第50話 ダンジョン16層目
16層は、木々の林立した水草の覆う沼地だった。沼と聞くと、底なし沼とか泥沼を想像してしまっていたが、予想より水質は良い。が、土地らしい道が見当たらない。
「・・・・・・・・・なんか、何もしてねぇのに汗かく。いや、これ汗か?」
「それがジメッとだよ」
「気持ち悪ぃ」
予告通りわざと魔法範囲外に調整していたから、ウォルフは耳をピルピルさせて気持ち悪そうに上着を脱ごうとする。
「ウォルフ、それ鎧だって言ったでしょ。冒険者は、こういう状況でも防具は脱いだらダメなんだよ」
「俺冒険者じゃねぇもん」
「最もだな。が、脱がない」
「早く魔法入れてくれ」
「しょうがないなぁ。ま、いずれウォルフが他人とダンジョン挑戦するときは、こう言う気候への対策も必要だって覚えておけば?街に住むなら、覚えてないでもいいけど」
「うっす」
私も好奇心から少しだけ魔法を解いてみる。
「あ、でもそう暑さはないな。しめっとするけど」
多分20℃以下ってとこだろう。でも、湿度が高いし、動いたらすぐ汗を掻きそう。ウォルフが汗と言ったのは多分、湿気で肌が濡れたせいかな。
「グラン、ここ道ないように見えるんだけど、如何移動するの?」
今立っている小島的な土地が所々にはあるけど、まさか苔むしてる腐りかけの倒木を橋代わりにするつもりだろうか。
「色々だ。上を通るか、倒木を足場にするか」
「上?」
ここに生えている木は、今までで見たことのないほど大きな木ではある。テレビで見る白亜紀のジャングルっぽい。が、高い。
まさか、これはジャングルの野生児的な。蔦を掴んで、あ~ああ~ってあれをリアルで?・・・喉枯れそう。
「冒険者の人等は普通如何するの?」
「倒木を足場に、あそこに見える比較的土の地面が多いルートまで渡り、大回りに移動する」
グランの指差す方には、確かに土の地面が続く岸部が見えた。マップにも、数少ない亜人種の反応がそっちにある。恐らく土地のあるルートは迂回する分、戦闘向きの足場がありリスクが少なく、野生児ルートはまず実力がある冒険者パーティーでないと移動できないが、階を突っ切れる分早いんだろう。ただ気になるのは。
「上、何かいない?」
「猿系の魔物が多いな。蛇種も」
「やっぱり?下は下で、沼地からの魔物か。どんなの?」
「カエル系、デビルビーバー、魚人。階層が進むと水属性の蛇竜や毒持ちなんかもいるな」
「次の階への魔法陣はどっち?」
「方角的にはここから真直ぐだ。ルートとしては上からであれ、陸地からであれ迂回が必要となるが。木を伝ってのルートはそうまで迂回はしないで済む」
「所要時間は?」
「今までのスピードで進めば、陸地で3日、木を伝って1日半」
「ふむ・・・」
私はグランの靴を見る。
「グラン、靴脱いで」
「靴?」
「そ。ブーツ」
「何すんだよ、靴なんて」
私の突然の指示にグランとウォルフが眉を上げるが、それに答えずグランのブーツ待ちをする。
「両方か?」
「両方」
受け取ったそれを保管庫に収納し、ヴァンガードさんのところで少し貰った不要な鉄くずを錬成し、靴と合成する。
「はい」
「これは?」
「スパイク」
「すぱいく?」
「氷雪ステージでは、グラン凍った地面溶かして移動してたじゃん?でも、ちょっとここからは溶かしてもらっても困るから、滑り止め」
スパイクを知らなかったらしいので、説明と通じそうな言葉に直す。上のステージで、グランが凍った台地を滑らずに走っていられたのは、見た感じ火魔法で呼吸するみたいに足場の氷を溶かしていたからだ。が、それは氷の下に地面があってこそできる対処法でもある。
「何をする気だ?」
「遠回りはしたくない。人目もあるし。でも、私たちはこれ乗ってればいけるけど、グランが木の上行ったら、流石に距離ができすぎる」
枝まで200~300mくらいはありそうだ。となれば、道は一つ。
「ウォルフ、乗って」
「え?おう」
「カエデ?」
走り出す準備をすると、手を前に突き出してイメージする。より精度を上げるため、きちんと魔力を言葉にのせた。
「《永久凍土》」
土ではないけど、まぁ凍った道ってイメージで言えば、途端直線上にある水面と水草が冷気を帯びた。
「じゃ、Let’s Go」
私の合図に反射的に走り出すグランと共に、氷結の道を行く。流石に永久にはないだろうけど、一応念のため少し行ったところで指を鳴らし、後ろの道に火魔法を打ち込む。
全員があの場所から来るのか知らんけど、あの場所に降りてきた後続の冒険者にこれを見られる訳にも、使わせる訳にもいかない。
「・・・・・・・何と言うか・・・・・・・・・・カエデはいつも、予想外を行くな」
「変だろ。ぜってぇ可笑しいって、こいつ」
呆然と呟かれたグランの感想はともかく、ウォルフが失礼なことを言い出した。
「仕方ないじゃん。最短ルート行きたいんだから。あ、何か寄って来た」
「下だな」
「これ、氷突き破れんのかな?」
その間に、早速赤点が寄って来る。が、私が凍らせたのは多分水面から20m分ほどの水だ。幅は5mほどだから横からは来れるだろうけど。今回の敵は水中からしか攻撃できない系だったらしく、暫く付いてきて諦めたようだった。
「そろそろタンデム飽きたし、ここ突っ切らないと寝れないから、魔物は基本結界で防ごう。グラン、このスピードで真直ぐ進めば、所要時間どれくらいとみる?」
私の問いに、少し獰猛に面白そうな顔で笑うグランが答える。
「4~5時間だ」
「食後の運動には丁度良いね」
初めて見る好戦的な種族の顔を覗かせたグランの楽し気な様子に、何となく昔やんちゃしてた従兄の顔を思い出した。
「あ、でも。沼地で寝るってなると、木の上の方が目立たずにいいのか?」
私は結界越しに血走った眼で拳を振るっている猿の魔物の上にある木を見上げる。序でにちょっと悪戯心に、電流が流れるイメージを結界にのせた。
「おい、何だよ今の」
バリバリッとものすごい音に、私も肩を竦ませたけど、ウォルフも驚いたように苦言を呈す。
「いや、ほんのちょっと出来心が」
加減を間違えたらしい。再度の特攻を挑んだ猿が、御臨終召された。私はすまんと双方に謝りつつ、冥福を祈り結界範囲を広げた。ちょっと近かったな。
その後、2度の生贄を機に魔法系の攻撃が来るようになったが、実害がないから良しとした。
「予想外に早くは着いたが、如何する?ここで休んで行くか?」
「そだね。後続組みが来ても大丈夫なように、一応木の上で寝よう」
「分かった」
「俺、ちょっと素振りして寝る」
「ん。グラン、軽く手合せとか付き合ったあげなよ。私ゃ寝る」
ダンジョン内は昼と夜がないから、時間が分からなくなる。体内時計に頼るしかないが、私の脳が睡眠を欲しているからもう夜中に近いはずだ。そう言うことにしておこう。
17層への扉。今度は人が30人で囲める程の大樹にあり、その合わせ扉の表面に、やっぱり刻まれた魔法陣。
これ、内側彫って木の家的になってたら、ファンタジーだったのにと残念に思いつつ、その木に登って眠りに就いた。
■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.12 女 ヒューマン
HP 120/120 MP ∞ SPEED 11
ジョブ:チャイルド
魔法属性:全属性 『上級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』『付与魔法 Lv.15』『特級火魔法 Lv.1』『古代闇魔法 Lv.I』
スキル:『探索(サーチ) Lv35』『審眼(ジャッジアイ)Lv.28』『隠密 Lv.9』『逃走 Lv.5』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『万能保管庫(マルチアーカイブ)Lv.2』『ユニーク:絶対防御』『双剣術 Lv.20』
状態:『若返り』『闘神の加護』
称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』『画伯(笑)』『発明者』『デザイナー』
アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]
所持金 258,110,400ユール
■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人
HP 1,580/1,690 MP 2,600/2,690 SPEED 299
ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕
魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』
スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.82』
称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』
■ウォルフ:(9)Lv.13 男 獣人(狼属)
HP 125/125 MP 39/39 SPEED 194
ジョブ:双剣遣い
魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv7』
スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv5』『掻爬 Lv7』『双剣術 Lv.2』
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