第24話 街へ

 早めに就寝して目が覚めると、まだ暗い中で無数の赤い点がこっちを見ていた。何度か経験すると慣れたもの。なんて訳はなく、何度見てもキモイ。1~2体だったら、まぁって感じだけど、今日の早朝のお客さんは40~50体はいた。しかも、こいつら食う気満々の殺気立った目してるから、こう背筋がゾクッてするものがある。

 サーチで確かめると、完全に囲まれている。昨日の団体さんのお仲間だろう。グランは起きていて、ウォルフもさすがに落ち着かなかったようでじっと結界の外を見ていた。


「カエデ、もういいか?」

「何、2人とも寝てないの?」

「さすがにこの殺気では。俺は数日寝ないでも問題はないしな」

「てか、お前はよく寝れんな。何も感じねぇの?」

「直で見たらゾワッてはなるよ?でもまぁ、そういう感覚ないから。獣人は特に大変そうね」


 私はおざなりに同情すると、魔法で火を灯し湯を沸かす。


「おい。まさかとは思うけど、まだ出発しねぇ気かよ?」

「だって、早くつき過ぎても門開いてないでしょ。ご飯しよう」

「これどうすんだよ」


 動き出した私たち獲物に、キチキチと嫌な感じの音があちこちでして、結界に張り付く節足動物特有の脚が増える。


「キッモ。マジキモイ。朝から萎えるわぁ」

「カエデ、先に駆除しよう。俺だけ出してくれ」


 魔法結界は中の人が出れば防御範囲から外れることになるが、私の結界の場合は中の他人の意志では出れない。でも、私が許可すれば出入り可能になる不思議結界だ。まぁ、火魔法や木魔法や土魔法の結界だと、出れるかどうかはその人の属性にもよるらしいが。火傷とか、一部の壁に穴開けば意味ないことになっちゃうからね。

 私は少し考え、イメージする。


「《アブソリュートゼロ》」


 液体窒素で粉々になる薔薇を。瞬間、犇めいていた脚が動く気持ち悪い音が止み、目を開ければ囲んでいた赤い光は消えていた。


「「・・・・・・・・・・・」」

「さ、ご飯にしようか」


 マップの赤点も周り囲んでいたのは消えていたのでよしとして、私は薄切り肉と野菜の炒め物に取り掛かった。米なんて贅沢は言わないけど、いい加減炭水化物が食べたい。パンかパスタが食べたい。小麦粉あるのに、イーストも窯もないから、できるのはナンくらいだ。


「なんてぇかさ、こいつといると常識が分かんなくなんだよな」

「カエデは素晴らしいな。氷魔法も使えるのは知っていたが、詠唱を省いた上級氷魔法まで使えるのか。しかもあの威力」


 後ろでなんか言っているが、気にしない。心に優しい害虫駆除をしただけで、常識はずれなことはしていない。虫なんて元々拾う気はないから何も問題になるようなことはしていないと自負している。

 ご飯を食べてさぁ出発!と歩き出して、見知った点が近づいてきた。


「お前ら、やっと見つけた」

「もしかして、寝ずの強行軍したんですか?すげぇな、冒険者」


 谷の入り口手前でグランがブラッディベアと交戦中に追い付いて来た5人は、昨日の今日で相当疲れが見える。


「さすがに少しは休んだわ!」

「クッソ疲れたけどな」

「もう無理です。休みましょう、リーダー」


 怒ったように答えたディオルグさんにアドルフさんがぼやき、フィーネさんが休憩を提案した。



■ディオルグ (32) Lv.77 男 ヒューマン

HP 122/445 MP 31/358 SPEED 80

■アドルフ (25) Lv.89 男 獣人(白虎属)

HP 100/509 MP 15/390 SPEED 100

■クリス (26) Lv.75 男 ヒューマン

HP 45/370 MP 44/437 SPEED 75

■アリア (26) Lv.72 女 獣人(狐属)

HP 40/400 MP 8/424 SPEED 60

■フィーネ (21) Lv.57 女 ヒューマン

HP 13/300 MP 17/344 SPEED 40


 回復薬や魔法で凌ぎきったのだろうが、もう気力も限界っぽい。ちょっと、そのガッツを讃え、手を翳す。


「《回復(キュア)》《治癒(ヒール)》」

「「「「「!!!」」」」」


 驚く5人に一応くぎを刺した。


「言っときますが、秘密ですよ?これのせいで追われてるってのもあるんですから」


 別段誰にも追われてるわけじゃないが、訳あり感が出る台詞かなと。そんな私の適当な言葉に、全員呆然と頷いた。


「あ、その・・・助かったぜ」

「カエデ」


 本当についさっき交戦を始めたばかりのグランが、魔物を倒して戻って早々私を抱き上げる。子猫を生んだばかりの親猫の様な警戒ぶりだ。


「ま、追い付いたのは実力ですから、同行を許可しましょう。街の案内くらいはしてくれるんでしょ?」

「おう。任せとけ」


 私の提案に、ディオルグさんは胸を叩いた。

 道すがら世間話をしつつ移動する中、私は高鳴る胸のドキドキを隠して尋ねる。


「あ、あの。因みに、皆さんがおすすめの食べ物って、何ですか?」

「「串焼きだ」」

「『鉄の弓』のクロッカスの丸焼きかな」

「「ホーンラビットのステーキ」」

「・・・・・・・・・・全部、肉なんですね。クロッカスって言うのは?」

「あれ?知らないですか?このくらいの魔物です」


 魔物にしては常識的な、中型犬程度の大きさらしい。

 拭えに不安から目を逸らしつつ、序におすすめの店や宿屋を聞いている間に、道の先に大きな石門が見えてきた。


「着いたな。ようこそ、ダンジョン都市“ルアーク”へ。歓迎するぜ」


 要塞と言うのだろうか。テレビでしか見たことのないそれに、少し感動を覚えた。


「俺たちはギルドカードで並ばずに入るが、門衛の知り合いに話は通しておく」

「ま、世話になりっぱなしだしな」

「言っておくけど、変なことすんじゃないわよ。うちが顔利きしてあげるんだから」

「分かりました。ありがとうございます。心配しないでください。用が済んだらさっさと出ますし」

「アンタ、やっぱ可愛くないわね」

「カエデは十二分に愛らしい。お前は目がおかしいんじゃないのか?」

「グランは頭がおかしいよ。じゃ、約束は必ず守ってくださいね」


 ギルドへの報告に急ぐというディオルグさんたちとそこで別れると、馬車や人が並ぶ烈の最後尾へと向かった。そこそこ早いうちに着いたとは思ったけど、朝早くでも人が並んでいた。街の入り口で並んで待つのは、不思議な感じだ。

 こうして、ついに私は初異世界文明都市に辿り着いたのだった。


■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.8 女 ヒューマン

 HP 90/90  MP ∞  SPEED 7

 ジョブ:チャイルド

魔法属性:全属性 『上級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』『付与魔法 Lv.10』『特級火魔法 Lv.1』『古代闇魔法 Lv.I』

 スキル:『探索(サーチ) Lv34』『審眼(ジャッジアイ)Lv.27』『隠密 Lv.3』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『万能保管庫(マルチアーカイブ)Lv.1』『ユニーク:絶対防御』

 状態:『若返り』『闘神の加護』

 称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』

 アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]

      所持金 56,780,450ユール


■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人

 HP 1,600/1,690  MP 2,180/2,690  SPEED 299

 ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕

 魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』

 スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.80』

 称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』


■ウォルフ:(9)Lv.13 男 獣人(狼属)

HP 120/125 MP 39/39 SPEED 194

ジョブ:孤児

魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv7』

スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv5』『掻爬 Lv7』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る