第32話 オーク肉の野菜煮込み


 ヴァンガルドさんと奥さんのソフィアナさんに見送られて店を出ると、木工屋で木の皿とコップを買い足して宿に戻ると、女将さんに2週間の延長と裏庭を借りる許可を得る。

 食事は、裏庭を借りて済ますことした。メニューは、串肉。不味いなら、自分で作ろうホトトギス。念のために認識阻害を織り込むイメージした結界で、匂いと見られて不味いものをガードしてから調理を開始した。

 まずは、ウォルフとグランに私が切り分けた肉を串にさしてもらう。ウォルフたちに切らせると、肉片じゃなく肉塊になる。火の通りが悪いって何度言っても、理性より食欲が勝つらしい。とそこで思い出す。串はずっと、私が枝を削って作った串だったけど、鉄の串が欲しい。ヴァンガルドさんのところで売ってた気もするから、買わねば。頭のリストに書き込みながら、ちょっと明日以降の私のご飯を下拵え。

 ステーキ状に切った肉に下味をつけ、オーク肉を薄切りにしてコショウを振る。野菜はタマネギとニンジン、じゃがいもを一口大に、ほうれん草をざっくり切って、ショウガも細切れにして匂い消しとして使おうかな。

 切ったものは今日ヴァンガルドさんの店で買ったばかりの陶器の大きめのお皿にのせる。何でも、奥さんは陶工のスキル持ちらしい。夫婦2人3客って感じで似合いの2人だったとほっこりしながら、木の皿も出す。

 焼き場は2つ土魔法で作り、夕飯組には準備ができたら呼ぶように指示し、万能保管庫で合成して作ったハーブソルトを用意しておく。塩味だって、程よく振れば美味しい。なのに、何であんな暴力的なまでの味になるのか。多分、肉質の問題もあるんだろう。正直、魔物肉は家畜ブランド並みなレベルが多く、「日本畜産業界に謝れ。あの人等の血と汗の努力に謝れ」と言いたくなるくらい、管理してない上雑食のくせに美味しい。なのに、血抜き技術がそう発展してないから、その生まれ持った肉質をダメにしているのが惜しまれる。

 そして、悲しい人間の性か、調味料は多く掛ければ美味しい、贅沢だ。と思い込んでしまう謎心理も働いているのだろう。嘗て、香辛料を多く掛ければ掛ける程金持ちの象徴だとした国や、砂糖を使えば使うだけ贅沢だとした国があったのは、そう言う恣意的思想価値操作に他ならない。が、過ぎたるは及ばないんだよマジ。寧ろ劣る。私は、あんな血管を苛め抜くもん食いたない。大人になって泣くよ?寧ろ、血管が擬人化したら血の涙流すよ?調味料が塩しかないと思ってる節のあるこの世界の人等もどうかと思うけど。ちゃんと味してんだろ。自分の舌を信じろ。

 内心ぼやきつつも手は止めず、もう1つの焼き場にフライパンをかけてステーキを焼き始める。ウォルフたちの用意が済んだところで、ハーブソルトを適量振り掛けウォルフに串を見ておくよう指示。ステーキの焼きをグランに任せる。

 その間ちょっと休憩。リストを眺めつつ、顔を顰める。保存枠がもう72埋まってる。私の保管庫はまだLv.1だから100枠しかなく、1枠に入るのは250。単位どうなってんのか謎だけど、ベージ(コショウ)は粒で250カウントではなくgっぽいし、今日買ったはずれの根(じゃがいも) はちゃんと1個カウントだった。それに素材を加工したものは、元の素材とは別枠保管される仕組みになっている。1枠で1つとかしかないアイテムは枠が勿体ないからさっさと処分した方が吉だ。だからこそ、今日はあのホワイトロックの毛皮を売った。ホントはA+の革は持っておきたいところではあったけど、無限収納でなくなった弊害だ。幸い、魔石は属性ランク別カウントだから、枠がピンチになったら属性別で低いランクは捨てるか売ろう。


「カエデ、終わったが。疲れているんじゃないのか?今日は早く休め」


 明日明後日は、枠の整理も兼ねての基本部屋で過ごそうか。と考えたところでグランが声を掛けてきた。インヴェントリは見えるものではないから、傍目には空中をぼんやり見ているように見えてしまう。連れがいるとこういう時は変に見えるんだろうと苦笑しながら、首を振る。グランたちにも、旅初日に私が空中見つめて黙ってるときは、放って置いていいと忠告しておいてけど、私がグランたちなら頭を疑うだろう。


「大丈夫。フライパン貸して。《クリーン》」


 私は焼き上がったステーキを保管庫に仕舞い、フライパンをリセットすると木べらを取り出す。これは、帰りに立ち寄った木工のお店の人に説明して作ってもらった。さすがプロと言うか、こっちは手製じゃなくスキルと魔法でちょちょっと作ってくれるから、口頭説明だけでその場で作ってくれた作品だ。

 オリーブオイルを熱してタマネギがしなっとするまで炒め、ニンジン、ジャガイモを投入しオークの薄切り肉を入れ、少し肉に焼き色が付いたら浸る程度に水を加えてローズマリー、ショウガ、各種調味料で味を調え弱火で煮込む。

 その間に出来上がったらしい串肉で夕食とした。うん、美味しい。そこでふと、私の視界の端に動くそれが写る。そう言えば、ウォルフはいつも食事時は尻尾ぶんぶんなのに、初串肉食べてた時はピクリともしていなかったなと思い出す。てっきり、犬科の獣人の食事中の条件反射なのかと思ってたけど、そうでもないのかもしれない。次いでグランを見る。グランは・・・。


「どうかしたか?」

「いや。美味しい?」

「あぁ。とても美味い」

「そう」


 視線に気付かれ、一応確認する。グランは見た目は変わらないけど、まぁよくよく見れば目元が綻んでるのか?あと、スピードが味噛み締めてるっぽいけど速い。あの時は、無表情に2〜3回で飲み下してたからな。あれはある意味凄い。例えあれが食べれる代物だったとしても、私ならまず喉を詰まらせ、胃が悲鳴を上げているはずだ。

 一口噛み締める度、肉の旨みと焦げた香ばしさ、丁度良い塩味とハーブの香りに口元を緩めた。やっぱり、串焼きはこうでないと。食後、私はハーブティーで脂をリセットしながら口を開く。


「ダメだよ、ウォルフ。それは明日以降のご飯」

「分かってるし」


 匂いを嗅いでうろうろするウォルフに注意すれば、耳を伏せてそれでもじっと煮込みを見つめている。だが、ダメなもんはダメだ。


「取り敢えず、明日は用を済ませたら部屋でゆっくりと思ったけど、どっか数日分のご飯作る場所確保しないとだね。認識阻害の結界張ってみたけど、私隠密Lvまだ低いし、看破されかねないから根本的に人目が少ない場所がいいな」

「街から出るか?」

「それも考えたけど、アレだよね。もう一回入るってなると、門通るんだよね?」

「普通はな」

「明日もディオルグさんたちが一緒するっては言ってくれたけど、私が断ったし」

「この宿でいんじゃねぇか?今みたく」

「それしかないか。2週間。そこそこ長いな」


 出来上がったオーク肉の野菜煮込みも熱いうちにフライパンごと万能倉庫に収納する。そこで分かったのは、面白いことにフライパンと料理が別々の枠に入るわけではなく、1枠に仕舞われている。そう言えばステーキも皿ごと1枠だ。

 部屋に戻ると、グランのバックと私の保管庫の中身を整理。寝る準備だけして、私は早速実験を開始する。まずは何をおいても服だから、布を弄ってみよう。


■コットン (綿)

綿でできた布。通気性◎ 吸収力◎ 耐久性△ 肌ざわり 〇 伸縮性 ×魔法特性なし

■スパイダーシルク

タラントスパイダーの糸でできた布。通気性× 吸収力〇 耐久性◎ 防水性 〇 肌ざわり ◎ 伸縮性 △ 魔法耐性 水・雷

■キャタピラクロス

スティッキーキャタピラーの糸繭でできた布。通気性〇 吸収力× 耐久性◎ 防水性 ◎ 肌ざわり △ 伸縮性 ◎ 魔法耐性 水・火・土


 それぞれ特徴的には良し悪しがある。知っているのはコットンくらいで、あとは異世界性なだけあり魔法耐性とかもある。コットンとキャタピラクロスを合成すると、通気性と吸水性のある伸縮性に富んだ布ができた。布を手に取り、決める。これはあれだな。

 スパイダーシルクとキャタピラクロスは耐久性・防水性があって、肌ざわりのいい生地だ。魔法耐性はランダムらしく、1度目は雷と火、2度目は水と土と雷になった。耐久性もあるから、上下の服のメイン布地はこれを使うことにする。

 欲を言えば染色をしたい。グランは黒、ウォルフははっきりした色味が似合いそうだなと思いながら、私は次の段階へ移行した。


■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.8 女 ヒューマン

 HP 90/90  MP ∞  SPEED 7

 ジョブ:チャイルド

魔法属性:全属性 『上級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』『付与魔法 Lv.10』『特級火魔法 Lv.1』『古代闇魔法 Lv.I』

 スキル:『探索(サーチ) Lv34』『審眼(ジャッジアイ)Lv.27』『隠密 Lv.4』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『万能保管庫(マルチアーカイブ)Lv.1』『ユニーク:絶対防御』『双剣術 Lv.10』

 状態:『若返り』『闘神の加護』

 称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』『画伯(笑)』『発明者』

 アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]

      所持金 169,457,210ユール


■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人

 HP 1,690/1,690  MP 2,690/2,690  SPEED 299

 ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕

 魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』

 スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.82』

 称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』


■ウォルフ:(9)Lv.13 男 獣人(狼属)

HP 125/125 MP 39/39 SPEED 194

ジョブ:孤児

魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv7』

スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv5』『掻爬 Lv7』

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