第18話 進化するカエデ
私はゲームはチュートリアルスキップして、進みながら機能を理解する派だ。だから、Lv中堅まで進んだあたりで、スキルとか武器防具でもっとパワー強化できたのにしてなかったとかよくある。
つまり何が言いたいかと言うと、私は習うより慣れろ派だ。
ダンジョン出て夜だったので、その日はそこまでとした野営中。私はあることに気が付いた。
――なんだこれ?
『↑亜空間倉庫(アイテムボックス)最大』
何気なく開いたステータス画面に、「↑」のマークがあった。しかも、点滅してる。人は、どうしてかスイッチを押したい衝動に駆られる時がある。
非常用の赤いランプのついたアレとか、エレベーターの呼び出しボタンとか、深夜に見ていたネット通販サイトの購入アイコンとか。そして今は夜。私の中の、何かがうずいた。
――ポチッ
擬音はなかったけど、気分的にそんな感じで押してみる。てか、このウィンド触れないけどね。
次の瞬間、『亜空間倉庫(アイテムボックス)最大』の文字が歪み新たな文字が浮かび上がった。『万能保管庫(マルチアーカイブ) Lv.1』。
ジャッジアイを発動し、確認。
万能保管庫>亜空間に保管できる空間を創作する。1枠毎に1種類のものを収納可能。枠内容量、枠ともに術者の魔力量により容量が変わる。自動ソート機能、合成・分離・錬成機能、時間停止機能付き。Lv.1: 保管枠100 枠最大容量 250
「マジで!?」
「何だよ急に」
いきなり叫んだ私に、グランとウォルフが驚く。私はそれを気にするなと去なし、逸る気持ちを抑えつつ所持品の見方を探る。一応、後ろを向いて防音魔法で自己隔離もして、いざ挑戦。ボタンを探し、文字を押し、ブツブツ唱える。
「《マルチアーカイブ》…ダメか。《リスト》…これでもない。《インヴェントリ》…これも違うか」
目を閉じて、それっぽく意識を集中する。気持ちね、気持ち。そして、イメージする。ゲームのインヴェントリウィンドを。
「…出た」
期待に胸を膨らませそれを覗けば、今まで解体せずに収納していた獲物が、各部位に分かれて表示された。
「ヴィクトリー!」
立ち上がってガッツポーズした私に、ビクッと肩をすくませるグランたちに構わず、私は防音結界だけ解くと続けてサーベルタイガーの毛皮を取り出す。
「ワンダホー!やったよ!いけたよ!やったったよ!」
「ついに壊れたか?」
「カエデ、それは…」
「アイテムボックスが進化した!今の私は向かうところ敵なしだ!布と言わず、材料集めれば服も作れる…はず。多分。おそらく。認識通りのものならば!」
テンションマックスに喜ぶ私に戸惑う男組を置き去りに、私はそれに気付いてしまった。
「あれ?そうなるとルアーク行く意味なくね?」
谷に入って8日目。遺品物色でのスピードダウンと予定外のダンジョン探索を抜きにしても、もう半分の距離は過ぎてる。
「カエデ、それはつまり。スキルが進化したと言うことか?」
「え?あ、うん。まぁそうだね」
「…スキルって、進化するもんなのか?」
「極稀に、そう言うこともあるとは聞いたことはある。だが、長命種で数十年以上かけてスキルを鍛えた者だけだったはずだ。あとは伝説とかだ。カエデは…」
二人のもの問いた気な視線を受けて、私も理解した。あ、これ言っちゃダメなヤツだと。
「…………………………気にすんな。とにかく、私は進化した!」
「お前さ…いや、それはもういんだけどよ。カエデだし。もう全部それで納得することにする。ただ、本気で死神から離れんなよ。他人に絶対言うなよ」
「大丈夫。君たち(my ナビゲーター)だから開示するんだよ。でも他の人には秘密ね」
「この命が絶えようと、他言しないことを誓おう。カエデの信頼を裏切るくらいであれば、死んだ方がマシだ」
「当たり前だろ。言えるかよ。言っても信じる奴いねぇし」
「グランは、いつも大げさが過ぎるよね」
若干一名の狂信者的な眼差しに、まぁいいや。といつも通り放置して話を戻す。
「で、話を戻すと。これで私が収納したものは自動解体され、肉とか素材に分類される。しかも、素材が集まれば服とか靴を作れるはずなんだよ。てことで、やってみよう」
「内臓とかはどうなるんだ?」
「知らん。インヴェントリ内にないってことで、納得すればいいんだよ。細かいことを気にしてたら終わりなんだよ。そんなこと気にし出したら、もっと以前に何で私がジャングルにいんのかって冒頭から突き詰めて解明する必要が出てくるから。ご都合主義だなぁでいんだよ」
「そ、そうだな」
私の荒んだ空気に、ウォルフは同意した。なんか怖がってた感はあるけど、同意共調したからいいんだよ。
「と言うことで、昨日狩ったブラックサーペントの皮でブーツを…」
作ろうとして、異世界ファンタジー謎画面を見れば、私のゲーム知識のイメージのせいか素材枠が2つに真ん中に完成品が入るだろう枠が表示された。
素材枠の一つは複数の動物の毛皮が選べるようになっている。ここに一番多いフォレストウルフの毛皮を選んで、もう一つの枠も同じくいろんな毛皮が選択肢に表示されたのでブラックサーペントを選ぶ。合成アイコンが点滅したのに、ドキドキしながら押せば・・・。
「ホントにできた!チート万ざ………って、そんなうまい話があるわけないよね」
取り出せば、ブーツができていた。確かにブーツだ。出来はした。でも、サイズが…期待したサイズじゃない。私はもっとミニサイズを期待したのであって、こんな大人サイズではない。え?これSLMとか、XXX㎝とか選べないの?
「…本当に出来てるな」
「すげぇ」
「違う。私はこんなでかいサイズが欲しかったんと違う。サイズ調整機能とかないわけ?そういう魔法付与できないわけ?」
「あるにはあるが…まぁ、凄いことだぞ。俺はカエデの様な多様な機能の付いたアイテムボックスなんて聞いたことはない」
「そんな慰め言葉が聞きたかったんじゃない。私に必要なのは、サイズの自動調整付与だ」
諦めきれない私は、ブーツを前に考える。私の魔法は、今のところイメージだ。イメージさえあれなら、使えるんじゃないか?今まで、そういう感じでやってきた。常識を捨てろ!理屈は忘れろ!!お前ならやれる!!!やってやれないはずはない!!!!だって、ここは異世界だから!!!!!
目を閉じてぬーぬー唸った祈りが通じたのか、掌からほわっと何か出た感覚があった。カッと目を開いても、変わらずデンッと鎮座するそれに、私はジャッジアイで鑑定する。
■カエデのブーツ
フォレストウルフの革とブラックサーペントの革で作られたロングブーツ。カエデ作。自動調整機能付与。
無言でガッツを決める。神よ、ちょっと許してやらんくもない。ちょびっとね。ちょびっと。
楚々とブーツに足を通せば、ぴったりサイズに縮むそれ。私は、今日一勝利を嚙み締めた。
「「!!?」」
今度こそ驚きに声をなくす2人に、私は親指を立てて見せた。
「もう、無理に街寄る必要なくね?」
が、唖然とするグランたちを見て思い出す。
「あ、いやダメだ。私、まだファンタジーグルメ食べてない」
ルアークへ行く目的、服・靴・塩・美味しい食事の内の3つをコンプリートして既にルアークへ行く意義の5割は失われたものの、最後の一つは行かねばミッションを終えれない。ん?割合がおかしい?観光の目的の7~8割は食べ物って相場は決まってるじゃないか。服と靴が1割ずつで、塩が3割、そしてご当地グルメが5割。
「はい、じゃ2人ともお揃いになるけどブーツね。服は…日が昇ったら服を回収しておけばリメイクできるか?今ある素材じゃ革鎧系しか制作出来ないっぽいし、明日考えよ。よし、なんか今日は達成感!おやすみ」
色々処理が追いついてないウォルフたちを残し、私は一人大満足で眠りについた。
■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.7 女 ヒューマン
HP 52/70 MP ∞ SPEED 7
ジョブ:チャイルド
魔法属性:全属性 『初級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』『付与魔法 Lv.10』
スキル:『探索(サーチ) Lv34』『審眼(ジャッジアイ)Lv.27』『隠密 Lv.3』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『万能保管庫(マルチアーカイブ)Lv.1』『ユニーク:絶対防御』
状態:『若返り』『闘神の加護』
称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』
アイテム:奴隷[竜人:グラディオス] 、
所持金 56,780,450ユール
■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人
HP 1,000/1,690 MP 2,690/2,690 SPEED 299
ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕
魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』
スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.80』
称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』
■ウォルフ:(9)Lv.13 男 獣人(狼属)
HP 100/125 MP 11/39 SPEED 194
ジョブ:孤児
魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv7』
スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv5』『掻爬 Lv7』
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