6.

「や、やっと倒した……。」


アクトは肩で息をしながらその場に座り込む。


総計30発ほど撃ち込んだところ、ようやくスライムの魔石を割ることに成功する。

魔石が割れたスライムは、先ほど同様に霧散して消えてしまう。

スライムがいた場所には割れた魔石が転がっていた。


「お疲れさま。 どう?自分で魔物を倒してみた感想は」

「……これ以上強い魔物と戦える気がしないぞ」


スライムはあまり動かない上に攻撃をしてこないので、時間を掛ければ倒せるだろう。

だが、ドラゴンを初めとする魔物は、当然攻撃を仕掛けてくる。


「大丈夫よ。 街道の近くに出るのなんて、スライムくらいだから。」


今から目指してる山頂は街道から離れてるけどね、とミシェは付け加える。

街道から離れつつある現在はあまり意味の無い情報のようだ。


山の上を見上げると、やっと7合目。

街道が5合目辺りだったので山頂まであと半分というところだ。

当然、目的である相棒のナナが見つかれば山頂まで行く必要は無いのだが。

山頂に黒いドラゴン……黒帝竜が出る可能性があるのも排除しきれない。


夢に現れたあのドラゴンに比べればスライムの相手など簡単なものだ、と思いながらアクトはシリンダー銃の引き金を引いた。


「でも、魔法道具に詳しい人ほど変な魔法道具を持ってるから、 時計屋クロックメーカーなんて、もっと変わった魔法道具持ってると思ってたけど。 シリンダー銃なんて割と普通なのね」

「んー。 カスタマイズしすぎると逆に不便になるからな。 結局、一般的なものの方が汎用性高いし便利なんだよ。」


とはいえ自分が使いやすいように改造はしてるが、とアクトは付け足す。

ただ日常生活で武器として使用する機会は皆無なので、射撃の腕は見ての通りである。


「っていうか、あのスライムって何なんだ? 魔物って生き物っていうけど、そんな感じもしないし、やけに大量にいるし……」

「さぁ?旅人の間で便宜上スライムって呼んでるだけ。 魔力の集合体だの、死んだ人間の怨念だの色々と説はあるらしいけど、お偉い学者サマの間でもよく分かってないみたい」


スライムは、生物のように動きはするが、寝食をしたり他の個体と意思疎通は行わないという。

しかも人間に攻撃してくることもあるが、そのブヨブヨとした身体のせいか、少し衝撃を感じるだけで攻撃力は無い。

分かっているのは、放っておくと魔力溜まりという面倒なものになるという事だけ。


街の外には変わったものもいるんだな、と思いつつアクトは向かってくるスライムをシリンダー銃を撃ち倒していった。

相変わらず、命中率が低くスライムに全然当たらないが。



スライムが出る以外に道中に問題は無く、とうとう山の9合目に差し掛かる。

上を見上げると、山頂が目視できる距離になってきた。


「割と上がってきたけど、こんなところまでアンタの相棒来れるの?」

「んー、ナナは身軽ですばしっこいから、全然あると思うぞ。 そもそも、ここ一本道だから、途中にいたら流石に分かるだろ」

「それもそうね」


二人の進む道は、崖を切り崩してできた足場の悪い岩場や石階段だ。

だが、たまにスライムの出現するのは小さな平地だ。

見晴らしがよいため、安全に上がる事は容易で不意打ちされることはない。


「ま、落ちて無ければ、だけど」


道の横を見下ろす。

山頂が近い事で、当然標高も高い場所だ。

それに合わせるように、少しずつ寒くなり、風も強く吹いてくる。

道には柵も無いため、足を滑らせればそのまま最初にいた街道の所まで落ちてしまうだろう。


だが、アクトは「ナナなら落ちても大丈夫だから」と特に気にする素振りも無く

山頂への歩みを進めるのだった。

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