第48話 ダンジョン15層目
人間は、急激な環境変化に耐えられる生き物ではないと言う。だからこそある五月病。ならば万年五月病な私の環境変化耐性は、皆無なのだろうか。そんな繊細な生き物 山科 楓です。「あんたのそれはただの性格よ」ってお母さんに喝入れられたけど。そんなことはない!私にやる気と気力と意欲はないし。まぁ、めまいも不眠も、食欲不振なんて、もちろんないけどな。
「さっむ」
私は3秒解凍で即気温調整が成された。本能だね。無意識魔法万歳。
「言ってよ。先に言ってよ、グラン。心の準備」
「な、なんか・・・なんか変な感じがする」
ウォルフが腕を摩りながら震えて首を傾げている。
「そう言えば、カエデはダンジョンステージのことは何も聞いて来なかったな」
「言われてみれば、出発日とかの情報収集はしたけど、ステージ内容全く聞いてなかったわ。下級ダンジョン入って、ダンジョンの何たるかを知った気でいた。舐めてたダンジョン。マジ舐め腐ってたわ」
「お前、ホント大丈夫なのか?中級ダンジョンの準備何もしてなくね?」
「まぁ、何とかなるかなって」
「なぁ、俺さっきから肌が変なんだけど。これなんだ?俺病気かな?」
鳥肌を見せるウォルフの様子に、私も首を傾げる。
「・・・あぁ。ウォルフ気温変動ない地域で育ったから!雪とか冬とか言っても、知らないわけだ」
そう言えば、この辺りは地域性気候で、基本は季節変わらないって言ってたっけ。ウォルフはそもそも『寒い』と言う感覚がないのからこんな不思議そうなのかと合点がいく。
「それは鳥肌って言って、寒いと毛穴が収縮してそうなるんだよ。今はもう落ち着いたでしょ?私の保温魔法範囲内だし」
「あぁ」
「そう言えば、服屋に冬物売ってたな。これの関係もあんのか」
「一旦戻るか?」
「いや。進もう。あぁでも、ウォルフ」
「おう」
「足場が悪い。その靴じゃウォルフは無理だろうから、乗って」
「え・・・どうやって?」
私はウォルフを後ろに乗せ、後ろからの体重の掛け方をレクチャーする。って言っても、机上論だったけど。まずそうなら、エラーアンドトライするしかない。一応当初2人乗り想定だから、ハンドルもウォルフ用の高い位置と私用の低い位置に設置してある。
「ぶっつけ本番になるけど、曲がる時とか倒し過ぎもまずいから気を付けてね」
「お、おう・・・俺が前じゃなくていいか?」
「いい。このまま行こう」
「カエデ・・・俺も乗ってみたい」
「定員・重量オーバーだし、グラン乗ったら魔石の消費酷いじゃん。却下。これは子供限定です」
引っ付いて2人乗りする私とウォルフの様子に、心なし羨まし気な顔で見るグランに私はちゃんとNoを突き付ける。
「・・・今度、移動用にカウホースを捕まえよう」
「だとしても、一緒乗らないよ?馬は腰とかが痛くなるって聞いてるし」
「・・・カエデ」
「何と言おうと、乗らないよ?」
私は笑顔で却下する。
「ほら、馬鹿言ってないで。出発」
発進する私に、グランも走り出す。暫く走らせ、蛇行して2人乗りでの重心移動も試す。問題なさそうだし、いけるかな。
「《レイス》×3」
「お、おい」
ウォルフが一気に3段階上げる私に慌てるが、2人乗りでスピードが落ちたし、3ギアupでもグランなら問題ないだろう。時速60kmオーバーってとこだし。
「ウォルフ、落ちたらケガするから、しっかりバランスとって捕まってなね。即死はしないと思うけど」
極論死ななければどうとでもなる。私の忠告にハンドルを握る力が強くなったっぽい。
「人がいるね・・・冒険者だろうけど、谷に行かないってパーティーもいたのか」
「あぁ。ルアークをホームにするパーティーは要請依頼を断れないが、流れの冒険者は参加自由だ。スタンピードなら別だがな」
「そっか。かち合わないルートで進むから、取り敢えず次の階へのルート先導お願い。問題あれば迂回する」
「分かった」
このフロアには3パーティーいるようだ。周囲に集まってくる赤点も確認しつつ、グランに続く。
「氷雪ステージはこの階までだって言ってたよね?」
「あぁ」
「それ以下は?」
「16~20階は沼地のステージ、21~25階は火山帯、26~29は夜闇のステージだ」
「湿地に灼熱に闇か。ウォルフは独走無理だな、こりゃ。」
「余り甘やかすのは」
「付与とか足元の補助を付けても、攻略スピードが落ちるのはね。夜闇ステージは下手に光源点けない方が良さそうだし」
「それはそうだが」
私は凍って滑りやすいだろう足場で難なく隣を並走するグランをチラリと見る。
「そもそもさ、グランはどうするつもりだったの?環境対策してないのに、何で何も言わなかった訳?」
「カエデはしっかりしているから、何か考えがあるのだと思っていた。意外だったが・・・そう言うところも、可愛いな」
「言えよ。そこは言えよ。私に常識ないのなんて、知ってんでしょ?そもそものダンジョン事情なんて知らないんだからさ」
「次からは気を付けよう」
「お前、変なとこ無知だけど、異常に頭いいからな。俺でもまさか、お前が何も考えずにダンジョン攻略なんて言い出したとは思わなかったし」
「まぁな。私が知らないことを知らないと気付ける人間なんて、いる訳ないか。ま、魔法で何とかなりそうだから良いけど」
「普通は、それぞれのステージに見合った装備や食糧物資を用意し、斥候や周辺敵策、素材回収をしながら、次の階へのルート探索をしつつ進む。カエデのように魔力で環境調整や物資運搬、周辺敵策を行っていたら、魔力枯渇で死ぬ。魔力を魔石やMPポーションで補ったとしても、莫大な金がかかり借金奴隷落ちだ」
「・・・つぅかさ、お前らこのスピードで、こんだけ話しながらよく魔物相手にできんな」
この会話中、すでに5体の魔物に襲われていたりする。その間、私は魔法で、グランは剣で切り捨てながら素材総無視で前進している。2体は生きてはいたけど追ってこなかったから、仕留めてないけど。
「この調子なら、今日中に下層に進めそうだな」
「次の階はジメッとしてるんだろうな」
「何だよ、じめっとって」
「そっか、梅雨も体験したことないのか。ウォルフ、社会勉強のためにちょっとジメッとしてみる?いい経験になるよ」
「だから、どんなんだよ」
軽口をたたきながら、私たちは最速で先を進む。ルアークまでの旅と違い、ウォルフに話す余裕がある為、氷雪系ステージの装備、グランの以前の攻略時の話なんかをした。
「此処が次の階の扉か」
着いた場所は、雪山の割れ目の奥にある大きな扉だった。そうか、中級ダンジョンは扉が次の階層への進路になってんだ。谷の下級ダンジョンは、立体駐車場形式だったのに。
「映えスポットだわ。観光客呼べそう」
ちょっと雰囲気のある氷の扉に、私は思わず唸る。
此処までおそらく5~6時間。私の腹時計を信じるのなら。
「この周りは魔物が寄り付かない、安全エリアになっている」
「なら、普段は次の階に進む冒険者が屯ってる訳か」
言われてみれば、あちこちに焚火の痕がちらほら。
サーチのマップに寄れば、この階層チャレンジャーはまだ此処まで来そうにない。
「ご飯にしよう。んで、今日はもう少し進もうか。今のところ遅れはない?」
「寧ろ、ここまで来るのにあと半日を見ていた」
「分かった。ご飯作るから、グランはゆっくりしてて」
「俺は大丈夫だ」
「言うまでもないけど、無理してないなら別にいいよ」
グランは自分の限界を知っているだろうから、好きにさせても問題ない。
そうして、私は夕食の準備に取り掛かった。半日雪景色を見て決めている。今日は、鍋にしようと。
■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.11 女 ヒューマン
HP 115/115 MP ∞ SPEED 10
ジョブ:チャイルド
魔法属性:全属性 『上級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』『付与魔法 Lv.15』『特級火魔法 Lv.1』『古代闇魔法 Lv.I』
スキル:『探索(サーチ) Lv35』『審眼(ジャッジアイ)Lv.27』『隠密 Lv.9』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『万能保管庫(マルチアーカイブ)Lv.2』『ユニーク:絶対防御』『双剣術 Lv.20』
状態:『若返り』『闘神の加護』
称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』『画伯(笑)』『発明者』『デザイナー』
アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]
所持金 258,110,400ユール
■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人
HP 1,680/1,690 MP 2,520/2,690 SPEED 299
ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕
魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』
スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.82』
称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』
■ウォルフ:(9)Lv.13 男 獣人(狼属)
HP 125/125 MP 39/39 SPEED 194
ジョブ:双剣遣い
魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv7』
スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv5』『掻爬 Lv7』『双剣術 Lv.2』
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