第31話 無ければ作るまで

 漸く到着したのは、お店と工房が一緒になってるらしい金物屋さん。念願のフライパンや鍋がある!

 私は感動にベシベシと強めに叩いてグラタクからの下車を促し、店に入る。


「綺麗な鍋だぁ。フライパンだぁ。…他はないか」


 置いてあるの金物はそんなもんだった。しかも、数はないところを見ると受注販売が基本なのかもしれない。こういう世界で、そうそう買い替えなんてしそうにないしな。でも都合よく、焼き物も扱っているようで陶器の器とかも置いてあった。

 私は店内を見渡し、店員さんが出てくるのを待つ。する遠くから、女性のドワーフのおばあさんが出てくる。


「いらっしゃい。まぁ。かわいいお客さんね。あら?ディオルグさん。どうしてここに?」

「よ。俺らの連れだ。色々案内しててな」

「そうなの。じゃぁ、お兄さんが?」

「いや。俺ではない」


 グランを見て商談を始めようとするのを、グランが止めて私を指す。


「カエデだ」

「お嬢さんが。お料理するの?」

「えぇまぁ。ちょっと商品について話を聞きたいので、ヴァンガルドさんいらっしゃいますか?お兄さんのヴァンガードさんの紹介で来ました」

「まぁ~。しっかりしたお子さんね」

「俺の子ではない」


 私を褒めてグランに微笑むおばあさんに、グランは眉を寄せて反論する。まぁ、種族違うけど獣人の特徴の薄いハーフって可能性もあるもんね。


「どうかしたのかい、フィア」


 声に釣られて店の様子を見に来たのか、男の人の声が店員のおばあさんにかかる。


「あなた。可愛いお客さんが、あなたにご用があるんですって」

「可愛い客かい?」


 そう言って店内に顔を出したのは、ヴァンガードさんから粗野さを取ったおじいさんドワーフだった。


「君が?」


 男4人、男の子1人に視線を流し、最後に目に留まった私を『可愛い客』と見做して、ヴァンガルドさんが尋ねる。


「カエデって言います。ヴァンガードさんから紹介されて。少し特殊な調理器具を頼みたいんです。製作可能かと、見積もりと、納期を教えてください」

「……随分としっかりしたお嬢さんだねぇ。兄貴からの紹介なら、話を聞かない訳にはいかないね。おいで、奥で詳しく聞こう」


 手招きされた私の後ろに付いて来ようとする男性陣の内、3人に私は向き直る。


「私、もう少し時間かかりますし、案内は此処までってことで、帰っていただいても問題ないですけど。如何します?」


 此処は日用品の金属工房だ。独身だって聞いてるし、成人男性に用はないだろうから、暇でしかないはずだ。


「いや、今日はたいして用事もないし。俺は残る」

「僕もカエデさんの欲しい物に興味があります」

「俺も」


 特に面白いことはないと思うが、当人がそう言ってるのなら断ることもないかと、私はヴァンガルドさんの待つ奥へと向かった。


「で?どんなものが欲しいのかな?」

「何か書くものはありますか?紙が高ければ、砂とかでもいいんですけど」

「大丈夫だよ。ちょっと待っていなさい」


 私は異世界(ここ)に来て一番高いテンションで、前のめりにお願いした。


「欲しいものは調理器具です。私たち旅をしていて、野営が多くて。そうすると、なるべく軽く、コンパクトに、手軽に扱える調理器具が欲しいと思って。あと、できればこう言う感じで物を挟むための器具が欲しいです。火にかけたフライパンの食材を扱う為の物なんで、取っ手のところは熱くなると困りますけど、柔らかくないと挟んだりできないので。通常時は開いていて、力を加えると先がつくようになることで何かを挟めるような仕組みです。あとは、ハサミってありますか?こっち側だけ刃になってて、2本の刃の面が交錯して、この留め具が支点になってこういう感じで動くんです」

「あぁ、分かるよ。この、物を挟むのは鍛冶でハジキって呼ばれてる道具がある。それに似ているな。ハサミは初めて聞くが、面白い道具だね」

「大きさは、これくらい」


 私はジェスチャーと画で説明しながら、本命の調理器具を描く。実物を触ったことがあって助かった。アウトドア好きの従兄様々だ。重ねて嵩張らないようにすることと、蓋を締める留め具も拡大版で描いておく。


「こういう風に、一番中にお湯を沸かす薬缶を、次にちょっと深めの鍋、一番外側が淵のあるフライパンの3set。取っ手はこう普段引っかからないよう鍋の横にくるようにします」

「ここは如何いう風に固定するんだい?」

「此処がちょっと相談事なんですけど、鉄の素材だけだと固すぎて無理ですけど、もう少し柔らかい素材を混ぜてもらえないかと。柔すぎてもダメです。少し窪みがあって、力を加えるとこの仕切りになってる僅かな幅が広がって、隣の窪みに移ることで固定可能となるんです」

「あぁ、なるほどね。金属は固いだけではないから、しならせるわけだね?でも、形が戻らないといけないか。ふんふん。面白い!鉄ではなく、合金の調理器具を造ろうって言うんだね!ちょっと待っていてくれ。今扱ってる石を持ってくるよ」


 この世界は、調理器具は鉄製だけらしく、何処か興奮して立ち上がって、素早く外へ消えたヴァンガルドさんを待つ間、クリスさんが設計図を見る。


「ヤカンというこれは、何のための物なんですか?」


 そうか、態々湯を沸かすための調理器具はないのか。


「それはお湯を沸かすためのものですよ。蓋があって、こう注ぎ口があることで、お湯が沸きやすいし、使いやすいんです」

「へぇ」

「ここまで小さくなんのはいいな。でもよ、肉焼くのにこんなもん必要か?」

「色々料理の幅が広がりますよ。肉は串焼きで食べる場合、直火で済むんでしょうけど。私それだけ焼く訳じゃないんで」

「お嬢さん…カエデちゃんだったね。お待たせ。今うちにあるのはこれなんだけど」


 石を抱えて戻って来たヴァンガルドさんに出された鉱物の塊が何かなど分かる訳はないけど、取り敢えず素人考えで特徴を上げていく。


「まず、熱伝導が高くないと調理には向きません。次に錆びやすいのも避けたいです。あと、熱に弱いのは論外です」

「なら、これとこれは外そう」

「鋳造後の硬さの順に並べてもらえます?」

「鋳造って・・・良く知ってるね、そんな言葉。素人さんには伝わらに事が多いのに」

「まぁ色々です」


 私がとぼけてる間に、横に並べてくれた。


「こんな感じだね」

「じゃぁ、次に縦で熱伝導が高いもの順で上下に振り分けましょう」

「なるほどこうすると分かりやすいなぁ」


 比例グラフの要領で分類する。その間に、私はジャッジアイで観察。お、これいいな。確か、高校の化学で鉄とクロムがどうのこうのって言ってたから、同じ性質のこの石と合わせればステンレス合金ができるはず。銅製のフライパンも魅力的ではあるけど、手入れがな。いや、でもこの世界なら最悪魔法でどうにでも…よし、銅製の幸平頼もう。こっちはクリーンあるし、洗いが楽だ。


「鉄と…このクリィスロックと呼ばれてる鉱物が合うかもね」


 さすがプロ。何も言わずとも私が目を付けた鉱物を引き当てた。これなら、割合とかも任せて問題なさそうだな。


「ですか。私は鍛冶のことはよく分かんないので、あとはお任せします。もしさっきの取っ手の溶接とかが難しいようなら、形は普通で構いません。わがままを言ってすみませんが、時間かけたくないんで、最短納期をお願いしたいんです」

「どれくらいだい?」

「いつまでにって言うのは本当にないですよ。個人的理由から、早く出立したいってだけなので。あ、ただ銅製のこういう鍋が欲しいんです。こっちは早めで」

「銅製とは、これもまた珍しいことを。このぼこぼこは飾り模様かい?」

「いえ、内側を丸い槌で叩く感じで、この叩かれた部分だけ薄くなることになりますが、それが熱の伝わり方とかに関係してくるんです。難しいのは、この凹みの薄さが他の凹みと同じ厚さにならないといけないってことですけど」

「そうなのか。君は、本当にヒューマンなのかい?叡智の探究者 エルフのような子供だね」

「初めて言われました。エルフの美しさに謝った方がいいですかね」

「はっはっはっはっ。じゃぁ、この銅鍋と先に頼まれた道具は明後日にはできる。こっちは色々試させてほしいから、2週間もらえるだろうか」

「それでできるんですか?」

「儂もドワーフの端くれ。金属加工はお手のものだよ」

「なら、合金が出来たら、先にこれ作ってもらえませんか?」


 私がボウルとホイッパーも追加依頼すると、あっさり快諾してくれた。職人、頼もしい限りだ。


「それで、お金はいかほどに?」

「そうだなぁ。初めての試みでもあるし……小金貨1枚でどうだろう?前金500,000で」

「ちょっと待て。安くねぇか?」


 そこまで周囲はもう一言も口を挟まずにいてくれたが、ここで初めてディオルグさんが口を出した。

 私には分からないが、これは安いのか?高いんじゃなくて?分からん。


「これが上手くいけば、鉄より軽くお手入れ簡単なフライパンや鍋が作れるようになる。そうすれば、多分今の金額でも貰いすぎになる。あぁ、そうだった。この発明、鍛冶ギルドに連名で登録させてもらえないかい?」


 やっぱり、マンガあるあるはあるあるらしい。


「私、訳ありでギルドとか組織に属すつもり皆無なんです。全てお任せするんで、私のことは伏せてください。この街にも旅の準備するために寄っただけなんで、戻ることもないですし」

「しかしそれじゃ、儂が貰いすぎになってしまう」

「もしその合金を成功させたなら、ヴァンガルドさんの手腕です。誰に恥じることなく貰うもん貰っていんじゃないですか?恩を返していただけるというなら、黙っていてください。それが最大の恩返しです。あ、そうだ。一つだけ、この2つの石記念にもらえません?それでチャラってことで」


 何度でも言おう。私は、めんどう事は本当にごめんだ。晴れやかな笑顔でそれだけお願いする私に、ヴァンガルドさんが最終的に折れた。


■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.8 女 ヒューマン

 HP 90/90  MP ∞  SPEED 7

 ジョブ:チャイルド

魔法属性:全属性 『上級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』『付与魔法 Lv.10』『特級火魔法 Lv.1』『古代闇魔法 Lv.I』

 スキル:『探索(サーチ) Lv34』『審眼(ジャッジアイ)Lv.27』『隠密 Lv.4』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『万能保管庫(マルチアーカイブ)Lv.1』『ユニーク:絶対防御』『双剣術 Lv.10』

 状態:『若返り』『闘神の加護』

 称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』『画伯(笑)』『発明者』

 アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]

      所持金 169,597,210ユール


■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人

 HP 1,690/1,690  MP 2,690/2,690  SPEED 299

 ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕

 魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』

 スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.82』

 称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』


■ウォルフ:(9)Lv.13 男 獣人(狼属)

HP 125/125 MP 39/39 SPEED 194

ジョブ:孤児

魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv7』

スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv5』『掻爬 Lv7』

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