第31話 侵入者

―大迷路をうろついてたら侵入者来ちゃった


…マジか。

さすがにここからすぐ戻るというのは…厳しいよな。

魔王曰く、寮の方の通路は侵入者を検知したらすぐ封鎖されるって話だったはず。

近くに魔法陣があるわけでもないだろうし…

それに、急いで迷路を戻っても、その途中で出くわしでもしたら面倒だ。

私がそう悩んでいると、その近くに下級の魔物たちが出現する。


「敵はまだか!?」

「多分!!」

「…って、あれ?何故こんなところにベル様が…?それにその横のスケルトン・キングは…」

「うちってキングいたっけ…?」

「いや、キングは居なかったはず…」

「…まさか、敵か?」

「嘘だろ!?」

「違うわよぉ♡」

「ベル様…では、そちらの魔物は一体…?」

「新しく四天王になったミナちゃんよ♡」

「え!?」

「今日入ったの♡」

「え、え、じゃあ、本物!?」


こちらを見ながら驚いているので、とりあえず頷いておく。


「うっわ、マジかマジか!!」

「本物かよ!!」

「ていうか、俺らさっき敵とか…」

「ヤバイ…!?」

「…そういえば、なんで四天王の方がこんなところに…?」

「敵が来るのを見越して準備してたとか…!?」

「んなわけ…でも四天王ならあり得るのか!?」


いや、ないって…というかもう時間が…


「ほら、何もおっしゃらないしそうなんじゃないか!?」


あ、いや、違っ…ベル!?なんか言ってくれ!!…ベル!?

そう思いベルの方を見ると、眉尻が下がり、片手で口を隠している。

笑ってる…?私は何も楽しくないんだが!?


「じゃあ、四天王の方の戦闘が見られるってことか…!!」

「うわぁ…!!」


反応忘れてたっ…!!

くっ、う…め、目が…まぶしい…!!

元ただの引きこもりにこの数はさすがにきついって…!!

強くなりたいとは思ったけど、こういうのはいらないというか…

ベルも何も言わないし、そもそも私じゃ何も伝えられないし…

それに、今更引き下がるわけにも…

とはいえ、こんなとこまで来る相手が弱いとは…はぁ、やるしかないか。

そう覚悟を決め、ゆっくりと扉を開ける。




扉を開けた先に居たのは、4人の人間たちだった。

【鑑定】したところ、剣士(男)・武闘家(男)・魔法使い(女)・神官(女)だ。

しかし、見られたのはそこまでで、スキルやステータスは観られなかった。

何か装備やスキルの力だろうか?

とりあえずここまで来た人間の技量がどの程度なのか見たいし、最初は適当にやるかな。

…ベルが反対してくれれば、こんなことにもならなかったというのに…


「な、なんだ!?」

「いきなりなんか出てきやがった!!」

「下がって!スケルトンだわ!!聖魔法で片づけましょう!!」

「神よ、我に光を…【聖魔法 フォトン】!!」


聖魔法だと?アンデッドはそういうのに弱いイメージがあるんだよな…

…けど、魔法自体がルークの【魔法弾】ほどの速度じゃないな。

こんなんじゃじっくり見てからでも余裕で回避できる。

明らかに光っぽい名前なんだし、もっと早くていいんじゃないのか?

…というか、なんでわざわざ声に出した?


「そんな!?よけられた!?」


神官(女)が叫ぶ。

一体何をそんなに驚いているんだ…?


「スケルトンに『避ける』なんて知識があるなんて…!!」


いやそこ…?

どれだけ低いと思われているんだ?スケルトンの知能…

…というか、よく間違えられるが私はスケルトン・クイーンだ。

特殊進化どころか通常の進化をしたときにすらスケルトンから見た目が一切変わらなかったし、それに加えて今は刀も仕舞ってるから仕方がないかもしれないが、【鑑定】を使えばすぐわかるというのに。

それとも、やっぱり【鑑定】はレアなスキルなのだろうか?

いやでも、下級の魔物すらただのスケルトンではないということはすぐに気づいていたし、こいつらがわかっていないだけか?


「スケルトンにしては異常なほどに知能が高い…もしかして特殊個体でしょうか…!?仕方ない、たかがスケルトンにここまで使うのは少しためらわれますが…神よ、その力で我が眼前の敵をうち滅ぼしたまえ…【聖魔法 フォトン・レイ】!!」


…うん、さっきよりはいくらか早くなったな。

とはいえ、ルークの【魔法弾】1発と同程度。

こんなんじゃ私は一生かかっても死なんよ。


「また避けられた…!?くっ、ルギ、お願いします!!」

「わかった!!」


そういってこちらに向かってくる剣士の男だが、正直言って非常に弱い。

振ってくる剣を避けて横から体を押してやれば、簡単に転ぶ。

そもそも剣自体の威力も、私の骨を切り裂く程度の威力もないらしい。

適当に素手であしらっているだけなのに、既にボロボロだぞ…?

足止めして神官なり魔法使いなりで倒す用の肉壁か?

だとしてもこれは酷いな。

多分、スケルトン・ナイト1,2体相手にしたら死ぬんじゃないか?

よくこんな実力で魔王城まで来られたな…

肉壁じゃないとすれば、何か特殊なスキルでも持って…


「くっ、こいつ強い…!!本当にただのスケルトンなのか!?俺の本気の一撃すら簡単に避けるとは…!!」


…なさそうだな?

だとすればお前が弱すぎるだけだ。多分お前、肉壁要因だよ。

だってほら、その証拠に他のメンバーの声も…


「そんな、ルギが押されているだなんて…そのスケルトン、一体何者!?」

「仕方ねぇ、俺もやるぜ!!」

「ちょっとトーカ!!勝手に出ないで!!」

「その名前で呼ぶなっつってんだろうが!!」


あれ?なんか焦ってないか…?

ここまで来た強者だと思っていたが、なんか戦闘中に喋ってるし…

それどころか、味方を救うためとはいえ指示を無視して単騎特攻…?

もしかして、この世界の人間って滅茶苦茶弱いのか?

それともこいつらが弱すぎるだけ?

いや、だとすればそもそもこんなところまで来られるわけ…

…あ、そうか。そういえば外に魔物全然居なかったな。

とはいえ門番は居たはずだし、それを倒す程度の力はあるってことか?

それにしてはいくらなんでも弱すぎるような…

二人が束になった上に神官や魔法使いの攻撃があるのに、未だ1ダメージも貰ってないぞ?

それどころか、俺にお互いの攻撃を利用される始末。

もしかして、何か魔物に対しての特攻になるスキルでも持っているんだろうか?

だとすればそれを使っていない理由はなんだ?

まだ使えない状態にある?

…魔王に使うと決めているせいで他に使えない、とか?

だとしても、このままじゃ死ぬぞ?早く使えよ…


「くっ、ここまでとは…!!」

「なんなんだ、あいつ!?スケルトンにしちゃ強すぎるだろ!?」

「一体何が起きてるっていうの!?」

「私たちは皆、Lv45…その攻撃を軽々といなすなんて…」


…え、は!?

いやいやいや、そんなに高いわけないだろ。

そんなに高かったらあのダンジョンだって余裕でクリアできるはずだ。

でも、今のこいつらからそんな力強さは感じない。

それどころか、適当に受け流して相打ちさせているだけで勝手に死にかけているレベルだ。

一体どうなっているんだ…?


「くそ…!!このままじゃまずいぞ!!」

「わかってらぁ!!だが、どうするってんだよ!!」

「…一つあるとすれば、ヤツが素手なことを利用するくらいしか…」

「どういうことだ!?」

「…つまり、ごにょごにょ…」

「なるほど、ごにょごにょ…」

「しかし…ごにょごにょ…」

「なら…」「そうしましょう…」「わかったわ…」


いやいやいや…敵の目の前で作戦会議とか、正気か?

俺が今刀を取り出して適当に1,2回振ったらお前ら全滅するぞ?

…まぁ、何か考えているようだし、少しだけ待ってみるか。

さすがにこのまま終わるんじゃあ、味気なさすぎてつまらん。

正直、ロイヤル・スケルトン2,3匹と殴り合う方がまだ建設的だ。

それと改めて思うが、何故この実力で魔王城に侵入しようと思った?


「…さて、待たせたな。作戦が決まった…ここからは全力で行かせてもらう!!」


ようやくか。さて、どんなもんかね?


「神よ…ああ、神よ。この祈りが届いたならば我の願いに耳を傾けたまえ。この敬虔なる信徒の声を。我に、全ての者を守る力を与えよ…脆弱なる者を守る、偉大なる力を!!【聖魔法 ミニ・サンクチュアリ】!!」

「よし…!!【バインド】!!」

「いっくぜぇえええ!!【天地割拳】!!」

「これで…!!【剣気・解放】!!」

「おしまいよ…!!【炎魔法 ファイアー・ボルト】!!」


神官が聖魔法を唱えた瞬間、急激に体が重くなった。

その上、魔法使いの拘束魔法によって行動を封じられる。

流石にそれは少し困るので、とりあえずステータスに任せて無理矢理動いてみせる。

そこに来た武闘家の拳を、体をひねってどうにか回避。

立て続けに剣士が切りかかって来たので、姿勢を低くして回避しつつ武闘家にぶつける。

炎魔法を回避すると、丁度魔法の射線上に剣士と武闘家が居たのでそのまま被弾。

味方に魔法を打つなんてひどいなぁ…あ、聖魔法が切れた。


「そんな…!!」

「嘘…!!」

「ぐぅっ…!!」

「がぁああ!!」


そのまま剣士と武闘家が動かなくなったので、速攻で残り二人に近づく。

まずは神官に接近し、低姿勢から貫手で心臓を一刺し。

初めてやったせいで手を抜くのが難しいな…

仕方ない…その態勢のまま、隣にいる魔法使いに一発回し蹴り。

まるでひと昔前のガラケーかのように、二つ折りになって吹き飛んでいく魔法使い。

神官から手を抜くと、そのまま下に崩れ落ちていく。

どうもこの二人は極端にVITが低かったようだな。

あるいは【傲慢】で私のステータスが上がりすぎていたのだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る