消えない過ち

 夜8時を過ぎた頃の、とある公園。

 夜露にぬれた植え込みから猫が出てくる。三毛猫だ。


 何度か猫缶を与えた野良猫は、この時刻に、この場所へ現れるようになった。

 習慣化された「ごはんの時間」によって警戒心もすっかり解け、簡単になでさせてくれる。


 この猫は、目の前にいる人間の子供にでもなったつもりなのだろうか。

 猫の子供だ。

 湿った草木の匂いを我慢して、1分間だけ静かに食事させてやる。

 それがだ。


 周囲に人の気配がないのを確認してから、

 三毛猫を抱き上げ、

 首を絞める。


 ――不意に襲いくる激痛と窒息。一瞬、何が起こったのかわからなかった。


 ゆっくりと、しかし迷いなく、力を入れていった。

 猫はくぐもった声で鳴く。


 ――思わず口の中の物を吐き出した。

 ――無論、それで苦しみから解放されるはずもない。

 ――状況は理解できなくとも、認識した事象に対して、抵抗する。必死で。


 爪を立てて引っかいてくるが、軍手とアームカバーを着けた腕に傷はつけられない。


 ――だが無駄だった。頚部に加えられる圧倒的な圧力は、弱まるどころか力を増していく。その中でも2本の指が、喉を突き刺すように食い込んできた。

 ――痛い。苦しい。込み上げる吐き気すら決定的にせき止められていた。やめて。どうして、こんなことをするの。いつもと違う。なんで。何がいけなかったの。やめて。やめて。やめて。


 一生懸命に振っていた前足も後ろ足も、やがて力なく落ちていった。

 石畳に寝かせても動かない。両目は見開いたままだ。


 ――。


 失神したのか死んだのかはわからない。興味もない。


 ――


 どうしようもない感情を抱えた時は、野良猫を探し、発散するのだ。

 道端で命を落とすものがあっても、誰も気にしない。

 こんな日課があろうとも、日常は変わらないのだ。


 用意したナイフを取り出す。

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