2-3 なんか、凄く怪しい!
入室と同時に3人分の目にさらされた人物は、1歩踏み出したその場で立ち止まる。
「なんだよ」
急に注目を浴びたことに対する反応は、その一言だった。
その人物は
「
「用もなしに来るかよ」
少し口が悪い人だ。目も切れ長で、発言がただの質問でも怒っているように聞こえる。
が、今はそれよりも。
「あ! 約束って!」レナが叫ぶ。
「ええ!
「やっぱり、ヨッシーは来るのね! 来るんだ!」レナが追い討ちを掛けた。
今度ばかりは
集中砲火を浴びる青年は諦念した顔で天を仰ぐと、真実を打ち明けた。
「
理由は、昨日、調査の一環で霊視をして、体調を崩したからです」
「霊視ねぇ……」
「
「本当ですか?」
レナと
「本当だよぉ!」
ウソではなさそうだ。
と、
「あ、でも風間さん宛には荷物を預かってます」彼は思い出したように話題を変えた。「封筒のまま返してくれって……はい、どうぞ」
手近な机に置いてあったA4ほどのサイズの封筒を片手で取り、来訪者に渡す。
「おう」それを受け取った男性は封筒の口を開けて中をのぞいた。「……確かに、貸してたもんだ。無駄足にはならなかったな」
中身は何だろうか? 封筒の厚みは2cmあるかないかぐらい。片手で軽々と持っていたから、重量も数百gといったところか。書類の束とか?
「何それ」レナが面白くなさそうに聞く。「エーブイ?」
AV? オーディオ・ビジュアル……映像機材のこと?
瞬時に連想した時、
「違うわ!」
え。なんか、凄く怪しい! 男性2人の意表をつく反応から、女子は「何か隠しごとをしているのだ」と直感する。
「これについては、奴に直接話も聞きたかったが、いないんなら仕方ねぇな」
レナが途端に「うわ」と顔を引きつらせる。「いかがわしいレビュー会とか、キッモ!」
「違うっつってんだろ」気の短そうなしゃべり方が更に粗暴になった。「今日は帰る」
「お疲れ様でしたー」もう1人の男性は、どこかすっきりした様子で手を振る。
大人は謎だ。
ドアが閉められ自然と沈黙が生まれたところで、レナがあくびをする。
「アタシも帰る。ヨッシー来なさそうだし」
「そう? お疲れぇ!」
「あの、レナさん!」
尋ねたいことがあった。
「んあ?」相手は足を止め、振り返る。
「レナさんは、
大人の女性は何食わぬ顔で返事する。「そんなの聞いて、どうすんのよ」
「どうするってことはなくて」中学生は正直に答える。「
ここへ来て、謎めいた霊感探偵の不思議な人間関係を目の当たりにした。だが自分は、彼と出会ってから何度も再会を試みたというのに、未だ氏名と霊視の光景しか知らずにいる。
彼の知り合い――それも浅からぬ関係にありそうな人物は「ふうん」とこぼして腰に片手をあてる。
と、美しい顔が急に眉間にシワを寄せた。「アンタこそ、どこの誰?」
しまった。自己紹介がまだだった。
「あ、ごめんなさい!
私は、
反省しながら身元を明かす。
「そう。どこ中?」
「K中学校です」
「ふうん」
短い反応。再び品定めするような眼光に足元から頭までさらされるのを、ハラハラしながら、大人しく受け入れた。
「私はね――」いよいよレナが質問に答える。
と思われたが、
「……やっぱ、アンタには言わなーい」
続いたのは却下の意思表示だった。
「え!」そして、ようやく理解する。「ちょっと、えぇ!?」
反論も説得の言葉も出てこない。こちらは包み隠さず話したにも関わらず、レナの発言はあまりに単純で無慈悲だった。
「お子様には内緒ってことよ」
またどうしようもない供述をしながら女性はきびすを返し、「じゃーねー」と後ろ手に手を振りながら出て行ってしまう。
ドアが開かれ、吹き込んだ風が届ける香水の匂い。
ドアが閉じると共に消える、金髪の後ろ姿。
無情に進む時間に
拳をにぎった。
そして、
「意地悪な人ぉ!」
声の限りに思いの丈をぶちまける。
「ごめんねぇ!」
少女の率直な思いを正面から浴びた男性は即座に手を合わせ、頭を下げて謝る。無論、
彼は顔を上げると苦笑した。「えっと、気にしないでね。あの人、誰にでもあんなだから」
「キャバクラ……」子供は、耳にしたことしかない言葉を反すうする。
「パブ」とか「風俗」という言葉といまいち区別できていないが、とにかく「大人のお店」というやつだ。
そのような店舗の従業員が、
何の事実も見出せそうにないと踏み、
仕方ない。こうなれば手段は1つだ。
執念の赴くまま、少女は頼りの人物に向き直る。
「
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