第49話 洋風焼つくね鍋
寒い季節は、炬燵にお鍋。みかんじゃ腹は膨れない派、山科 楓です。
人目がない、おニューの調理器具を備えた、今の私に死角はない。
「いや、お前少しは遠慮しろよ」
「誰に?」
旅の間、今までは座れればいい石と焚火に固定できる程度の簡易竃しか作ってこなかった。が、材料もフライパン、鍋、まな板まで揃えた今、竈はそれなりに使いやすいもんがいい。ご飯もちゃんと椅子とテーブルを所望する。
と言うことで、土と氷魔法で本格使い壊し?テーブルセットとアイランドキッチンを用意した。元々火は魔法で強弱調整できる。それにルアーク来るまでに気付いた。私、薪要らないじゃんって。水道もな。普通は魔力節約のために着火して、燃料になる物が要るけど、私は火魔法点火継続しても魔力あるし。谷とか、街中とか薪拾わずに済んでラッキーだった。
出来上がった野外キッチンに満足していると、呆れたウォルフが突っ込んできた。が、キャンプ気分を味わうのも良かったが、私は便利文明お家キッチン属だ。
「さ、やろう」
私は薬缶にお湯を沸かし、鳥系の骨を準備する。ウィンドバードの肉、タマネギ、ニンニク、塩、コショウ、バターを用意し、肉をミンチに、タマネギ・ニンニクをみじん切りにすると、ボウルに調味料を入れ混ぜた。ミンチは大目に作って、取り置きしよう。
その間湧いたお湯で、血合いはなかったけど一応骨を洗い、鍋に水を張る。骨を入れる前に。
「グラン、これ折れる?」
「あぁ」
出汁を取りやすいかと馬鹿力のグランにボキボキにして鍋に入れてもらい、水から火をかける。何か(灰汁)浮いてきたら掬い取る様にお願いし、あとを任せた。
野菜類はニンジンと、残念ながら白菜はなかったからキャペルと呼ばれていたキャベツっぽい葉野菜、タマネギを用意。ニンジンはちょっと遊び心を加えて花形に、キャベツはざく切り、タマネギは4等分で歯ごたえを持たせることにする。
「せめてブイヨン作りたいけど、時間も材料もまだ足りないし・・・。セロリとパセリ抜きでもいけるか?でも長時間付きっ切りにならないとだしな。パッと魔法みたいに・・・作れるかも?」
私は好奇心に万能保管庫を試す。Lv upで素材枠が5つに増えた枠へ材料をセット、合成・・・。
「タンタカタ~ン・タンタンタン・タンタカタ~ン。おお~あたり~」
「何やってんだよ、お前」
「私は今、大いなる賭けに勝利した!!」
「大丈夫か、こいつ」
「カエデは、如何してこんなに仕草が可愛いんだろうな」
「ダメだ。大丈夫な奴が一人もいねぇ」
私は外野を無視し、それを更に素材と掛け合わせると言う2段階合成にチャレンジ。神は、まだ見放していなかったのかもしれない。そっと壊れものを扱うが如き動作で取り出したるは、“固形コンソメ”。素材不足してるし、使った肉魔物だけど。また時間ある時にじっくり色々最適解を模索するけど。我が勝利は、此処に。
やったぜ、これで料理の幅と何より質が断然上がる。思わず鼻歌を歌いながら、グランに任せていた骨出汁から骨を取り出して、コンソメと塩コショウ、白ワインを少し加え、具材を入れ煮込む。つくねは片栗粉をまぶし、フライパンにオリーブオイルを敷き一旦香ばしく焼き上げ、ニンジンに火が通った頃に加えて少しスープと馴染ませる。木工屋で買ったお玉を使いかき混ぜながら味をみて、最後に粗挽きのコショウをパラッとかければ。
「はい、できた。洋風焼つくね鍋」
味付けはオリジナルだけど、不味くはない・・・はず?
私は両脇から鍋をじっと覗き込む2人に深皿を用意させ、布を出すと鍋をテーブルに運ぼうとした。
「カエデ、それは俺が」
「じゃ、よろしく」
どうせ壊すから鍋敷きは不要だし、どうせならととろ火が起きるようテーブル中央を魔法コンロにして、夕ご飯にありついた。
「「「いただきます」」」
暖まるなぁ。幻想的な雪と氷の広場で、寒さを感じずに暖かい鍋をつつく。あぁ、私は今最高の贅沢を噛み締めています。タマネギも透明になるまで煮込んだから美味しい。
「カエデの作るものは、本当にどれも美味しい」
「でも、何かこれ今までのと全然違くね?なんか、スープが・・・深い?」
「こういうのは、コクがあるって表現するかな」
「コクがあって、マジうめぇ。俺、これ好き」
「あぁ。美食の神がいれば、カエデの様な姿なのだろう」
パンが欲しいな。流石にパンは万能ちゃんではできなかった。法則が今一つ分からないけど、パンは手作りするしかないとなると、時間がそれなりにかかるから街では作れなかった。時間を取れる階層まで移動したら、今度こそパンを作ろう。
「ウォルフはお代わりいる?」
「いる!」
「カエデ、俺は?」
「グランは勝手にしなよ」
「何故だ!?」
「グラン、言動が気持ち悪いって言われたことない?」
「・・・直そう。カエデにそう思われるくらいなら。言動を、見直す・・・・・・・だが、カエデへの賞賛を控えるなど、俺にできるだろうか」
「死神、諦めろよ。お前には無理だって」
「大丈夫。私はもう諦めた。顔が良くて良かったな、親に感謝しろ」
イケメンは苦手だが、これで顔が並以下だったら捨てて行く。顔がいいけど、中身が残念だから許してやってもいい気になるものがあるのだと、生まれて初めて見た実例だった。
その後十数分で鍋は綺麗に空になった。食器類をクリーンして収納後、簡易ダイニングキッチンを均し、出発の準備置整える。
いよいよ扉の前に立つと、私は見上げる氷の扉が開く瞬間を待つ。
「では、行くぞ」
グランが扉に手を着くと、刻まれた魔法陣が光り・・・。
「って、開かんのかい」
気付けば16階の沼地に立っていた。“お約束”は、異世界にも通じるものがあるのかもしれないと知った瞬間だった。
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