1―36 あんたはぼーっとしてるから

「ところでさ」たかしは振り返る。「母さん、どこであの人と知り合ったの?」

 問を向けた先は霊感探偵とのつながりを作った張本人 清子せいこだ。


 清子せいこは、抱っこしている真衣まいをゆっくり揺らしながら、考えるように沈黙する。真衣まいあかねに手をのばしたので、彼女は義理の娘に孫を預けた。

 それから、答える。

「私が、芳川あのこの最初の依頼人だったのよ」


 その夜、母 清子せいこは夫の死を切っ掛けに起こった一連の出来事を息子夫婦に語った。

 たかしは母と霊感探偵との関わりを理解する。芳川よしかわが父 寛太かんたが死去していることを知っていたのにも合点がいった。


「先に言ってくれれば、俺も最初から信じたのに」

 たかしがぼやくと、母は「ふん」と口をとがらせる。

「霊視は必ず成功するとは限らないって話だったでしょう。下手に期待させたら、勢いであることないこと言いそうじゃないか。

 あんたが正直に芳川あのこに話ができるよう仕向けた方が、うまくいくと思ったんだよ。

 あんたはぼーっとしてるから、ちょっとは緊張感がないとね」


 息子は何も言い返せなかった。

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