43話 魔王

結界が溶け、洞窟が光りだす。


すると、大きな門が現れた。


これが、ダンジョンの入口だろう。


「兄貴っ! やりましたな!」


「ふぅー! 疲れましたぁ!」


「コンッ!」


「ふぇ〜! 怖かったですぅ!」


全員の様子を確認するが、大怪我をした者はいなそうで安心する。

ひとまず、盾になってくれたアイザックの傷を癒す。


「みんな、よくやってくれた。どうやら、門番を倒したことでダンジョンが現れたようだ」


「これがダンジョンですの?」


「……そうか、行ったことないのか」


「わ、悪かったですわね」


「いや、仕方ないさ」


本来のイベントでは、エミリアや弟達はダンジョン攻略をしていた。

俺に対抗する力をつけるために。

しかし、強くなりすぎても困るので俺が先回りして攻略したんだっけ。

それにギリギリで負けるようにしてたから、こいつらもそこまで強くなる必要もなかったし。


「それで、どうしますー? このまま行きます?」


「いやいや、無茶だろ。まずはダンジョン発見をしたなら、そこを中心に陣地を作らないといかん。幸い、この辺りにダンジョンを狙うような者はいない。このまま、放っておいて平気だろう」


「まあ、こんな辺境の奥にありますしねー。それに、入ったところで……多分、これの難易度高そうですし」


「まあ、ゴーレムが門番としていたくらいだ。それなりに期待はできそうだな」


門番がいること自体が、ランクが高いダンジョンの証明でもある。

そしての強さのゴーレムがいたなら、その難易度は押して知るべしってやつだ。


「じゃあ、一回洞窟に戻りますかい?」


「ああ、そもそも食材も放置してるしな。あれを都市の連中に配りつつ、ダンジョンを見つけたことを報告するとしよう」


「へいっ! では、俺が腕によりをかけて作りますぜ!」


「ああ、期待している。さあ、カリオン達の元に戻るぞ」


その後、洞窟に戻り、報告をすませる。


そして俺達は、都市へと帰還するのだった。



そして野宿を挟み、翌日の夕方に都市に帰還する。


「さて、疲れているところすまないが手分けして作業するか。俺は家々に火を灯しに、エミリアは水が減っているから補充、アイザックは料理の準備、ニールはセルバの解体、カリオン達は人々に帰還とこれからの予定を伝えてくれ」


「あれ? 私は? のんびりしてていいですかね?」


「許さん。お前は館に行って報告だよ」


「はーい」


それぞれが疲れた体に鞭を打って別々に動きだす。

俺もフーコを連れて家々を回り、暖炉や魔石に火を込めていく。


「魔王様、いつもありがとうございます。おかげさまで、最近は主人共に体調が良くて……」


「気にするな。その代わり、きっちり働いてもらおう」


「はい、もちろんですわ」


そんな感じで次々と訪問していく。

最初に来た頃は生気のない顔をしていたが、最近は明るく笑うようになったと思う。

まだまだ建物や道の整備も出来てないし、やることは山積みだが……それでも、見た目以上に変わってきてるのかもしれない。


「ふぅ、こんなものか」


「コンッ!」


「ん? どうした?」


「ククーン……」


「……腹が減ったか?」


「……!? コンッ!」


どうやら、合っていたらしい。

俺も腹は減っているので、屋敷に戻ることにする。

すると、すでに屋敷の前には人だかりができていた。


「魔王様! お帰りなさいませ!」


「ご無事でなによりです!」


「なんでも、今日もお土産あるとか!」


「まあ、落ち着いてくれ。食事の前に説明するとしよう」


人波をかき分け、屋敷の中に入る。

そして自分の部屋に戻ると、アイザックのニールを除く主要メンバーが揃っていた。


「ダイン、リース、帰ったぞ」


「アルス様、お帰りなさいませ。ご無事の帰還、喜ばしい限りです」


「無事でなによりじゃわい」


「それで、話は聞いたか?」


ふむ、ユキノ殿から話は聞いておる。ようやくダンジョンを見つけたのじゃな?」


「ああ、そうだ。ここからは、お前達の力がより必要になってくる。ダンジョン攻略は、そんなに生易しいものじゃないからな」


ダンジョンは迷宮となっており、下に行くつれて難易度が上がっていく。

罠や仕掛け等もあり、魔物や魔獣達もわんさかいる。

特に、この世界にはアイテムボックスがない。

そうなると補給の面が、一番大事になってくる。

武器防具の消費、食料、交代要員など。


「うむ、ワシらの腕の見せ所じゃな。ダンジョン内に砦や村を作らんといかん」


「では、エルフ族はダンジョンの外を守りましょう。我々にとって森は庭みたいなものですから」


「ああ、そうなると思う。カリオン、お前達にはユキノと共に斥候をお願いしたい」


「はっ! 我々におまかせください!」


「ああ、頼む。実際の戦闘は俺達が請け負い、ボスを倒していく。そのためのサポートをお前達に任せよう」


エルフ族リース、ドワーフ族ダイン、獣人族カリオン、それぞれの代表者が頷く。

決して戦闘向きではない種族だが、補佐役としてこれほど頼れる存在はいない。

戦闘向きである鬼族がいれば話は別だが、あいつらには会いたくないし。

……戦闘狂で、強い者と死合うのが好きとか。


「ご主人様。つまりはダンジョンへの道を整備して、都市とその間に村とか街を作るって事で?」


「そうなるな。安全の確保ができ次第、住民達の移住も考えている。そうすれば中継地点になるから商売の面でもいいし、護衛や管理もやりやすくなる」


「そうですねー。魔石を配ったりするのもコストがかかりますし」


「なにより、もし……仮に何者かが介入してきたときに、まとまっていると色々と都合がいい」


「あぁー……そうですよね」


「まあ、そんな感じでこれからやっていくつもりだ」


すると、タイミング良く夕食の準備ができたと知らせが入る。

俺達も準備を済ませ、一階のホールに向かう。

そこにはすでに人々が集まり、俺達に視線が集まる。

その視線を感じつつ、俺は壇上に上がる。


「えー、集まってくれて感謝する。簡単に言うと、ダンジョンが見つかった」


「おおー!」


「これで魔石が手に入るのですね!」


「我々にも暖房というものが!」


「食材も手に入るわ!」


俺がすっと手を挙げると、一気に静寂に包まれる。


「そう言うことだ。しかし、そのためには諸君にも頑張ってもらわないといけない。ダンジョン攻略は、都市一丸となって行う。なので、俺に力を貸して欲しい」


「頭をあげてください!」


「我々でよければ何でも仰ってください!」


「そうですよ!」


そんな声があちこちから聞こえてくる。

ひとまず、やる気はあるようで安心だ。

俺達に負んぶに抱っこでは、いずれ破綻する。

最悪、俺たちいなくても回るくらいにはしないと。


「感謝する。それが進めば、魔石も手に入り暖房機器も作れるだろう。明日から本腰を入れていくつもりなので、お主達もそのつもりでな。そして今日は英気を養ってもらうため、パーティーをすることにした。大人の男達はここ、子供と母達は座れる食堂に行ってくれ」


入り口に目配せすると、カリオン達が動き出す。

声をかけたりして先導して、人々が移動を始める。

入れ替わるように、こちらの部屋に立食パーティー用のテーブルと皿が用意されていく。


「さあ、ここからは自由だ。食べたい者、話したい者、自由にするといい」


「「「ありがとうございます!!!」」」


皆が一斉に食べ始め、ワイワイと談笑を始める。

寒さに震えることもなく、皆が笑顔だ。

俺は壇上の椅子に座り、それを眺める。

すると、ユキノが皿を持ってやってきた。


「ご主人様ー、降りないので?」


「ああ、ここでいい。こうして見ていると……何やら心が落ち着く」


「えへへ、そうやってると本当の魔王様みたいですね? こっから、ふんぞりかえって見下ろす感じ」


「何を言って……そうか」


その時、ふと気づいた。

黒のマントに黒の貴族服、高い位置から足を組んで椅子に座って人々を眺める。

そして傍らにはヴァンパイア……うん、魔王っぽいな。


「えへへ、魔王様? 私を好きにしてもいいんですよ?」


「はっ、そうか。なら、しこたまこき使ってやる」


「むぅ、そういうのじゃないですってば」


「ちょっと!? 何をしてますの!?」


「あらあら、先を越されたかしら」


「なんでお前らまで壇上に上がってくる!?」


足元にリースが寄りかかって座り、右肩にはユキノがしなだれ、左にはエミリアがいておずおずと服の端を掴んでいる。


「むむっ、正式に参戦ですか」


「ふふ、そういうことになるかしら」


「わ、私は二人を止めにきただけですわ」


何やら三人の間に火花が見える。

さっきまでの居心地の良さは何処へやら、背中が寒くなってくる。

すると、眼下で笑っている奴らを発見する。

ダイン、カリオン、ニール、アイザックがいた。


「待て待て、なんの話だ。というか、お前達も見てないでどうにかしろって!」


「ふぇ〜! わたしには無理ですぅ!」


「兄貴、諦めましょうや」


「主人殿は女傑に好かれる運命のようだ」


「がははっ! 魔王様にはちょうどよかろう!」


「ったく、他人事だと思って……」


だが……悪くないと思う自分がいる。


これまでやってきたことは誰にも賞賛されることなく、ただひたすらに孤独に耐える日々だった。


それが今は、こうして目の前に結果がある。


わけもわからないままゲーム世界に来て、勝手に悪役にされた。


クリアした今、これから先に何が起こるかわからない。


ただ……この景色を守るためなら魔王にでもなってやろう。


そう、決意を新たにするのだった。










~あとがき~


いつも本作品を読んでくださり、誠にありがとうございます。


ひとまず、これで書籍一巻分が終了となりました。


あとはコンテストに出したり、二部を作成したりいたします。


「田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに高貴な人が寄ってくる~」


https://kakuyomu.jp/works/16817330666079944517/episodes/16817330666280823857


という新作も出しているので、よろしければフォローして読んでくださると嬉しいです。


それでは、引き続きよろしくお願いいたします🙇‍♂️

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悪役転生の後日譚~破滅ルートを回避したのに、何故が平穏が訪れません~ おとら@五シリーズ商業化 @MINOKUN

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