消えない過ち
※
夜8時を過ぎた頃の、とある公園。
夜露にぬれた植え込みから猫が出てくる。三毛猫だ。
何度か猫缶を与えた野良猫は、この時刻に、この場所へ現れるようになった。
習慣化された「ごはんの時間」によって警戒心もすっかり解け、簡単になでさせてくれる。
この猫は、目の前にいる人間の子供にでもなったつもりなのだろうか。
猫の子供だ。
湿った草木の匂いを我慢して、1分間だけ静かに食事させてやる。
それがルールだ。
周囲に人の気配がないのを確認してから、
三毛猫を抱き上げ、
首を絞める。
――不意に襲いくる激痛と窒息。一瞬、何が起こったのかわからなかった。
ゆっくりと、しかし迷いなく、力を入れていった。
猫はくぐもった声で鳴く。
――思わず口の中の物を吐き出した。
――無論、それで苦しみから解放されるはずもない。
――状況は理解できなくとも、認識した事象に対して、抵抗する。必死で。
爪を立てて引っかいてくるが、軍手とアームカバーを着けた腕に傷はつけられない。
――だが無駄だった。頚部に加えられる圧倒的な圧力は、弱まるどころか力を増していく。その中でも2本の指が、喉を突き刺すように食い込んできた。
――痛い。苦しい。込み上げる吐き気すら決定的にせき止められていた。やめて。どうして、こんなことをするの。いつもと違う。なんで。何がいけなかったの。やめて。やめて。やめて。
一生懸命に振っていた前足も後ろ足も、やがて力なく落ちていった。
石畳に寝かせても動かない。両目は見開いたままだ。
――。
失神したのか死んだのかはわからない。興味もない。
――
どうしようもない感情を抱えた時は、野良猫を探し、こうして発散するのだ。
道端で命を落とすものがあっても、誰も気にしない。
こんな日課があろうとも、日常は変わらないのだ。
用意したナイフを取り出す。
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