第39話 懐かしきB

 めんどうだから自発的発言はしないけど、遠慮もしない系女子 山科 楓です。目立ちたくないし、余計な仕事もしたくない、さぼれるもんならさぼっていたい。だのに何故か昔から、大人は私に厄介事を押し付ける。だからある日、何故かって聞いたら言われた。楓ちゃんは白黒はっきりしてしっかり自分の意見で突き進んでいくから、遅れてる子くっ付けとけば間違いないもの。小2の時の先生よ、子供にめんどう事押し付けるのはいかがなもんですか?突き進んだ先が正しい道とは限らんのだが。

 私たちがヴァンガードさんの店に着くと、誰もいなかった。


「じぃさん!俺の剣!」


 待ちきれなかったウォルフが、店に入るなり叫ぶ。


「おう、来たか。出来てるぜ。着けてみろ」


 店に出てきたヴァンガードさんが、用意していたそれをカウンターの上に置いた。

 ウォルフはいそいそと外套を脱いでベルトを手に取る。


「ふむ。悪くねぇが。裏に来い」


 ウォルフを促し、店の奥へ通される。昨日の作業場の更に奥、裏庭に案内された。


「少し動いてみろ」

「おう」


 ウォルフは屈伸したり、跳んだり走ったり、指示のままに動く。見る感じ、少し走るときに剣の柄が邪魔になっているようだ。こう言うところも、多分闘神の加護なんだろう。おばあちゃんの影響で合気をしていたのもあるが、それでも剣術はからっきしの私にこの手の観察眼はないのに。魔物の襲撃中の行動予測や、動体視力、戦闘センス的観察眼が地球人やってた頃と違う。


「ちょっと来い。もう少し、遊び持たせた方が良さそうだな」

「あそびって何だよ」

「うっせぇ。黙って寄越せ」

「…ん」

「ヴァンガードさん、そこもう少し離す感じで固定させといたほうが。すぐ摩耗しそう」

「ん?あぁ、確かに。こう、か」

「ですね。あと、私付与魔法使えるので、ちょっと大きめでいいです」

「あ?」

「カエデ」


 ネタばらしを咎めるようなグランに、私は肩を竦める。


「仕方ない。ウォルフは成長期だし、これ以上短くするとまたすぐ作り直すはめになる」

「確かにな。しかし、嬢ちゃんがな」

「言っておくが、他言はするな」

「分かっとる。儂ゃ、口はオリハルコンより堅ぇんだ」

「…」

「グラン、ヴァンガードさんは大丈夫だよ。多分」


 私も他人を見る目に自信はある訳じゃないけど、疑り深いグランを宥めて引かせる。また古代魔法契約とか言い出しても困る。


「多分って何じゃ、多分って」

「私は私の他人を見る目に絶対の自信があるほど、人生経験積んでません」

「確かにな・・・ホントか?実は儂よりばばぁとか言わんだろうな」

「失敬な。どっからどう見ても幼女ですが、何か?」


 不名誉な疑惑に、私はヴァンガードさんの前で特と見るがよいと胸を張った。


「おっし。これで大丈夫そうじゃな。後は、慣れあるのみじゃ」

「明日から朝と夕方に、素振りと手合わせかな」

「分かった」

「後、基礎の型を決めて反復練習しといた方がいいかもね。師匠居ないから、自分で考えにゃだけど」


 おばあちゃん家に行ったときは、反復で投げ飛ばされたっけ。遠い目で鬼師匠を思い出していると、3対の視線を向けられる。


「何だ、嬢ちゃんが教える訳じゃねぇのか?」

「カエデが教えるんじゃないのか?」

「教えてくんねぇの?」

「私、双剣遣いじゃないもん」

「でも、動き知ってんだろ?」

「でも、コントローラーないじゃん」

「こん?それがあれば教えてくれんの?」

「あればね」


 Bダッシュとかできんならな。


「分かった。どんなんか教えろ。探してくる」

「良かったな、坊主。師匠が見つかって」


 今更冗談だって言っても聞かなさそうな雰囲気に、私は開いた口を閉じた。


「グランは私が剣教えんの反対してたじゃん」

「カエデが剣を持つのは反対しているが、動きを教えるのは別に反対してない。それに、カエデの動きは美しい。俺は好きだよ」

「・・・・・・・一々痒いよね、グランって」


 珍しい微笑で溢される言葉は、毎回なんかNo1ホストばりの夜の帝王な感じで、モブには痒い。


「じゃ、木の双剣ください」

「ほれよ」

「用意がよろしいことで…って、これ本格的過ぎません?」


 何故用意していたのか知らないけど、冗談で言った木剣が出てきた。しかも、結構ガチにしっかり加工もされていた。金属加工を主とする職人の作品とは思えない、一見すると本物の双剣のようだった。


「ま、嬢ちゃんが必要じゃろうと思うて、やすり掛けだけでもとやっとったら、職人魂が疼いての」

「木工でも食べていけますよ」

「馬鹿言え。儂は金属一筋じゃ。が、まぁ武器職人としては妥協できんでの。ベルトはいるか?」

「さすがにそこまでは。いくらですか?」

「昨日の前金に含んでいい。それから、追加も必要ない」

「ん~。正直、ここまでの仕事されたら、払いますよ」

「んなら、坊主」

「おぅ」

「きっちり儂の作品使いこなして、他の奴らに双剣遣いの何たるかを見せつけろ。んで、儂の店で買った剣だと自慢しろ。おめぁさんを見て双剣買いに来る客を、楽しみにしとくぜ」

「…あぁ、必ず」


 漢と漢の約束だ!みたいな展開に、少年漫画を思い出す。うむ、男的美学ってやつだな。と密かに納得しながら、無料(ただ)でくれるってものを貰うのは何か貸しを作るようで気持ち悪いので、私は保管庫からあるものを出す。


「ヴァンガードさん、ならこれ差し上げますよ」

「あ?・・・・・・・・・・・嬢ちゃん、これを何処で?」

「秘密です。でも、職人としては、惹かれるでしょ?」

「あぁ。まぁな。・・・・・・・・サーペント・・・・でもねぇ。ディア系の魔力も感じんな」

「物理攻撃耐性(+200)、全属性魔法耐性(+100)の革素材です」


グラン用の黒のロングを作った余りのサーペントの合成革で、まだ1~3着は作れる。服作ってもいいけど、旅にそんな持ってても仕方ないし、1枠分整理しとこう。


「普通、革は魔物の属性によるんだがなぁ。金属じゃあるまい、革を革と合成できる術なんざ、聞いたことも見たこともなかったが…」


 じっと眼光鋭く観察していた革から目を逸らし、私たちのパンツを見る。


「ふんっ。まぁいい。これについては、金を払う」

「それについては先ほども話した通り、差し上げますよ。まだ欲しければ、仕入れ先聞かないってことと仕入れ元言わないってことを条件に融通するでどうでしょう?勿論、きちんとお金はいただきます。ただレベルについては、流石にそれ以上のはないですが」


 私は実験と在庫処分ができる。ヴァンガードさんは新素材での武具造りができる。この上なくWin-Winな関係だ。そのためのサンプル配りなら、素材は実質無料だし懐も痛まない。


「よっし、乗った!」


 ニッと笑うヴァンガードさんの突き出した拳に、私もこつんと拳をぶつけた。うむ、漢と漢の―パート2だな。女だけど。


■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.8 女 ヒューマン

 HP 90/90  MP ∞  SPEED 7

 ジョブ:チャイルド

魔法属性:全属性 『上級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』『付与魔法 Lv.15』『特級火魔法 Lv.1』『古代闇魔法 Lv.I』

 スキル:『探索(サーチ) Lv34』『審眼(ジャッジアイ)Lv.27』『隠密 Lv.6』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『万能保管庫(マルチアーカイブ)Lv.1』『ユニーク:絶対防御』『双剣術 Lv.10』

 状態:『若返り』『闘神の加護』

 称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』『画伯(笑)』『発明者』『デザイナー』

 アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]

      所持金 169,591,410ユール


■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人

 HP 1,690/1,690  MP 2,390/2,690  SPEED 299

 ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕

 魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』

 スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.82』

 称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』


■ウォルフ:(9)Lv.13 男 獣人(狼属)

HP 125/125 MP 39/39 SPEED 194

ジョブ:孤児

魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv7』

スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv5』『掻爬 Lv7』

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