第41話 テンプレテロ?

 他人と出かける約束なんてしてしまうと、当日急にめんどくさくなるタイプ 引き篭もり代表 山科 楓とは私のことです。

 ヴァンガルドさんを訪ねて翌日、私は朝からめんどくさいの衝動に駆られていた。


「起きよう」

「それ、15分前にも言ってたぞ」

「そうだね。ウォルフ、起こして」

「俺が起こす」


 空かさずやって来る我が従僕は、さすが慣れていらっしゃるな。私は尚も手伝おうとするしつこい輩をいなしながら朝の支度を済ませると、約束の場所へと向かった。何故か今日も出待ちしていたディオルグさんとアドルフさんを連れて。


「暇なんですか?」

「昨日は別件があったぜ?」

「すまんな」

「いいですけど、つまんないかもしれないですよ」

「今日はどこ行くんだ?」

「スラムの子供たちと約束が」


 歩きながら今日の予定の話や四方山話に花を咲かせる。


「へぇ。どんな?」

「はずれの根の実食」

「食うのか?」

「昨日の夜、既に食べました。美味しかったですよ」

「へぇ。アレがな」

「そう言えば、ダンジョンってどんな仕組みになってるんですか?潜ってる間、食べ物とかは?」

「中級以上のダンジョンは、半分攻略するまでが厄介だな」

「半分?」

「あぁ。何らかの理由でダンジョンから出るとなっても、出るのは5階層ごとに転送陣があるが、再突入の時に1階から潜り直すことになる」

「大体低層は1層クリアに数週間、5層で半年とか掛かるからな。マジックバックやアイテムボックス持ちでもねぇと、食糧もそう持込ねぇってんで、食料問題が1番の悩み種だな」

「ヘェ〜。半分攻略するとどうなるんですか?」


 そんな冒険者話を聞きながら到着した先で、私たちの姿を見つけた子供が、大きく手を振って来た。


「あ、おねぇ~ちゃ~ん」


 今日も元気な子供たち。だが、どう見ても君のが年上なんだがな、外見的に。手を振り返しながら、思う。


「お嬢ちゃんのが年下だよな」

「まぁ、精神年齢早熟ですから」

「「それは間違いねぇ」」

「違いない」


 何故かウォルフまで同意してきた。


「物は用意できたか?」


 私がどこの裏組織の人間だと言う確認を取れば、皆一様に頷いた。


「問題はどこで作るかだね」

「少し街外れに、昼間なら比較的安全な空き地がある」


 アドルフさんの提案に、私たちはそっちに移ることにした。年少5人と年長組も3人。袋に詰めた食材と鍋を抱えて着いて来た。


「それでは、まずはずれの根の確認をします」

「「「「はい」」」」

「あい」


 私の号令に、年少組がじゃがいもの選別に入った。


「どうやって毒の有り無しを見分けるんだ?」

「子供らに聞いてください。私はもうゲロしました」


 私の適当な受け答えにめげず、ディオルグさんは子供たちに怖がられながらアタックしていた。

 その間に、年長組には鍋を火にかける用の大きい石4つを探してもらって、簡易竈作成指示を出す。


「次に、洗います。水で洗えばいいけど、私はクリーンで済ます。これは、魔力ある子次第」

「なら、ボクが」


 今日はロウ少年はいないが、エルフっぽいブレーンくんが手を上げた。


■スフィア (14) Lv.12 女 ハーフ:獣人(鳥)/エルフ

HP 83/120 MP 130/130 SPEED 12


 なんと女の子だった。まぁ、女の子は色々危険だからな。別嬪だとは思ってたよ、ちゃんと。女は胸じゃない。度胸だ。まだ成長期だし、これからだよきっと。


「《クリーン》」


 芋にかけてくれたが、私は全体的にかけないと無理。鍋と子供たちを纏めてかける。


「魔力量が不安なら、水でいいけど。口に入れる物触るなら、絶対手は清潔にすること。じゃないと、根がはずれじゃなくても、お腹を壊す」

「「「わかった」」」

「「「「はい」」」」

「あい」


 いいお返事をもらい、鍋に水を満たすと芋を入れ、グランに火を着けてもらう。これも魔力じゃなくてもいい旨は伝えて、煮る間にもう一つ教える。

 小さめの芋に皮が付いたまま尖らせた木にぶっ刺し、火の回りの土に串を刺して炙り焼きにする。


「次に、塩と実を用意します」


 私は器がなかったから、手持ちの木の器を用意してバターを割入れるように指示する。そこに塩を加えて、混ぜる。味を見て、ちょうどいい塩味になったら出来上がり。


「これ塗って食べたら美味くなる。私的には」


 みんな興味津々に器を覗き込む。ディオルグさんたちも混ざって。

 本音を言えば、醤油が欲しい。醤油の実、探してみようかな。樹液かもしれないか。

 木で作った串を茹で芋に刺し火の通りを見ながら、よさそうなところでザルがないことに気付いたけど、ここは魔法の世界。

 火を消し、水を消すと、これまた自前のまな板に置いてナイフで半分に切り、バターを塗りつける。


「ん、食べてみ。熱いから気を付けなね」


 私のGoに匂いを嗅いでいた獣人組は、待ちきれないとばかりに食いついた。アドルフさんも。


「「「「!!!」」」」

「「「「「うまっ」」」」」

「おいちぃ」


 食べてる間に、串焼きもよさそうな頃合いになったので、そっちは塩を振って塩味にした。


「バター付けてもいいし、付けなくても皮ごと食べていいよ」


 クッキング教室終わり!っと片付けにかかる。


「これはいいな。はずれの根がこんなに美味くなるなんざ」

「あぁ。出店で売ってても買う」

「…初めての味」

「おいしい」

「何て料理なんだ?」

「じゃがバター。こっちは焼くから、焼きじゃがかな」

「じゃがバター、か」


 口々に褒めるが、これがきっかけでグルメ探究が始まってくれることを祈るばかりだ。


「じゃ、私はこれで」

「お、おい。もういくのか?」

「うん。もう用ないし」

「・・・・」

「おねぇちゃん、いっちゃうの?」

「うん」

「そっか」


 寂しそうな雰囲気に、私ができることは・・・ない。

 じゃぁ残るよとか言う人間じゃないので、私と言う人間は。そう言えば昔、門下のチビちゃんたちと遊んで、帰るときに泣き出したのにあっさり別れを告げて去る私に、従兄弟に冷たいと称されたことがあった。でも私が悪いわけでもないし、遊んであげたんだから良くね?って言ったら、お前は思いやりの心がないって貶された。謎だ。


「じゃ、元気でな。あ、また根と実、追加で欲しくなるかもなんだけど、売ってる?」

「あ、えっと・・・売ります。いつも、あの街角に誰かしらいるようにします」

「そ?あぁ因みにこのはずれの根、私はじゃがいもって呼んでるんだ。売り物として、はずれの根じゃ客が逃げるよ。追加で買いに行くかもだから、適正価格で売ってね。大量買いしたいときはまた日当で雇うかも。バイバイ」


 手を振る私に、またねと口々に別れを告げる子供らを置いて、宿へと戻る。


「あ~。お前、結構あっさりしてんな」

「旅向きな性格してるでしょ?」

「確かに」

「この情報、売らなくていいのか?」

「商業ギルドに?」

「あぁ」


 アドルフさんの質問に、私は考える。


「はずれの根へのイメージがどうしても悪いでしょう。当分はスラムの常用食でいんじゃないですか?売りに出されるときはその時で、色々取り締まりと食品管理難しい食材ですし、ギルドがしてくれるって言うならそれでいんじゃないですか?」


 お金儲けも飯テロも、やりたい人がやってればいい。私にそんな気力はないと、肩を竦めて軽く返した。


「そう言えば、討伐どうなったんですか?」

「10日後には出る予定だ。上位から中堅どころの冒険者はほぼ出払うだろうな」

「ふ~ん。ならダンジョン潜ってる人はどうなるんですか?」

「今深層まで潜ってる奴等を呼び戻してるから、俺たちゃそいつ等待ちってのもあんだよ」

「それでアリアとクリスは、借り出されている」


 初日以来見ていないアリアさんは、どうやらお仕事ちゃんとしてたらしい。


「2人は行かなかったんですね」

「俺たちはメイン武器修繕中だし、もしもの時を警戒してな」

「あいつらの繁殖力は侮れねぇ。谷から溢れたら、守りが必要だ」

「そうですか」

「あ~、それでよ。ギルドのさるお方が、お前さんたちに」

「却下だ」


 それまで黙って聞いていたグランが、空かさず口を挟む。まぁ、そうだわな。私も嫌だ。


「女々しい系男子だったと?」

「いや、もしだ。もし気が向いて、顔だけでも見せてくれたらって話で。顔出せって言われたわけじゃねぇぜ?」

「頭の隅に置いておきます」


 私の返しに、分かっていただろうにがっくりと項垂れたディオルグさんとも分かれ、私たちは部屋へと戻った。


「グラン、今夜はお酒飲み行きなよ。お金あげる」

「いや、俺は」

「情報収集は、大人がすべきじゃないかな?」

「…分かった。しっかり寝ているんだぞ?」

「は~い」


 グランに仕事を頼み、子供組はお留守番を賜って夜を過ごすこととした。

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