第45話 発明の母?

 やらねばならぬことがある。そういう時こそ何故かぎりぎりまで動きたくない、動かない 山科 楓 19年やってます。


「なぁ、寝てていいのかよ。ダンジョン行くんなら、色々用意しなくていいのか?」


 起きてからゴロゴロする私に、実年齢10歳年下のしっかり者の弟(仮) が突っ込む。が、私は自前毛布に包まり怠惰を貪り続ける。あぁ、ニャンコが飼いたい。


「ウォルフ、その通りだ。その通りなんだけどさぁ、今動きたくない」

「お前、ルアーク来てこの1週間くらいそればっかじゃん。俺が修行付き合わせんのどんだけ苦労したか」

「お母さんが言ってたもん。私はご飯時以外動かない子供だったって」


 立つようになったのも、歩くようになったのも、割かし早い時期だったらしいが、「ごはんよぉ」と言う時以外は基本寝転んでいたらしい。そして、幼児期に外へ運動に連れて行っても、自立歩行を放棄して結局ごはんを餌に帰宅していたとか。「ふれあい動物園で腹をすかせたウサギみたいだった」とお父さんは言っていた。


「昨日一日そう言って、結局ベッドから出なかったんだろ?」

「なんでだろうねぇ。夏休みの終わりがもうそこまでってなるとさぁ。こんな怠惰に過ごせる贅沢を満喫したいってなるんだよ。まぁ、夕焼け見ると今度は一日何もせずに過ごしてしまったことが勿体ない気もするんだけどね。特に机の上の白紙の宿題見た時は」

「お前の言ってることが分かんねぇ。何だよなつ休みとか、しゅくだいって。いいから動けよ。一昨日から買いたいもの買いに行かねぇとって言ってただろ」

「カエデ、良ければ俺が買ってくるが?」

「死神、お前カエデを部屋から出したくないだけだろ」

「・・・・・・カエデはここに居ればいい」

「ワタシ、オキル。オソトダイスキ」


 ウォルフ、今絶対『部屋』じゃなくって『巣』って思ったろ。怖い。獣人の過保護っぷり、怖いよ。自主巣篭りはいい。でも、監禁・軟禁いくない、絶対。

 私はシュバッと準備をして部屋を出る。その間3分。即席カップ麺も目じゃないぜ。


「何を買うんだ?」

「服用の布の買い込みと、ちょっとした実験」

「実験?」


 私は出店街で布を買い込み、木工屋を訪れた。


「すみません、木の板と棒ください」

「板と棒ですね。あちらの材木をお好きにどうぞ」


 店の一角にサイズの違う板や棒が置かれていた。ホームセンターより雑然としてるし、加工もそういいものではないけど、まぁ良さげだ。

 ウォルフと私が2人で乗れるサイズの板に、ウォルフの腰当たりに来る棒と30cmくらいの棒を探す。


「あの、この棒をこういう形で、この板にくっつけられます?」


 木工スキル持ちは粘土みたいに木を加工できるとのことで、店員に頼んでくっつけてもらうと、目的のものは完成。

 不思議そうな店員とウォルフたちの視線を無視して、実験すべく空き地に向かう。途中、約束通りじゃがいもとバターを買い取って、今日の買い物は終了した。


「よし。じゃぁ実験しますか」

「実験って何のだよ」

「いつまでもグラタク使ってる訳にはいかんだろ。ブーツも手に入ったし」

「前から思ってたんだけどよ、“グラタク”って何だよ?」

「カエデ!?俺はずっとグラタクで構わない。歩かないでも大丈夫だ」


 “グラタク”とか“タクる”とか“タクシー”とかを溢してきて、=私がグランに抱っこされて移動。は何となく感覚で理解していた2人が、ウォルフは今更な質問を、グランが自由からの脱却反対を唱えた。

 が、私はいつまでも怠惰な女ではないのだ・・・いや、やっぱ永遠に怠惰は変わらんな。がしかし、短くはなっても立派な足がついてるんだ。立って歩き、前に進むよ!

・・・まぁ、歩くつもりないけど。


「でもよ、お前付いて来れねぇだろ。さすがに」


 普通に2人とのコンパスの差は違うし、外での移動速度は車だしな。谷入る前でも原チャ並みだし。だがしかし、私には秘策がある。


「まぁ最悪身体強化で脚力ブーストと風魔法で調整してみるけど、それはそれでめんどうだ。何故なら足を動かさねばならない」

「いや、歩くにしろ走るにしろ、足は動かすだろ。どうやったって」

「理想はこう・・・孫さん一家みたくね」

「誰だよ、ソンって」

「有名な正義のヒーロー一家だよ。悪を成敗する猿人類の戦闘狂一族」

「そんな一族知らねぇし、ヒーローってのも知らねぇ」

「まぁ気にすんな」

「お前そんなんばっかだな」

「説明めんどい」

「カエデ、無理に歩くことはないのではないか?」

「シャーラップ。グランは黙ってて。私をお人形さんのように持ち歩きたいって、幼女のような魂胆なのは分かってるんだ。が、その手には乗らん。大人んなれ、179歳児」


 話しながら取り出したのは、木工屋でちょちょっと作ってもらった木に取り付けるのは、風の魔石(中)。


「グラン、前に魔石使えば魔力消費なしに魔法陣動くって言ってたよね」

「・・・・・・・・・・・・・・あぁ」

「魔法陣、知ってる?」

「闇と火ならな」

「基礎の基礎なら、属性関係なく同じでない?こう水とか火とかを打ち出す、前に進めるってだけなら、込める魔力違うだけでしょ?」

「どういうのがいいんだ?」

「魔力を流せば、一定量の風を打ち出せるような感じ」

「そのくらいならば確かに、カエデの言う通り基礎だから可能だが」

「この、板の前後に発生させたい。でも魔力を通すのは1カ所この私が乗ったら足が来る部分がいいな」

「・・・・・・・・・・・・・・・出力と起動陣を別に・・・出力量調整が・・・・・・こうだな。強さはどの程度を考えている?」


 何だかんだで私の希望を叶えてくれる。流石、下僕の鑑だ!


「どの程度に設定したの?」

「大型魔物は吹っ飛ぶくらいに」

「やりすぎかな。私とウォルフが浮くくらいの浮力を持たせたいんだよね。大体グランのこぶし2つ分かな」

「「浮く?」」

「そう」

「面白いことを考えるな。それなら、方向性を持たせた方がいいのではないか?」

「いや。体の重心を傾けるだけでも、結構小回り効いて方向転換は可能だと見てる。ただ、出力量をこっちで調整出来たらベストなんだけど」


 イメージキックボードのエアー版みたいな。エンジンは魔石で補って、アクセル踏んだら魔法陣が発動して浮く感じで、前方の魔法陣は少し幅を持って設置させたから、ハンドル方向に体重を置けば前進する・・・はず。

 私のしたい事の説明に、グランはすぐに理解を示してくれ少し調整をしてくれた。


「あとは、魔石だけど。前に魔石にも付与魔法つけれるって言ってたよね?」

「あぁ」


 私はちょっと押したら沈むくらいに浮くイメージと設置場所から動かないイメージを付けて魔石に込める。これで、踏んだら動力陣と接触して、板の魔法陣が起動するはず。浮力で横に逃げないようにと盗難防止のための設置固定もしたし。

 魔法陣でも良かったが、そうすると魔法陣を発動するために魔石の魔力を消費することになるから、板の魔法陣発動と合わせて燃費が悪い。魔法付与は付与時に魔力は必要になるし、常時発動するけど魔力は減らない理解だ。


「できたぞ」

「ありがとう。ならこれを、動力陣に設置すれば・・・」


 私の場合、魔石じゃなく自分の魔力を動力源にすれば使えないこともないが、一応人目がある時を考慮して今回は魔石使用とした。何より、込める魔力量を一定量とかの調整が、私には無理だ。


「これで、完成?ちょっと試してみるか」

「カエデ、一人で乗るのか?」

「いきなり2人乗りは初心者には無理。治癒魔法あるから大丈夫だよ」


 ケガしたらしたまでって大雑把な私に対し、過保護なモンスターは勿論意外に心配性なウォルフも止めたが、試さないことには進まん。

 私は邪魔者を結界で弾き出して、序に空き地にも防音と認識阻害結界を張ると、いざ実験に取り掛かった。


「うっわ。あぁ、そうか。ウォルフと2人乗り想定だから」


 視界が想定外に高くなったのに少し驚いたけど、ウォルフが乗ればもう少し沈むだろう。ホバー状態で浮くには浮いたけど、うん・・・微妙に不安定ではある。こう・・・水の中の上に浮かせた板に乗ってる感。


「うぅわ・・・とぉ、これは結構スピードが。あ~でも、うん。なかなか」


 子供2人を浮かせる力で重心傾けて推進力にすると思った以上のスピードだった。でも、進んでみると操作はホント、エンジン付きキックボード乗る感じに似てて簡単。そう広くない場所をぐるぐる周る。体感時速30~40は出たから、ウォルフを乗せると少し落ちるくらいだろう。


「グラン、これスピード上げるには?」

「“レイス”と唱えれば、出力量が上がる。“ノイス”と言えば、下がる」

「了解」


 こういう時、つい声張上げてしまったが、グランたちは獣人だから耳がいいのを忘れていた。

 此処は狭いから、ギアアップは街を出てからの方がいいだろう。と、ここで一つ失敗に気付いた。重心を戻し停止したまでは良かったが、降りるのが問題だ。魔石から足を離せば、このまま落ちる。そうなると、高さ40~50cmから落ちることになる。壁から飛び降りるならなんと言うことはないが、何かに乗ってそのまま落ちるのは訳が違う。


「カエデ、結界を解け。降りれないんだろ?」

「降りれる。降りれるけど、何か考えないとな。コツがいるかも」


 私はグランたちを弾き出しておいた結界を解くと同時に、ハンドルを持ったまま横に飛び降り着地した。

 こうして、私は自立?への一歩を踏み出した。人は、自堕落を求めてこそ文明の利器を発明するんだって誰かが言ってた気がする。私は応用しただけだけど。いずれ、オート自走式防衛機能付き自動車とかも作れたら、寝たまま移動できるかもしれない。夢は広がるばかりだ。


■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.8 女 ヒューマン

 HP 90/90  MP ∞  SPEED 7

 ジョブ:チャイルド

魔法属性:全属性 『上級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』『付与魔法 Lv.15』『特級火魔法 Lv.1』『古代闇魔法 Lv.I』

 スキル:『探索(サーチ) Lv34』『審眼(ジャッジアイ)Lv.27』『隠密 Lv.8』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『万能保管庫(マルチアーカイブ)Lv.2』『ユニーク:絶対防御』『双剣術 Lv.20』

 状態:『若返り』『闘神の加護』

 称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』『画伯(笑)』『発明者』『デザイナー』

 アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]

      所持金 258,111,900ユール


■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人

 HP 1,690/1,690  MP 2,690/2,690  SPEED 299

 ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕

 魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』

 スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.82』

 称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』


■ウォルフ:(9)Lv.13 男 獣人(狼属)

HP 125/125 MP 39/39 SPEED 194

ジョブ:双剣遣い

魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv7』

スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv5』『掻爬 Lv7』『双剣術 Lv.2』

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