第15話 猫とはそういう物

 私の部屋に、美久が座っている。

 将来、修平君のお嫁さんになると宣言し、修平君にやたらベタベタとまとわりつく美久を、修平君の部屋に泊めるわけにはいかないのだ。


 万一、修平君が、ひょんなことから、ついうっかりと、ラブコメによくある展開で美久にちょっとでも手を出したりしたら、犯罪だ。

 それは、身を隠すために幽子としてここに存在する私には、とっても困るのだ。


「修平君のお部屋で良かったのに」


 美久がブツブツ文句を言っている。

 夕食を食べる時も、「修平さん、あ〜んして!」なんて言って、修平君に食べさせてようとしたり、「お風呂……一緒に入る?」なんて言い出したりする油断ならない美久を、修平君の部屋に置いておけるわけがない。

 修平君の方は、何がなんだか分からない様子で、小さな美久を相手にしていないから、良いものの。

 このままでは、修平君が襲われる。喰われる。


 なんだこの肉食女子は!

 どうしたら良いんだろう。この子。

 どうにも仲良くなれそうもない美久を持て余して、私は途方にくれる。

 これから何日かは、一緒に過ごさないといけないのだから、この状況は困る。


 チリン……。


 鈴の音がして窓を開ければ、黒猫姿の官兵衛が入ってくる。


「にぁあん」


 なんて、普通の猫のフリ。

 どうやら私と美久の様子を見に来たようだ。まぁ、あれだけ仲悪そうなら、心配にもなるかな。


「わ! 猫だ!」


 美久が喜ぶ。「おいで!」と、美久は手を広げるが、官兵衛はすました様子で、距離を取る。


 こうやっていると何の変哲もない黒猫に見える。まさか、昼間は招き猫だなんて、誰も思わないだろう。……小判を担いでいるけれど。


「小判背負っている! 可愛い! この猫……ここの猫? 名前は?」


 美久に教えて良いのだろうか? チラリと官兵衛を見れば、コクンと頷いた気がする。


「なんか……夜だけ居るんだけれど。名前は、官兵衛」

「そうなんだ! 官兵衛!」


 美久は、早速、官兵衛の名を呼ぶ。

 官兵衛は、悠然と欠伸を一つ。どうやら、美久とは、少し距離を置くつもりのようだ。理由は分からないけれど。

 しかし、助かった。

 官兵衛のおかげで、ピリピリぎこちない空気が少しはマシになる。


「ちっとも寄ってきてくれない!」


 美久はむくれる。

 私は、苦笑いする。


 幼女は最強だ。美久。

 可愛いくて皆つい言うことを叶えてあげたくなる。

 だが、美久よ。世の摂理として知っておくが良い! 

 猫は、そんなのちっとも気にしない。むしろ、子どもは嫌いなのだ。



「まぁ、猫は世の中で一番らぶりぃな生き物じゃからな!」


 官兵衛の声が頭の中に届く。

 ドヤ顔しているが官兵衛よ。私、そうとは言っていないんだけど。

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