宝箱の謎

1―11 事故の概要

 依頼人 浅野あさの たかしの第一子 真仁まさとは、今年4月に小学1年生になった。新しい環境で友達を作り、集団登校で上級生に引率され、勉強も、幼稚園児の頃から続けている習いごとも楽しんでいた。

 時にはやんちゃが過ぎる部分もあったが、4つ下の第二子の妹 真衣まいを大事にしてくれる良い兄だった。これからも頼れる兄として苦労しながらもピカピカの将来を楽しむのだと、両親と、きっと本人も思っていた。


 しかし先週の土曜日、4人で上野うえの公園を散歩していた時のこと。「帰ってゲームがしたい」といつまでも愚図った真仁まさとに、あかねは「じゃあ一人で帰りなさい」と言ってしまった。真衣まいを抱っこしてあやしながらだったため、真仁まさとに構い続けることができなかった。


 すねた真仁まさとはリュックサックを背負って散歩道を歩いて行ってしまった。ベビーカーを押しながらでは追えなかったのもあり、あかねは「すぐに戻ってくるだろう」と高をくくってその場に留まった。トイレに立っていたたかしが戻りしな真仁まさとと会って連れてくるだろうという期待もあった。


 しかし10分後にたかしが合流した時も真仁まさとは戻らず、たかしが園内を探し回っても見つけられなかった。彼が警察を頼ろうと交番へ向かった頃、彼の目指した交番のその先で、歩行者の行き交う横断歩道に1台の乗用車が突っ込んだ。

 真仁まさとははねられた数名の内の1人で、緊急対応も虚しく搬送先の病院で息を引き取った。


 これが、彼らを取り巻く事故の概要である。

 子をうしなった夫婦に同情する声がある一方、ネットやテレビのコメンテーターからは小1児童から目を離したことを責める意見も放たれていた。入院中の加害者が身元も情報も保護されているために、入手しやすい被害者側の情報ばかりが拡散された挙げ句、細かい部分をやり玉に挙げられたかたちである。


 そんな失意と後悔に苦しむ夫婦は、やむを得ない事情から、

 霊感と冠する探偵 芳川よしかわ 亮輔りょうすけを頼ったのであった。

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