第38話 植物性?
待ち合わせ場所には、子供たちが座って待っていた。時刻は3時前、おやつ時だ。
「よっす。採れた?」
近づく私に、子供たちは立ち上がって収穫を見せる。
「「「うん」」」
「おう」
「……」
一人引っ込み思案なのか、恥ずかしそうに隠れる子もいたけど、おおむね元気いっぱいの返事が返ってくる。
「さて、検収前におやつにしようか」
「「「「おやつ?」」」」
まぁ、おやつの概念なんてないわな。私は昨日グランが買っていた果物を取り出して、一つずつ配る。その際に、泥んこだらけの子らにクリーンは忘れない。
喜び勇んで食べる子供たちは、まだ純だな。小さいのに、弱肉強食なサバイバリィを生きてんな、お前ら。サイズ感、今の私とそう変わらないけど。私なら途中で荒む。実年齢だったら、世を恨んでグレてる。
「ねちゃ、あがと」
そう言って、見た目3歳児くらいの男の子が差し出してきたのは、何かの実だ。
■イーゴ (4) Lv. 3 男 獣人(犬属)
HP 13/47 MP 9/9 SPEED 37
■実 (無塩バター)
食用可。脂分のある実で、無味。
イーゴォォォォ!お前は良くやった。偉いぞ、凄いぞ、グッジョブだ!!
私は思わず目の前の子供を抱き上げ、高い高いで称賛した。
「!?」
びっくりして目を見開く子供に、感謝の意を送る。
「サンキュー。すっごい嬉しい!ありがとう~!!」
I’m happy! と2周だけ廻し、私は疲れたから取り敢えず荷物を下ろした。
Lv.8になっても、流石に背丈そう変わらない子供を抱き上げるのは疲れる。勢いで持ち上げたが、よくぞ持ち上げられたと自画自賛したい。
私はその実をムフフと見つめる。
「ねちゃ、うれし?」
「おねぇちゃん、そんなの嬉しいの?」
「え?うん。すっごく」
「それ、腹が減ったらとりあえず口に入れろって、大人にいわれてるまずい実だぞ」
「剥いて食べるの?」
「そう」
「うん」
私の感激のしように、グランとウォルフも不審気に私の掌の実を見つめる。
「何なんだよ、それ」
「私が欲しかったヤツ。まさかの、植物性とは。この衛生環境じゃ、乳製品は絶望的だって思ってたんだけど。不思議植物万々歳だね!」
不思議そうな周囲を置き去りに、私は早速実を剝いてみる。大きさにして、小粒ブドウのデラウェアくらいで、どんぐりの様な皮を割ると、中から白い油脂が出てきた。それを躊躇いなく口に含むと、確かに無塩のバター油脂だった。味がないし、脂身だから美味しいとは感じないだろうが、これに塩を加えるだけでも有塩バターになるし、合成すればさらに滑らかなそれになるだろう。
「おいし?」
「ん?まずいよ」
「だから言ったろ」
最初に声かけた猫獣人の兄が突っ込むけど、これ単体はまだまずいに決まっている。たぶん、スラムの人等は経験で飢餓状態でカロリー摂取できそうな植物を教えていたんだろう。
それにしても、このタイミングでバターとなれば、あれを食べるしかないだろう。
「これ、何処で採れる?」
「これは、ダンジョンの1階だから、俺らじゃむり」
「大人の人たちがくれる」
「ダンジョンか」
私がもう一度礼を言うと、皆がそれを一握りずつ寄越してくれた。くれるというのを無碍にも出来まい。私はありがたくそれを懐に収めた。
「じゃ、検収しようかね」
私は600個はある山に向かい、選別したものをグランに入れさせた。
「どうやって、はずれとあたりを見わけるの?」
子供の問いに、私はバターの礼に集まるように促す。
「まず分かりやすいのから。こう言う緑のは、毒があって食べられない。これは虫食いがあるけど食べられる。ただ、虫いないか気を付けて。これは触ってみると柔らかいでしょ?腐ってるから無理」
私の話を真剣に聞く子供に、実物を回して観察するように横にパスする。
「で、これも毒のある根。普通の根と何が違うか分かる?」
臨時青空教室に、何故かウォルフとグランも混ざっていた。
「ねっこ?」
妹ちゃんが芽からぴょこっと出ているそれを指す。
「そ。これはね…そうだなぁ、動物で言うとお母さんなんだよ」
「おかぁさん」
「そ。母親って生き物は、全部が全部そうだとは限らないけど、基本的に子供を守ろうとする。分かる?」
「……うん」
「「「「…」」」」
俯く子、黙ってその根を見つめる子、悲しそうな子、苦しそうな子、首を傾げる子。この世知辛い世界で、一人生きる子供の反応に私は頭を撫でて励ます。
まぁ、そうじゃない親もいるだろうし、親をそもそも知らない子供にそんな話をするのも酷かもしれないけど。いないからこそ、そうじゃなかったからこそ、そうだって知ってる子供もいるから、私は敢えてそう例えた。
「これを土に伸ばして、次の世代を繋ぐ子を育てようとしてる。だから、お母さんは子を残そうと毒を持つ。誰にも食べられないように。自分が食べられてしまったら、子が残せないから」
「よく・・・わかんねぇ」
「いつか、君らが子供の親になる日が来たら、分かるかもね。でも君だって、妹が誰かにいじめられたら、体張って助けるでしょ?」
「!!あたりまえだ!」
「植物の親も同じってこと。体張って、毒を持つ。だから、これはこのままは食べられない」
私は話はここまで、と芽の出たじゃがいもを回す。
「なぁ、これ美味しいのか?」
ウォルフも興味を持ったのか、一つ手に取って私に尋ねる。
「私は好きだけど?」
「どうやって食べるの?」
「そうだねぇ。……仕方ない。実のお礼に、簡単で美味しい食べ方を教えてしんぜよう」
「ほんとぉ!?」
「おいし?」
目をきらめかせる子供らに、残った根を選別してみるよう促し、中央の時計塔を見上げた。
「4時過ぎか。そろそろヴァンガードさんとこ行こうか」
「!!おう!」
元気いっぱいなウォルフの返事に、苦笑しながら立ち上がる。
「君ら、スラムに住んでるんだっけ?」
「うん」
「じゃ、明後日10時にここ集合ね。その時にでも教えてあげよう。お兄ちゃん組に、塩とこの実集めて、鍋持っておいでって伝えといて。今日はもう帰んな」
私はグランから受け取った残りの串と報酬小銀貨5枚を子供たちに渡すと、帰宅を促す。夜にスラム街を訪れるのは流石に危ない。私の身柄が。そして、明日は色々ある。スケジュールを詰め込み過ぎるのはごめん被りたいと、私は子供たちに別れを告げた。
「あさってね。おねぇちゃん」
「明後日だよ」
「あさて」
そうして子供たちに見送られ、私たちはヴァンガードさんの店に向かった。
「それにしても、カエデより年は上の子供もいたが、カエデは“お姉ちゃん”なんだな」
「ね。見た目私のが小さいのにね」
「お前、ぜってぇ年誤魔化してんじゃん。んな6歳いねぇって」
「ホント。私、6歳って認めるつもりないから」
「・・・・・・・・・・なぁ、実際お前って何歳なんだよ。19?6? つか、本当にヒューマンか?エルフとか、ハーフリンクとかじゃなく?」
どうやら初対面の自己紹介はきちんと覚えていたようでウォルフはそう尋ねるが、それはそれで合法ロリだと認めるのも嫌だと言う我侭な自分がいる。
「・・・・・・・・・・・・・ご想像にお任せしよう。だが、これだけは言える。私はれっきとした人だと。エルフは美人じゃないと認めない。こんなモブ顔でエルフだったら、私運営に物申す」
「何だよ、うんえいって」
「カエデは愛らしい。エルフなど目ではない。可愛く、賢く、美しい。その心根も」
その顔で言われると嫌味でしかないと、心で嗤い。私は1,000のダメージを受けた。
「私、グランとは口きかない」
「な!?何故だ?何が悪かった?」
喚くグランに、私は知らんとそっぽを向いた。
■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.8 女 ヒューマン
HP 90/90 MP ∞ SPEED 7
ジョブ:チャイルド
魔法属性:全属性 『上級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』『付与魔法 Lv.15』『特級火魔法 Lv.1』『古代闇魔法 Lv.I』
スキル:『探索(サーチ) Lv34』『審眼(ジャッジアイ)Lv.27』『隠密 Lv.6』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『万能保管庫(マルチアーカイブ)Lv.1』『ユニーク:絶対防御』『双剣術 Lv.10』
状態:『若返り』『闘神の加護』
称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』『画伯(笑)』『発明者』『デザイナー』
アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]
所持金 169,591,410ユール
■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人
HP 1,690/1,690 MP 2,390/2,690 SPEED 299
ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕
魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』
スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.82』
称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』
■ウォルフ:(9)Lv.13 男 獣人(狼属)
HP 125/125 MP 39/39 SPEED 194
ジョブ:孤児
魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv7』
スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv5』『掻爬 Lv7』
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