1―34 事故の真相
実際に
それでも、
しかし交番の防犯カメラに記録された通り、彼は横断歩道へ踏み入った。
キョロキョロと周囲を見回したのは、親を探していたからではない。
青信号になったから、上級生に指導された通り、左右確認しただけだ。
彼が交差点を渡ろうとした理由は、公園の南にある自宅を目指したからではない。
その先に、コンビニがあったからだ。その店頭には、「トイレ利用可」を示すマークが掲げられていた。
「コンビニに父がいる」と思い、横断歩道を渡ったのだ。
そして、父を呼び戻そうとしていた。
帰りたがっている妹のために行動していた少年は、
偶然でも気紛れでもなく、
それ以外の選択をする余地などない中で、
あの場所にいた。
これが、彼が事故に巻き込まれた真相であった。
「
事故に巻き込まれたのは不幸でしたが、決して、御両親を恨んでなんかいません」
部屋は静ひつに包まれた。
沈黙を守る
「そうですか」口火を切ったのは
彼は言葉を続けようとするがたちまちおえつとなり、そのまま泣き崩れてしまう。
この2人は事故以来、ずっと責められていた。
それこそ加害者と同じぐらい。そして、もっと陰湿に。
テレビ番組やインターネットのコメントは、すべて勝手なものだ。
これさえしていれば――
もっと、こうあるべきだった――
こんなことすらできなかったのか――
加害者も被害者も、時には関係者まで、相手が弱っていると知るや理想論を堂々と掲げて追い詰める。
しかし当事者は、そんな雑音の比にならないほど大きな罪悪感を抱えているものだった。
もうどうすることもできない後悔に、繰り返し襲われる。
そしてその度に、帰らぬ人の心に思いをはせる。
一緒に過ごした日々が、積み重ねた確かな幸せのすべてが、刃となって心に突き刺さる。
しかしそれらは、自身が、あるいは他人が勝手に生み出した無意味な裁きに過ぎない。
所詮は幻想。どうにか受け入れたとしても、何かの拍子に不安がよみがえれば、果つる底なき罪悪感の闇に飲み込まれる。
だから遺族は、故人によって「遺された想い」と向き合わなければならない。
何者かの理屈ではない、確かに存在した事実をもとに、考え、納得しなければならない。
それが救済の光であろうと断罪の闇であろうと、
遺された人の思い出だけが、故人の本当の想いを知っているのだ。
ありもしない罪に苛まれる人達に事実を届けることで、故人と正しく向き合う手助けをする。
それが霊感探偵の使命だった。
いつでも誰にだって起こり得るすれ違いをしたに過ぎなかった。
記憶を頼りに父を追う彼が、父を嫌うはずがないではないか。
身重の母を気遣う彼が、母を恨んでいるものか。
ヒーローや怪獣に混じって何度も描かれているのは猫の絵だ。
うまく描けない時はグシャグシャにして、何度も練習した。
リアルに上手に描きたいのではない。
幼児服のイラストにしたい。
妹の好きな絵を描きたい。
小さな兄は、直向きに妹を大切にしていた。
妹を邪険にしたこともなかった。一度だって、なかった。
まだ幼い彼は、後悔を通じて理解した「本当の宝物」を、大事にしていたのだ。
悲しみに暮れる中で見落としていた想いを知ることで、
両親はようやく、最も重い罪から解放された。
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