尚も虚構であるもの
1―37 思考は、まどろみに溶けて
コーヒーを買って愛車のキャプチャーのシートを倒すと、ただちに眠気がやってきた。
霊視は本当に体力を使う。
木曜日はヒアリング結果を深夜までまとめ、金曜日はやっとの思いで見つけたリュックサックと遺品の霊視で徹夜した。ルームミラーに映る自分の顔は、見るからに疲れ果てていた。両手で顔をマッサージしてみる。当然、それしきで顔色に変化など起こらない。
急ピッチで調査を進めた理由は、半ばネガティブな結論ありきで話を終わらせたがる依頼人を前に
結果的に依頼人が気分を害して調査中止になるということもなく、遺品、そして霊自身を霊視することで記憶にたどり着くことができた。
猫の子供の宝物は、悲しみの底にある
ここまでうまくことが運んだ要因としては、依頼人の母
彼女は霊感探偵としての
場所の記憶は曖昧だったが、
どこか脳天気で頼りない
そして何よりも、
信頼関係というこの仕事では必要不可欠で、最も築くのが困難なものが初めからほぼ完成していた。難易度で言えば最も簡単に解決できる問題だった訳だ。
この調査は、多くの縁に導かれて解決に至った。
ゆっくりと深呼吸する。
思考する。
……やはり、無理だ。
全く別の事柄について判断するなり、
「もしもし、
「おう、どうした」
中年にして尚エネルギッシュな男の声が返ってきた。
「
「そうか! がっはっは!」豪快な笑い声に鼓膜を貫かれ、部下は思わずスマートフォンを耳から遠ざけた。「お疲れさん!
「はい。依頼人を立派に支えていらっしゃいましたよ。ヌクも元気でした」
「そりゃ良かった! ありがとな!」
「それで、今回の依頼の報告書なんですが、明日は休んで、月曜にまとめます。霊視をして、疲れてしまって」
普段は調査完了した翌日は報告書をまとめるのだが、今は極度のけん怠感に加え吐き気もある。やり過ぎた。依頼人の前で、よく耐えたものだと自分で思うほどだ。この不調は一晩の眠りでは抜けないどころか、更に体調を崩す可能性もあった。
このことから、
今週の
「わかった! 明日はゆっくり休め!」
「ありがとうございます。今日は、このまま直帰します。よろしくお願いします」
「おう! お疲れ!」
「お疲れ様です。失礼します」
通話を切ると、急に静けさを意識した。所長の声が大きかったことと、一仕事終えた達成感からだろうか。
シートに全身を預け、まぶたを閉じる。
彼女に
そうだ、猫と言えば刑事の
休むことを連絡しておかないと――
思考は、まどろみに溶けて消えた。
サイレントモードにしたままのスマートフォンに着信がきていることにも、気がつきはしなかった。
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