5.

「うわー!なな、何だアレ?!」


山頂への道は、旧街道と呼ばれるだけあって、人の手で多少は整備されたものだ。

ただ暫く放置されているため道である石段はところどころ崩れていたりしていたので、気を付けて登っていく。


アクトとミシェが細い石段を登り少し開けた場所に出ると、それはいた。

黄緑色の半透明のブヨブヨした物体。


「スライム見るのは初めて? 街道からだいぶ離れたから、魔物除けも無いしフツーに魔物出るわよ」


ミシェの言葉に、アクトは街道は魔物除けがあり魔物に襲われる心配が無い、という話を思い出す。

馬車に乗ってる間も魔物とは無縁だったので、つくづく街道は凄い、と感心…もとい現実逃避をする。


「ま、魔物ってどうするんだ、戦うのか?!逃げるのか?!」

「無茶しなきゃ大丈夫だから、落ち着いて。」


ミシェが右手を翳すと、中指にある銀の指輪が光り身長ほどの長さの槍へと姿を変える。

指輪型の魔法道具か、とアクトが珍しそうに言う。


魔物と戦う必要があるので、旅人は基本的にが何かしら武器を持っている。

だが、変形する魔法道具は高価なもので、ましてや指輪から槍のような大きなものに変形するとなると、更に稀少性は上がるだろう。


慣れた手付きで槍を構えたミシェは、半透明のブヨブヨ……スライムに向かって槍を突き刺す。

見た目に反しスライムに槍が突き刺さるとガリッという音がして、溶けるように霧散していく。

その場には、灰色の小石が転がっていた。


「消えた……。」


魔物は倒すと魔力となって霧散する。

本の知識はあったが、アクトが初めて見るその光景は不思議そのものだった。


ミシェは当然とでもいうように槍を横に振り指輪に戻し、足元に転がった小石を拾う。


「ま、こんなものね。 これが魔石って言って、魔物を退治した証みたいなものよ。 旅人組合に持ってったら換金してくれるから、魔物を倒したら拾っとくのをオススメするわ」

「ふーん、こんな小石がなぁ。」


手渡された小石をアクトは不思議にそうに眺める。

微量の魔力は感じるが、その辺に転がっている石とあまり変わらないように見える。


魔石鑑賞会をしていると、ガサガサという音がした。

二人が振り返ると、そこにはスライムがはい出てきていた。


「じゃ、次はアクトが倒す番ね。 旅に出るんだから、流石に武器くらい持ってるわよね?」

「あぁ、大したもんじゃないけど。」


アクトは腰に差していた白い銃を取り出す。


「あら、シリンダー銃? あたしが知ってるのとは少し形が違うけど、初心者の武器としては優秀じゃない」


シリンダー銃というのは、実弾ではなく魔力の弾を発射する銃。

名前の由来ともなっているシリンダーと呼ばれる魔力を液体状にしたものが入った容器をセットする事で、シリンダーの魔力がある限り弾丸を撃ち続けられるため、万人に人気の武器だ。


ただ、アクトの持っているシリンダー銃は銃口の近くに突起物があったり、背の部分にパネルが付いていたりと細部が市販品と異なるものである。

色々と変わった仕掛けがあるのだが、どれも武器として使う仕掛けではない。


「じゃあ、スライムを倒してみましょうか。 魔物の弱点は魔石よ。壊せば倒せるわ。」

「倒さなきゃダメなのか?」

「旅人のマナー、スライムを見かけたら倒すべし。 スライムは放っておくと魔力溜まりっていう面倒なものになるから、可能な限り倒さないと」


魔力溜まりとは、魔力の濃度が高く人体に悪影響がある池のようなものだ。

通り道にそんなものがあっては確かに困る、とアクトはスライムの方を向く。


じっとスライムを見つめると、半透明のブヨブヨの中に魔石が浮いているのが見える。

シリンダー銃を構え、狙いを済ませる。

幸い、スライムはあまり動かないので狙いを定めるのはさほど難しくは無かった。


ダンッ!


引き金を引き、魔力の弾が放たれる。

だが、狙いであるスライムの魔石を外れ、ブヨンという音と共に弾はスライムの体に溶けていった。


「あら、外れちゃったわね。 ま、慣れないと難しいものよ、もう一回やってみましょ」


ダンッ!ダンッ!


2発放つ。

先ほどと同様にブヨンと音が鳴るだけで、魔石は無傷のままだった。

しかも1発はそもそもスライムに当たってない。


「全然当たる気がしねぇな……。」


ちらっとアクトがミシェを見ると、笑顔で親指を立てる。


「旅人のマナー。初心者にスライムの倒し方を教えるべし。 という訳で、レッツトライ♪」


旅人のマナーというのは時に初心者に厳しいようだ。

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