第23話 サーペントステーキ


 この世界は、太陽と月と時間の考え方は地球の太陽暦とそう変わらない。ただ、四季はなく昼と夜はきっかり12時間に分かれるとのことで、地方によっては冬季と夏季とか、雨期という時期があるんだそうだ。あと、意外に時計があった。原動力は魔石で、そこそこに高級品なんだとか。

 空を見上げれば、太陽が大分落ちてきていて、体感時間的におやつの時間だ。余計な時間食ったせいで進捗が遅れてしまったが、在日制限があるとの情報は聞けたので良しとして、立ち上がった。


「あ、そうだ。ダンジョンで思い出した。探してる新しいダンジョン、多分ここからさっきくらいのスピードで半日ちょいで着くと思いますよ。崖の上の方にありました」

「ん?何で知ってんだ?」

「塩拾いに立ち寄ったんで」

「・・・・・・・・入ったのか?」

「入りました」

「そうか」

「なら、俺たちが行っても仕方がないんじゃないか、リーダー」

「ですね。名付けが済んでいるなら、今頃マップに表示されてるはずですし」


 初進入が果たされるとダンジョンの名前が出ると言うあれらしい。実際、ダンジョンから出たら“ザームカイト”と文字が出ていた。そして今のクリスさんの話から推測するに、名前が刻まれたダンジョンは噂のダンジョンマップなるものに名前が出ると。私のサーチマップみたいだな。


「それより、ジャイアントキルの報告をした方がいいんじゃないかしら」

「そうですよね。兵隊であの数なら、巣は中規模以上ってことでしょうし。下級ダンジョンより危険度が高いですよ」

「そうだな。よし、一旦戻るぞ」

「了解」「おう」「えぇ」「はい」


 向こうも方針が決まったらしいのを眺めつつ、私は移動スタイル(だっこ)に戻り、別れの挨拶を告げた。


「じゃ、達者で」

「待て待て待て待て。行き先同じなんだ。一緒に戻ろうぜ」

「嫌だ。こっちにメリットがない」


 その提案に、半眼になって否やを下す。


「この峡谷は、ルアークに近づくほど魔物が強くなる。ジャイアントキルは単体ではLv.Cだが、群れで来られればLv.A以上だ。戦力は多いに越したことはないぞ」

「グランがいれば問題ない。ね」

「足手纏いだ」

「大体、グランの戦力あてにしてるのはそっちでしょうし。そこまで面倒見てやる義理はないです」

「俺たちと一緒すれば、門番に口利きしてやれる。滞在制限なしになるぞ」

「どの道、中長期での滞在はできないから、短期で問題ないんで。Aランクだろ、意地を見せろ。あんたらならやれる。ファイト!」

「おい、ちょっ」


 私は中途半端な敬語を止めて、おざなりに返すとグランに頷いて旅を再開した。


「大丈夫だって、あの人等も腐っても高ランク冒険者なんだから。グランみたいなことはできないまでも、魔物の巣があるって分かってる今、慎重に進めばいけるはず」


 何度か振り返るウォルフに、私は気休めの言葉を送った。


「おう」


 正直、旅路に他人を連れ歩くのは避けたい。私の魔力量あってこその旅事情を封印するなんて無理だし、封印しなかったらしなかったで情報が漏洩してしまう。こればっかりは、ウォルフを甘やかすことはせずに進む。


「グラン、そろそろ野営にしようか」


 陽が沈みかけた時間、私はマップを見ながら告げた。


「だが・・・この辺り、いつも以上に多いが大丈夫か?」

「多分、ジャイアントキルの残兵だろうね。巣が近いのかも。と言うことは、あの人たちの言っていた通りなら、明日の昼には到着しそうか……。明日、日の出前に出発しよっか。そしたら午前中には着くはず。貴重な3日だからね。時間無駄にしたくない」

「分かった。だが、いつもの様な地上だけでなく、地下にも結界を張った方がいい」

「そうだね。蟻だもんね」

「腹減った」

「じゃ、私は夕飯用意するから、グランはそこで着替えて。ウォルフは寝床作って」


 私は結界を張ると岩の壁を作ってグランに着替えを指示し、ウォルフには昨日からやっと人間らしい就寝環境を作れるようになった毛皮をアーカイブから出して整えるようにお願いした。


「カエデ、寝具として毛皮を使うのなら、2つでいいのではないか?」

「何?ウォルフと寝たいの?仕方がないなぁ」

「俺は今まで通り」

「それは許さん。ようやくフワフワ寝具ちゃんが手に入ったんだ。何を好き好んで、ごつごつ筋肉マットを選ぶか。私の眠りを妨げるの奴は、その場できっぱり捨てて行く」

「ウォルフ、カエデの隣は俺だ」


 素早い方針変更で寝具の順番を指示し岩陰に消えていくグランを見ながら、あれはあれで本当に179歳なんだろうかと、ステータス情報を疑った。


 夕食は何にするか。インヴェントリリストを確認し、私はある肉を取り出す。


■ブラックサーペントの肉

脂が乗っているが、しつこくなくふわっとした高級肉。


 薄く切って、魔法で表面を軽く火で炙ると塩を振って口にしてみる。高級和牛と鶏肉のささ身の様な味に、思わず口角が上がる。肉の臭みが全くないのは、万能ちゃんの血抜き処理もありそうだけど、もともとの肉質がそうなのかもしれない。

 串焼きも美味しそうだし、ステーキもいい。色々使えそうではあるけど、まずはそのまま肉として食べようと決め、お肉を1cmの厚さに6枚切って表面に隠しを入れると、筋もなく扱いやすい肉質だった。臭み取りの香草の下処理は必要なさそうだから、塩とコショウを振って揉み込み、ニンニクを薄切りに。味が落ち着く時間を置くのは面倒だからもういいやと、お腹が空き過ぎたのか背後にスタンバってる欠食児童たちの無言の圧もあり諦める。

 フライパンを火にかけ、アロナの葉で油を引くと、中央で絞って薄切りのニンニクを入れる。ニンニクのいい香りが立ち上がるタイミングでニンニクを取り出した油に、肉を投入。強火で表面を焼き逆も焼き色をつけると、火力を下げて中まで火が通ってそうなタイミングで火を止めた。初めて扱う肉だし、色を見たいから肉を切って皿に盛ると、ニンニクをちらす。それを6回繰り返す。最後にマゴの実を取り出して、油の残っているフライパンを熱して割入れ、出来上がった目玉焼きを上に乗せた。

 食事の前にグランの着た服に付与魔法で自動調整をかけ、お皿を配る。


「はい。グランは図体でかいけど、ウォルフも成長期だから、足して割って2枚半ね」

「し、しかし。それではカエデが」


 このところ、3食が身に付いたせいか胃がでかくなってきているっぽい男どもは、よく食べる。が、私は疲れるから量は心持ち程度しか増やす気はない。食べ盛りの男子に満足いくまで食べさせると、量が半端ないと従兄弟たちを見ていて知っている。山盛りの何十人分だよって唐揚げが、ひとつ残らず2人の胃袋に消えたのを見て、漫画みたいだなと感心したのを覚えている。


「私、そんな食べれないし。いただきます」


 お皿から目を離さないまま言われても説得力がない。変な遠慮もされても困ると、私はそのまま冷めないうちに料理に口を付けた。


「!!!!うっま。え、美味しい。あ~、これから揚げもいけるかも」


 材料があれば是非×2ステーキソースで頂きたかった。これは、濃い味にあう。脂が乗ってるからバターはくどくなりそうだけど、ゆずとか柑橘系とか、和風でさっっぱりもいいなぁ。この間食べたオーク肉は完全に黒毛豚だったし。魔物肉、畜産管理してないくせに、美味いんだよなぁ。農家泣かせだよね。豚まん食べたい。

 魔物肉のクオリティに思いをはせている私の横で、ウォルフたちもガツガツいっている。


「うめぇ!!!すっげぇうまい。俺、これ一番好きだ」

「確かに、肉そのものとしては一番深みがあるな。何の肉を使ったんだ?」

「ブラックサーペント」

「!?ブラック・・・・そんなものを俺たちに食べさせていたのか」

「・・・・・・・・・・・・Lv.Bの肉、売らずに食ったのか、お前」

「何その、人でなしみたいな失礼な言い方。食わずにどうするよ。魔物なんて食糧でしょ。街で暮らすとかなら金が要るだろうけど。そしたらそれで、使わない素材売ればいい金になるだろうし」

「俺、貴族でも一生口にできるか分かんねぇって言われる肉、食ってんだな」

「そうだよ。味わってお食べ」

「そうだな。よく考えれば、Lv.AやSオーバーの肉などより、カエデの料理の方がよっぽど貴重だ。王族だとて、これほどの料理を食べれるヒューマンはいないぞ、ウォルフ」

「馬鹿言ってないで、さっさと食べなよ」


 冷めないうちに食べろよと声を掛けつつ、私は2人の食べる姿を見る。実は、初めこそウォルフは酷い食べ方だった。食器使ったことあまりないと衝撃的な告白をして、手で食べ散らかしている姿に、流石に食事を一緒にする者として無視し続けることも出来ず姿勢を注意して、魔法製の木のスプーンとフォークを使えるようになり、この頃はがっつきはしても見るに堪えかねないレベルではなくなってきていた。グランは元々所作は普通だ。特に何か顔を顰めるようなことはない…奴隷的盲目思考は別にして。しかも、私が作った箸も上手にマスターして、食事は私と同じ箸スタイルだ。何ともあべこべなグループだなと改めて思いつつ、私は夕食を終えた。


「明日の用意?」

「そ。拾ったマジックバックあったでしょ。それに色々詰めとく。これグランが持ってて。ウォルフは迷子にならないようにね」

「分かってっし。俺王都いたことあんだからな」


 お金に、素材――売っても騒ぎになりそうにないものを選別する。マジックバックは時間停止までは付与されていないけど、容量は荷馬車分くらいのタイプで、色々入れる。


「カエデは、街に行ったことは?」

「人並みには慣れてるけど、映画村とか慣れてない」

「えいが?…村よりずっと規模がでかい。はぐれないようにいつも通り俺が抱いて行こう」

「…まぁ、その方がいいか。今ちっさいし」


 自慢じゃないが、東京の通勤ラッシュという鬼畜な荒波にどれ程鍛えられたことか。が、ミニマイズ化した今の私では人波にさらわれる未来しかない。

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