第47話 ダンジョン 1層目

 トンネルを抜けたら、そこは・・・草原でした。そう言えば、こっちは雪ってあるのか?雨は降ったけど。でも冬季がある地方もあるって言ってたしな。


「は?」


 私は今通って来たちょっと狭暗い洞穴通路を振り返り、再度正面に向き直る。


「ダンジョンは?」

「ここだ」

「でも、谷のダンジョンは普通に洞窟だった。ここ外じゃん」


 青々とした空をバックに緑が美しい壮大な草原風景に、私は首を傾げる。


「中級以上のダンジョンは、中に入っても外と同じような環境空間が広がっている。が、あの空は本物ではないと言う学者もいる」

「へぇ」


 3D立体映像の様なものか。本物にしか見えない空を見上げ、果ての見えない地平を眺める。


「ただ、真直ぐ行くと結界のような階層の壁にぶち当たり、それ以上は進めなくなるから、果ては確かにあるのだろう」

「へぇ」


 確かに、サーチを展開すると途中から黒塗りになっているから、多分ここまでなんだろうけど、1階層でも相当広い。

同じく中級ダンジョン初心者組のウォルフも、口を開けてキョロキョロしている。


「にしても、冒険者か知らないけど、人は結構いるんだね」


 サーチの点在する赤・緑に混じった青点も結構いる。この階層だけで、100以上はいそうだ。


「谷に行ったのは、中堅どころから上だからな。下級冒険者やスラムの人間は、低層階でいつも通り採集や討伐をしているんだろう」

「なるほど」


 風も吹いて、普通に外の世界と変わらないけど、ゲームな世界感覚が強くて白昼夢見てるような気分になる。


「転送陣はこっから近いの?」

「あの崩れた石の遺跡の中央にある」


 指差された先には、グランの言う通り崩れかけの岩の支柱が数本立つ遺跡があった。割かし遠いわりにあの大きさで見えると言うことは、結構でかいはずだ。

 私は早速エアーボードを取り出した。


「1層目なら、俺が抱いて行っても」

「試運転兼ねてんだから、グダグダ言わない。ウォルフ、準備はいい?」

「うっす」

「じゃ、出発!」


 人が多いから半径5mに認識阻害をかけ、進む。途中何か野兎系の魔物とすれ違ったが、フルシカト。素材とか興味ないし、ここで一々足止めてても仕方がない。


「《レイス》」


 試しに出力を上げてみると、スピードが増したけどまぁ問題はなさそうだ。


「《レイス》」


 1回10km上がりってところかなと予測しながら、スピードをさらに上げたところでグランから注意が飛んだ。


「カエデ、あまり離れるな」

「あ、ゴメン。《ノイス》」


 グランはともかくウォルフのスピードじゃ、もう1段上げていれば付いて来れないか。

 出力と共に傾けていた身体を少し上げ、スピードを落とす。あ、これ降りる時、0ギアからノイスって言えば、マイナスギアになるから普通に降りれるかも。

 色々考察しつつ、森と違って眺めのいい草原景色を楽しみながら中間地点に差し掛かろうとした時、流石に無視できない数の狐っぽい魔物に囲まれグランも剣を抜いた。


「カエデは」

「あっちの5頭終わらせるから、そっちの2頭よろ」


 言うと同時に、中域魔法で地面を陥没させ雷を打ち込む。

 グランもさっさと2頭を仕留め、剣を納めるのを確認すると、若干落としたスピードを戻し走り続ける。


「ウォルフ、疲れたんなら休憩する?」


 追い付いて来ないウォルフに尋ねれば、少し呆然と瞬いたウォルフがはっとしてまた走って来た。


「ふ、普通止まると思ったから」

「あぁ。言ったじゃん。私も全力で行くって。1層では止まるつもりない。後30分ないくらいだろうから、このまま突っ切る」

「今の、Lv結構あったんじゃねぇの?」

「いや、いってHかGくらいだと思う。群れてたから、も少し上がるかもだけど。ウォルフでも倒せたよ。時間あったら」

「しかし、カエデの無詠唱での魔法のLvが上がってはいないか?」

「魔法は感覚だからね」


 グラン講座によると、魔法は初級から古代まであって、それぞれ詠唱が存在するのだそうだ。が、熟練度によっては詠唱を短縮や省くこともできる。ただ、火を灯すとか、水を出すとかの基礎の基礎でもない限り、術式名称はどうしても必要で、威力も落ちるのが普通であり、出来て中級まで。それ以上は術が高度で発動に失敗するから詠唱短縮くらいがせいぜいらしい。成功した例は今のところ記録にないとのこと。そして無言での動作のみの魔法発動は、出来る人は本当に一握りでそれでも初級止まりなんだとか。んで、術名のみの発動でも無言でも“無詠唱”と言うんだと学んだ。

 最終結論、私が変だ、異常だ、どっか可笑しいってその日はボロクソ2人に貶された。いいんだ。どうせ私は異常なんだから。異世界なんて、そんなもんだろ。可笑しいもん。もうこの状況からして可笑しいんだから、仕様がねんだよ。

 そんな私が使っていた基本無詠唱はファイアーアローとかウィンドカッターとかゲーム初級しかイメージしてこなかったから、何ができて何ができないのかやってみて初めて分かる身としては、やってみたらできたとしか言えない。


「お前・・・凄いこと平然とするよな」

「褒めても何も出ないぞ。と、そろそろお腹の限界だな」


 数時間前にはお昼を回っていたけど、ゆっくり食べれそうなところが見つからずここまで来たが、もう1時は回ってんぞと私の腹が言っている。


「よし、転送陣付近で腹ごしらえしよう」


 そうして到着した遺跡は、中央に魔法陣が刻まれた、運動公園並みの広さだった。周囲に人はいない。中層階まで行ける人間が出払っていなければ、もしかしたらもう少し人もいたのかもしれないが、とても都合がいい。


「っしゃ。何にしようかなぁ」


 久しぶりに人目を気にせずご飯が食べれる。でもまぁ、時間ないから作り置きになるけど。


「俺、昨日作ってた塩から揚げってやつが食いてぇ」

「あぁ、ならフライドポテトもつけるかな」


 昨日は揚げ物が食べたい気になって、鳥系の魔物肉とポテトを揚げておいた。醤油があれば・・・。まぁない物ねだりしてもしょうがない。


「ほい」


 山盛りのフライドポテトは、腹が膨れるだろう。女の私からしたら多い、成人男性・育ち盛りにとっては少ない量の皿を2人に渡し、私は草原向きに崩れた岩に腰掛ける。


「んじゃ、いただきます」


 うん、長閑だ。ピクニック気分に浸りつつ、久々の油物を味わう。こういうのも、いいな。森だと木しかなかったし。ファンタジー旅行の醍醐味ってのかな。

 ほのぼのとする私の横で、2人は草原を向く私を不思議そうに見て、まねるように両脇に座った。


「「いただきます」」


 大自然を正面に食べだした2人に、多分この情緒は分からないかもしれないが、着る物も食べ物も余裕を持てる旅は、やっぱり心持が違う。この訳の分からない状況になってこっち、知らず状況を楽しむって余裕がなくなってたのかな。でも、そろそろ折り合いをつけてもいい頃なのかもしれないと、私は正面に広がるまるで同じようで全く別の世界の美しさを認めて思った。

 その後食後のブレイクタイムまで終えた私たちは、目的の魔法陣へと立った。


「じゃぁ、行くぞ」

「OK」

「お、おう」


 陣自体はそう大きなものではなく、200mトラックの半分くらいってとこだ。その中央にグランが立ったことで白いウィンドウが現れる。そのウィンドパネル的なものにグランがタッチした瞬間、景色が一変した。


「中層15階。10層からここまでは極寒の地、氷雪ステージだ」


 燦燦と太陽が照らしていたようなさっきまでの草原と違い、寒々しい氷に覆われた雪原の景色に、つくづくゲームの世界だと感じながらフッと笑みが漏れた。やっぱ、三つ子の魂は死ぬまでなんだと。異世界は、自律神経が死滅しかねない。

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