかしら…私の種族がサキュバス…つまり悪魔だということは話したわよね。天使は、大昔から私たち悪魔や魔物と仲が悪いのよ。こちらが何もしていなかったとしても、向こうが一方的に嫌ってくるのだから、あの光るウジ虫共はどうしようもないわ」


へぇ…へっ!?ウジ虫…?


「あら、ごめんなさい♡私、昔天使どもに殺されかけたことがあってね…それから天使だけは絶対にお断りなのよ…まぁ、魔王様は別だけど♡」


コイツ、嫌いな相手とか居たんだな…あ、そうそう。

魔王は確か「堕天使」だって言ってたはずじゃ…どういうことなんだ?


「気づいたかしら?魔王様は「元」天使なのよ♡あの方も、昔随分酷い目にあったらしくてね。それで地上に降りてきたところを私が見つけて、それ以来一緒に居るってわけ♡」


なるほど…


「…話を戻すわね?奴ら天使は私たち悪魔や魔物が持つ【大罪】と同じようなスキルを持っていることがあるのよ。【元徳】というらしいのだけどね」


…ね。これまたなぜか懐かしいような気がするな。


「それで、当然奴らにも私たちでいうところの「欠片」が居るわ。でも、私たちと違って、天使はそれを発現しないらしいのよ。まぁ、どうせ隠しているだけだと思うけど。じゃあ誰が発現するのかって言うと…人間。つまり、私たちでいうところの「欠片」が、奴らにとっては人間なわけね。まぁ、人間たちは発現した自分たちのことを「使徒」なんて大げさな名前で呼んでるらしいけど。ここまで言えばもうわかったかしら?さっきあの子たちが「使徒」と呼んでいたのは、あの人間たちが「使徒」だったからってワケ♡」


なるほど…にしては弱すぎないか…?

【傲慢】を発動していたというのはあるかもしれないが…


「発動してないわよ♡」


…へ?


「当然【大罪】と【元徳】は敵対関係なんだし、「使徒」だろうと相対すれば【傲慢】は発動できなくなるわよ?…まぁ、「使徒」は「欠片」に比べると大分弱いらしいんだけどね。当然下級や中級の魔物くらいは余裕だけど。そもそも奴らの場合は「スキル」とは言うけど、どちらかというと「属性」とでもいうべき力だったりして…っていうのはとりあえず置いておきましょうか」


ほー…というか、さっきから私の心を読んででもいるのか…?


「あら、だってミナちゃんはアンデッドにしては凄くわかりやすいんだもの。まぁ、アンデッドに触れていない魔物や人間じゃわからないかもしれないけど、大抵の存在とはヤってる私は一味違うわよ♡」


うっわぁ…こいつこそ、ある意味【暴食】に相応しいんじゃないか…?


「なんか、失礼なこと考えてないかしら?私はそんな大ぐらいじゃないわよ?」


…なぜわかるんだ…魔王たちすら間違えていたというのに。


「んふふ♡私を舐めちゃダメよぉ♡…というか、魔王様とソウイツちゃんはちょっとニブすぎるのよ♡」


どういうことだ…?


「ひ・み・つ♡」


…はぁ…一体なんなんだ…

そう思っていると、「コンコン」部屋の扉がノックされる。

一体なんだ…?そう思いつつベルを見ると、何かに気づいたような顔をしていた。

…そして、少し青ざめている。うーん…いやな予感。


「ベル、ミナ殿、居るか?」


聞こえてきたのはソウイツの声。


「い、いないわよ~?♡」

「居るんだな。入るぞ」


がちゃりと回されるドアノブ。その先に立っているのは当然ソウイツ。

向こうは普段とそう変わらない表情のような気がするが…


「む、ミナも一緒にいたか。ならばちょうどいい」

「な、なにがかしら~…?」

「ベル、ミナ殿…私に何かいうことはないか?」


…?えっと…


「…ちょ~っと、分からないわぁ…?♡」

「…そうか…」


そうベルが応えた次の瞬間、ソウイツが満面の笑みを浮かべ—誇張ではなく—


「貴様ら、何故大広間に来なかった…?「あの」ラズすら来ていたぞ?」

「…!!」


…あっ…


「ミナ殿は喋れないからな…仕方ない。ベル、貴様が説明してみろ」

「あっ、ええと…そのぉ…ミナちゃんを案内してたらその途中で侵入者が来ちゃってね…?下級魔物たちの手前、私たちが引くわけにもいかないじゃない…?だからぁ…そのぉ…」

「大広間に来られなかった、と」

「そ、そうそう!!そうなのよぉ~♡」


私も盛大に頷いておく。


「来なかった理由はまぁ分かった。…では、何故その後に報告に来なかった?」

「…!!」

「そもそも、貴様は戦闘に参加してすらいなかったのだから来られただろう、ベル…?魔王様と共に見ていたぞ?」

「ぴぇっ…」

「それとも、私たちが見落としただけで貴様も戦っていたのか…?どうだ?ミナ殿」


さすがにこの場で嘘を吐く勇気はない…


「ミナちゃんっ…!?私を売るなんて酷いわ…!?」


すまん、ベル。


「だよなぁ…まぁ、ミナ殿は今日入ったばかりだから仕方ないとしても…ベル、貴様は戦闘に参加してすらいないのに報告に来ることすら忘れてミナ殿と楽しくおしゃべりをしていたというわけだ…貴様、何年目だ?」

「あぅ…えぇっと…い、1年、くらい…?」

「もう100年は居るだろう…?」

「ひぅっ…」

「…ああ、ミナ殿はもう行っていいぞ?素晴らしい戦闘だった…次からは気を付けるように」


にこやかなソウイツに壊れたおもちゃのように頷き、足早に部屋を抜け出す。

扉を閉めた次の瞬間、


「そもそも貴様は…!!…!!…!!…!!!!」

「ごべんなざ~い!!」


…今日も平和(?)だなぁ。

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