第44話 旅立ちへ向け

 料理のコツは、慣れと感覚だ。巻き方を教えてくれと尋ねるソフィアナさんに、アレは教えて教えられないから頑張れとだけエールを送り、フライ返しなるを教えてあげて私はヴァンガルドさんとの商談に移る。


「ヴァンガルドさん、残りの調理器具、あと3日で納品できます?」

「3日か・・・行くのかい?」


 ヴァンガルドさんの問いに、私は頷いた。


「はい」

「そうか。兄貴にも会ってあげてくれ」

「ここに来る前に会ってきましたよ。小剣を貰いました」


 私は首に下げていた小さなそれを見せる。


「そうか。ラッカスに行くのかい?」

「まだ決めてませんが、風が向けば是非」


 私の返しが面白かったのか、ヴァンガルドさんたちはクスクスと笑った。


「まるで、旅人のようだね。・・・いや、君たちは旅人なのか。分かったよ。3日で試作を終わらせ、納品しよう」

「形になりそうになければ、ホント現行品のタイプで構いませんので」

「分かった。では、3日後。時間は?」

「昼前くらいに」

「寂しくなるな」

「あ、そうだ。それから、売ってる鉄製のフライパンも買います。今のあんまり綺麗じゃないので」


 最後の納品の約束をして、鉄フライパン・銅鍋・ボウル・ホイッパーの代金で少し揉め――払うと言う私vs 前金だけでいいと言うヴァンガルドさん――、結局大銀貨2枚を払って店を出た。勿論、これは最初の約束の1Mとは別だ。まぁ、又揉めそうな気はするけど。

 宿に着き、ウォルフと合流するとご飯を食べてから部屋で話し合いをすることとした。


「グラン。冒険者が発つのは、3日後なんだよね?」

「あぁ。そうだ」

「で?ウォルフ、ここに残る気は?」

「な!?何だよ、急に」


 私の問いが予想外だったのか、ギクッと怯むウォルフに、私は自分の考えをきちんと話す。


「言ったはずでしょ。ウォルフはいずれ一人立ちさせるって。暮らしていく街探しは真面目にしなね。ウォルフ自身のことだよ。私たちはそこまで責任取ってやれない」

「・・・でも、まだ」

「まだとか、もうとか言う考え方は捨てた方がいい。いずれ、私たちの旅にウォルフが付いて来れなくなる時は必ず来ると私は思ってる。それがさ、Lv.Aの魔物のうろつく魔の森だったらどうするの?ヒューマン至上主義国家で、獣人は見つかった時点で奴隷にされるような国だったら?」

「・・・・・・」

「付いて来たいから強くなろうとしてるウォルフの焦りも気持ちも、分からんでもない。でも、現実はそう甘くもない。時間も待ってはくれない。ウォルフは、常に自分の生活する場として、一番まともそうな拠点を探さないと。私は街を発つ時は毎回聞くつもりだし、その時が急に来ても、例えば明日とかでも、決める時は決めるよ」

「俺は」

「子供のウォルフには酷なことだってのもよく分かってる。ただ、私の中でウォルフとグランはどうでもいい存在でもないから、ダメだと思ったときは、連れてはいけない。そう言う場所に行く時が来るかもしれないって、忘れんな」

「・・・うっす」


 力ない返事に、私はそれでも「いいよ、おいで」とは言えない。そんな無責任ができる程、2人に思い入れがない外道にはなれないから。


「自分にとって最善の――依存する場所じゃなくて、一番向いてる、空気が合うなって場所を探してみ。そういう視点で街を観るってことを、まずする姿勢を付けときな。今回、何にも考えてなかったでしょ」

「うっす」

「頑張れ、としか言ってやれんが。ウォルフならできる。そういう強さも育てるように、我が弟子よ」


 取り敢えず、今私ができることは頭をわしゃわしゃ撫でて、激励を飛ばすことだけだ。


「・・・・・・・マスターは、何処へ行くおつもりか?」


 柄にもないことした私に、グランが従者モードで尋ねる。ただ、私にはそれに答える答えがない。今はまだ。

 だからそれに答えずに肩を竦めるだけに留め、私はグランに質問で返した。


「グラン、前にここ来たって言ったね?」

「・・・はい」

「確か、中級ダンジョンは半分まで潜れば、一度出てもセーブ魔道具なしに中間層までなら1階から跳べるんだっけ?」


 ディオルグさんたちの雑談やグランの情報から、中級以上のダンジョンは5層ごとに出口となる転送陣があり、外へ出られる。そして10層ごとにボス部屋があり、深層攻略者はボス部屋で落とされるセーブオーブと言う魔道具を手に入れると深層から出てもその層に1階の転送陣で跳べるのだそうだ。但し、低層ボスほど出現確率が低く、手に入るのは実質深層階のボスが多いらしい。そしてもしそのオーブを手に入れられずとも、一応半分の層までは跳べると聞いていた。


「そうです」

「グランなら、そこから深層まで、最短何日で着く?私たち連れて」

「なっ!?何言ってんだよ、お前」

「私はあのダンジョンの最深部に用ができた。是非とも行ってみたい」


 驚くウォルフに、私はグランから目を離さずに問う。


「私も、全力を出そう」

「マスターの全力・・・」

「まぁ、寝るし、休憩取るけど」

「・・・順調にいけば、強行して1月ほどは」


 こっちの月は30日で満ち欠けを繰り返す。月が一巡することを1月、12ヶ月で1年となる。つまり、30日か。


「ふん。悪くない数字だね」


 グランの集めた情報では、先頭は25階を行くディオルグさんのパーティー。次点は22階に2グループ、21階に1グループ、20階に3グループ。

 谷へ出た冒険者たちが戻ってくるのは5〜10日くらいだろう。ダンジョンに直ぐに潜るとは考えられないから、一般人枠の私たちが人目を引かずに踏破者の居る深層へ潜るには、悪くない日数だ。


「じゃ、決まり。ウォルフ」

「・・・うす」


 今度こそ三行半かとビクつくウォルフに、私は微笑う。


「多分だけど、中級程度であればウォルフを連れても問題はないと思うが、万一はある。どうする?」

「行きたい、です」


 変に畏まったウォルフに、なら気まりと許可を出す。


「よし。じゃ、分かってると思うけど、私の結界から出ないようにね。それから、勝手な行動もなし」

「してねぇじゃん。俺は」

「最もだ!」


 いつも勝手気まましてるのは、このグループで私のみだ。


「じゃ 3日後、街を出て、ルアークのダンジョン最下層を目指す」

「軽く言うな。ここ数百年踏破者の出てない中級ダンジョンだぞ?」

「もしかするともしかするかもだけど・・・そん時はそん時考える」


 鬼が出るか蛇が出るか。それでも私は決めている。張っ倒す!運営責任者!!


■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.8 女 ヒューマン

 HP 90/90  MP ∞  SPEED 7

 ジョブ:チャイルド

魔法属性:全属性 『上級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』『付与魔法 Lv.15』『特級火魔法 Lv.1』『古代闇魔法 Lv.I』

 スキル:『探索(サーチ) Lv34』『審眼(ジャッジアイ)Lv.27』『隠密 Lv.7』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『万能保管庫(マルチアーカイブ)Lv.2』『ユニーク:絶対防御』『双剣術 Lv.20』

 状態:『若返り』『闘神の加護』

 称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』『画伯(笑)』『発明者』『デザイナー』

 アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]

      所持金 258,461,410ユール


■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人

 HP 1,690/1,690  MP 2,690/2,690  SPEED 299

 ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕

 魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』

 スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.82』

 称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』


■ウォルフ:(9)Lv.13 男 獣人(狼属)

HP 97/125 MP 39/39 SPEED 194

ジョブ:双剣遣い

魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv7』

スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv5』『掻爬 Lv7』『双剣術 Lv.2』

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