7.

「山頂に着いちゃったわね」


旧街道と呼ばれる足場の悪い岩場の道を登ること数刻。

アクトとミシェはスライムを倒しつつ山頂へとたどり着いた。


山頂は、小石を敷き詰めたような殺風景な場所が広がっていた。

晴天ではあるが、冷たい風が吹いており肌寒い。

二人は進みながら辺りを見回すが、当然とでもいうように誰の何の姿も見えず、ジャリジャリと小石を踏む音がするだけだった。


「何も無いけど、変な雰囲気は感じるわね。」


ミシェが辺りを見回し、青空を見上げる。

先程まで少し歩けば出てきたスライムの一匹すらいない。


(ここは……)


アクトは、今回の旅で生まれて初めて街を出た。

当然ながら、こんな辺鄙な場所に来るのも初めてだ。


だが、この小石を敷き詰めたような場所、景色にひどく見覚えがあった。

そう、馬車で見た夢の中で黒いドラゴンに襲われた場所──


「ミシェ、ここだ!」

「ここって?」

「夢で見た、黒いドラゴン……黒帝竜に襲われた場所だ!」


ゴウッと、突然強風が吹き荒れる。


そして、晴天だった空に暗雲が立ち込めていく。

風向きに関係なく、山頂付近に渦を巻きながら集まってくるような、違和感のある暗雲。

暗雲が見る間に広がっていき、山頂に巨大な影を落としていく。


「なんだアレ、黒い雲が段々大きくなってる?!」

「黒帝竜が現れる前兆みたいなものよ。 どうやら、アクトの探し物より先にあたしの目的の方が先に達成されそうね」


ミシェが左手をかざすと、中指にある指輪の虹色の宝石が輝き出し、先程まで使っていたものとは異なる槍が現れる。

神々しい白銀に輝くき、聖槍と呼ぶのがふさわしい槍だろう。

刃の部分に荘厳なレリーフな刻まれており、金糸雀色の飾り布がはためく。


だが、魔法道具の専門家である時計屋クロックメーカーのアクトが気になったのは、平時であれば目を引くだろう意匠や荘厳さではなく、その強度だった。


(かなり使い古した魔法道具だな…いつ壊れてもおかしくねぇじゃねぇか)


どんな人が見ても、普通の魔法道具ではないのは一目瞭然だ。

だが、壊れてしまえばどんな道具もそこまでである。


ピシャーン!!


突然、辺りに爆音のような大きな音が響き渡り、暗雲から、狙い済ましたような落雷が山頂の岩に落ちる。


そして、空から、巨大な物体が現れる。


「……アクト、離れない程度に下がっててね」


ミシェが槍を構える。

そして、暗雲の中からその黒い巨大な躯体が降りてきて、姿を現した。


巨大な翼に牙、鋭利爪と尾、傷の着いた角。

夢で見たものと寸分違わない姿。


黒いドラゴン……黒帝竜が、現実に。目の前に。現れた。

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