第40話 休息日

 安全安心純粋培養の日本人 山科 楓 立派に純成人です。宿への帰り道、グランから延々と人を信用しすぎるなとか、不用心だとかお小言を頂いた。私が悪いのか。まぁ、確かに私が悪いんだけど。騙されたら殺されるなんて殺伐とした環境で育ってねぇからな。飽きたから最後は笑顔で、グランがいるから大丈夫だよねと黙らせた。Winner。

 昨日と同じく庭を借りて結界を張ると、晩御飯作りをしようとして失敗に気付いた。フライパンがねぇ。器なしにアーカイブに保管は…できねぇな。かと言って街中滞在の為に鍋類を多く持つのはな。私は諦めて串肉にする。ただ今日は、合成で作った有塩バター風味&バジルソースを添えて。うん、美味。序に、串を洗い街中でしれっと摘まめる用の肉串もストックしておく。

 食後はウォルフの基礎作り。走り込みは、ここに来るまで散々してたし、体力はこの世界では少しつけ方が違う。所謂Lvに比例するから、筋力作りを考えた方がいいのかと筋トレを教えた。庭もそう広い訳ではないから、グランと組手できるような広さないし。

 初日だから腹筋×背筋×腕立×スクワットの10回5set。9歳の子供には酷か?私の心配をよそに結構あっさりやってのけた。


「これでいいのか?」

「多分ね。広いとこが確保できない街にいる時は、無理ない範囲で目標決めて増やしていくとかやってみれば?」

「分かった」

「双剣の素振りは…街中では諦めるしかないね」

「分かった」

「ウォルフ、返事は『押す』だ」


 『うっす』でも『はい』でもいいが、まずは形と礼儀からだな。


「おっす」

「そして、私のことは『お師匠様』と呼ぶのだ」

「・・・断る」


 一応は悩んでくれたらしい。冗談だったんだが、苦悩の末に断られたら。うむ、青いな。


「よろしい。励めよ」


 何様だよと言う激励を送り、部屋に戻る。

 クリーンをして寝る準備をすると、実験。作ったのは勿論、片栗粉とドライイースト。このままパンも作れないか実験したけど、無理だったようだ。因みに失敗すると、ゲームと同じで素材が消える。

 眠気がやってきたところで目を閉じた。


「おはよう」

「ん」


 目が覚めると、毎度グランの挨拶が空かさず聞こえるのが怖い。美声なのは認めよう。が、設定した覚えのアラームヴォイスが聞こえる身になって欲しい。怖ぇえよ。


「今日はどうする?」


 クリーン等々で起きたけど、ベッドに座りウォークの実を齧る私に、グランが尋ねる。

 朝食は毎度果物だ。これ、腹持ち良いしな。


「今日はゴロゴロして、ヴァンガルドさんのところに経過を見に行く」

「分かった」

「グランたちも好きにしていいよ。部屋いる間は結界張って篭るし。お金渡してるんだから、買い物あれば買いに行けば?」


 私は食べ終わって早速ベッドに寝転んだ。怠惰万歳!

 私は暇つぶしに素材合成・錬成に励むこととした。

 気付けば、12時の鐘が鳴る。私の小腹も。

 隣には窓際の壁を背にベッドに座るグランだけで、ウォルフは見当たらない。


「グランは出かけないでいいの?」

「あぁ。特に用はないからな」

「ウォルフ双剣着けて行ったのか・・・」


 ウォルフには隠密がないから、認識阻害を発動できないけど…変な大人に絡まれてないといいが。大丈夫かな。一応ウォルフもこっちの住人なんだし。


「昼はステーキでいいかな。今度マッシュポテト添えにしよ」


 私はグランと自分の分を皿に移すと、残りは仕舞う。ベッドの上でテーブルなしって言うのは流石に行儀が悪いんで抵抗があったけど、この世界のお宿はほんと日本のビジホレベルの椅子とテーブルさえ望めない。ベッドオンリーだから仕方がない。


「カエデは、ウォルフには甘いな」


 不意に、グランが私に話を振った。珍しい。私はう~んと考えて、そうかもしれないと頷いた。


「かもね。私はさ、性質的に慣れやすく、流されやすく、諦めやすい性格してるの。だから、こういう環境にあると、多分人として…私の生まれ育った社会での『人間』らしさ、常識、道徳観、そう言うものを何が何でも守らねばって意識があんまりない」

「それがないとダメなのか?」

「この世界でそれがあれば、私はあっという間に他人の餌食になる」

「…」

「他者を慈しみ、暴力を悪とし、他人を善と信じる心をよしとする。人殺しどころか、暴力ダメ絶対の社会で生きてきた人間なんて、いい餌でしょ」

「…だな」

「だから私は、必要ならその常識に目を瞑って、こっちに染まろうと思えば、抵抗感が皆無な人間。でも、そしたら今まで守って来たモラルと常識と理念が壊れることを意味する」

「そうか」

「でもウォルフは、あの歳で波乱万丈な人生送ってて、結構差別と偏見の目に晒されて育ってきてるのに、他人を助けたいとか、色々面倒見のいいところを捨てないで、彼なりに真直ぐに生きてるじゃん?人としての『正しい』って信じたい心をまだ失ってない」

「…俺とは、大違いだな」

「それは仕方ない。グランとウォルフじゃ生きた時間も違うし、それが許されるほど甘い環境だったら、グランはもっと…歪みない性格してる」

「ふっ。俺は、歪んでいるか?」


 鼻で笑うグランに、私は遠慮なく首肯する。


「子供の特権だね。ウォルフは曲げない、頑固、諦めないって私と正反対の性格してるから、私がこの世界で失っちゃいけない人間味を示してくれるような気がしてる」

「なるほど」

「ま、だからと言って、ウォルフの意見を重視して、危険に身を投じるつもりもないから、あくまで余裕があるときだけね。グランから見て、ほんとに本気で危険を天秤にかけてるように見えたら、譲らないように。私はウォルフだけを重用するつもりもないから」

「承知致しました。我が主のお心の侭に」


 首を垂れるグランに、私は無になってそっと目を伏せた。


「グランは、“普通”の感覚を思い出した方がいいけどね。どうしても、ちょいちょい下僕感出るよね。奴隷止めたいとか思わない訳?」


 私は睥睨して、残念イケメンを見やるが、もう彼は引き返せないところまで行ってしまった人だった。


「カエデの奴隷を止めるくらいなら、死を選ぶ」

「どうしよう。歪み切ってて救いようがないよ、この人」


 もう、彼はこういう生き物であると諦めることにした。うん、スルーカンストしてて良かった。

 グランは相変わらず、私が『この世界』と言う言葉回しやなんかに触れない。それも、グランがグランであるからに他ならないんだし。だからこそ、私も遠慮なく色々内情を吐露できる。それがグランの良さではあるのだから。


■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.8 女 ヒューマン

 HP 90/90  MP ∞  SPEED 7

 ジョブ:チャイルド

魔法属性:全属性 『上級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』『付与魔法 Lv.15』『特級火魔法 Lv.1』『古代闇魔法 Lv.I』

 スキル:『探索(サーチ) Lv34』『審眼(ジャッジアイ)Lv.27』『隠密 Lv.7』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『万能保管庫(マルチアーカイブ)Lv.2』『ユニーク:絶対防御』『双剣術 Lv.10』

 状態:『若返り』『闘神の加護』

 称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』『画伯(笑)』『発明者』『デザイナー』

 アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]

      所持金 169,591,410ユール


■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人

 HP 1,690/1,690  MP 2,690/2,690  SPEED 299

 ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕

 魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』

 スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.85』

 称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』


■ウォルフ:(9)Lv.13 男 獣人(狼属)

HP 125/125 MP 39/39 SPEED 194

ジョブ:孤児

魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv7』

スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv5』『掻爬 Lv7』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る