第17話 初めての…


 錬金術って便利そうだよな。ソシャゲが懐かしい、怠惰の申し子山科 楓です。

 収納しただけで肉と素材にソートしてくれる、あの便利機能が切実に欲しい。

 解体めんどくさいし、時間かかるし、道具もいるし。谷に入って、採取ができずに、解体も出来ないばっかりに肉は狩っても食べられない。

 本能と鑑定能力が、これ旨いんだぜって言ってる肉を前に、私は氷結保存を決めた。


「《フローズン》」


 襲って来て開いた口から鋭い牙を覗かせ凍った熊っぽい魔獣を、有無を言わさずアイテムボックスに収納する。その瞬間、Lv upを感じる。谷に入ってから私が倒したのはまだ2体目だけど、流石に高Lv帯の魔獣は経験値が違うらしい。

 その間に、5体を一人相手にしていたグランが最後の1体を倒し終えた。


「手を煩わせてすまない」

「問題なし。あの鹿、煮込みがいいかな。ステーキも美味しいかも」

「カエデが作るなら、俺が知っているものよりずっと美味いのだろうな。楽しみだ」

「血抜きして、解体が必要だけどね。ここじゃなんも出来ね」


 グランの相手していたのは、鹿と獅子と熊と鳥だけど、獅子はまずそうだから売ろうと決める。

 アイテムボックスは無限に入れれて、時間停止機能がついてるからそれはそれで便利なんだけど、やっぱこう素材合わせてぽちっとすると毛皮も鎧ができるとか、ぴかっとするだけでポーションができるとか。ゲームがなつい。


「ん?」


 そこで、マップに初めて見る黒い円が見えた。


「何だこれ?」

「どうした、カエデ?」

「ここに・・・あ、いや。この先に謎な黒い穴?がある」


 マップが見えてないグランたちに説明するのも面倒だから、私は取り敢えず分かるってもらえる様に説明する。


「黒い穴?」

「とにかく、進もうか」


 そうして黒い円がある辺りまで差し掛かると、グランが何かに気づいたように上を見る。


「あれは…ダンジョンだな」

「え?ダンジョン?え、ダンジョンってあのダンジョン?」


 グランの視線を辿った先に洞穴みたいな穴が岩壁に見えて、私はちょっとテンションが上がる。


「ダンジョンはダンジョンだろ」

「できたばかりのようだな。どうする?塩を取っていくか?」

「え、うん。うん?塩?塩ってどうゆうこと?」

「塩が欲しいって言ってただろ」

「まぁ、もう切らしたから欲しいは欲しいけど。え、何?ダンジョンって塩が取れんの?」

「何言ってんだよ、お前。当たり前だろ」


 不思議そうな2人に、私は何度目かの異文化ファンタジーの罠に嵌った。


「え…あぁ~。そう。へぇ~、塩ってダンジョンで取れるんだ。じゃぁ、海は?」

「うみって何だよ?」

「海?あの湖の何倍もあるという塩水が溜まっていると言われている海か?カエデは海を知っているんだな」

「え…あぁ、そんな感じ、か。そっか。うん。理解。ここって内陸なんだ。ウォルフは海知らないんだね。へぇ~」

「俺もまだ実物は見たことはない。ただ、海の階層(ステージ)があるダンジョンに、一度だけ連れて行かれたことはある。長時間の無呼吸状態で戦闘できなかったから、その階層は探索せずにスルーして貰えたがな」

「うん、そっか。でさ、ダンジョンで塩ってどういうこと?」

「前にも言ったが、ダンジョン内の魔物を倒せば、肉と素材が落ちる。素材は、皮や魔石、牙や爪などがランダムで出る。目玉や臓物の時もあったりしたな。そして、肉と同じく必ず落とされるのが、塩だ」

「俺も、王都の下級ダンジョンに潜って塩拾いして日銭稼いだことあるし」

「塩拾いか。塩って、拾うんだ…うん。分かった。でも、ダンジョンってそんなにあるの?」

「下級は大体一地方に1つあるかどうかってとこだ」

「管理とか、所有とか誰かしてんの?」

「中級はその地の領主や地主が、上級は国が管理するが、下級は所有者がいない。所有権をめぐっての領地間や商団同士の争いが絶えなかったからだとか。それに湧いたり、消えたりが珍しくないからな。だが、スタンピードの危険もあるから管理というか、監視と言う意味では冒険者ギルドが請け負っている」

「え、ダンジョンって消えるの?」

「魔素の溜まりやすい土地に空間が歪んでできるとも言われている。だから、消えても大体その近くに新しい穴が開く。それに、ダンジョンが湧けば近くの冒険者ギルドに置いてあるダンジョンマップに示される」

「ダンジョンマップ。なにそれ?」

「冒険者ギルドが所有しているアーティファクトだ。仕組みは詳しくは知らないが、近隣のダンジョンの場所を指し示す地図だ。表示されるのは、近隣のダンジョンだけだがな」

「ふ~ん。で、塩拾いって…まぁいいや。百聞は一見に如かずか。じゃぁ、行こうかな。塩拾い?」


 異世界って――パートNを内心思いながら、グランが一っ飛びで20m近くはある高さの洞窟の入り口へ私を抱えたまま跳躍した。


「あ、ウォルフは」


 下を見ると、流石にウォルフはそんな芸当はできなかったみたいだけど、するすると器用に上ってきているのが見えた。獣人の身体能力はほんと高いな。

 半円2mくらいの足場の先に、門っぽい形で縁取られた洞窟は、入り口付近が広い洞になっていて、その奥にさらに続く通路への穴があるようだった。


「放置ダンジョンか、本当に新しいもののようだな」

「何で分かるの?」

「さっきも言ったが、ダンジョンが湧いたらまず冒険者ギルドが調査に動く。中級と上級はそう頻繁に湧くものではないからどこが調査するのか知らないがな。そうして、ダンジョンに初めて人が踏み入れば、ダンジョンの名前が現れる」


 そう言って、入り口の上にある平たい看板みたいな石を指した。確かに、何も書いてない。


「放置ダンジョンって言うのは?」

「此処みたいに、調査に訪れるまでの道のりの方が危険度が高い下級は、放置されるらしい」

「スタンピード起こるかもしれないのに?」

「それでも、割に合わないからな。スタンピードも、確率的には起こる可能性なんてそんな高くないと言われてるし。実際、誰も証明できないしな。過去に、人がきちんと間引きをしていたダンジョンで起こったこともあるくらいだ」


 迷信的な感じなのかな。スイカの種食べると臍から生えて来るとか言う。そんな説明を受けてるうちにウォルフが到着した。


「お疲れ。行ける?」

「お、おう」

「じゃ、グラン下ろして」

「危険じゃないだろうか」

「何が?早く下ろす」


 私の催促に渋々従うグランの視線を無視して、私は入り口手前で立ち止まった。


「では、初ダンジョン、初入場者として。はじめのい~っぽ」


 ちょっと異世界テンプレ、ダンジョン探索に浮かれて子ども返りしてしまったかもしれない。ぴょんと飛んでダンジョン入りを果たした私は、うむと頷いてあたりを見渡す。


「で、魔物は?」

「奥だろうな」

「んな、早々いるかよ」


 指し示す奥へと続く通路に向かえば、真っ暗で何も見えない。


「あれ、そう言えば。何でこの洞は明るいんだろう」

「コケだ。ヒカリゴケと言うコケが自生しているところは明るく照らされる」


 確かに。壁が光量の弱い照明置いてるみたいに光っていた。コケか。なら奥も照らして欲しかった。


「《ファイア》」


 グランが掌に火を灯し通路が明るくなる。その瞬間、奥から動物の光る眼光が複数向けられた。


「いるね。よし、じゃぁまずあれを狩ってみよう」


 結論から言うと。襲ってきたのはロックラットと言うネズミだった。レベルは今まで相手にしてきたものの中で一番低いGなだけあって、すばしっこいだけで特に苦戦もなく倒すと、事前情報通り肉とその傍に見た目炒った大豆的なのが転がっていた。因みにラット系は肉以外は素材が特にないとのことだったけど。ネズミの肉はちょっと遠慮しておいた。


「塩・・・」

「どうした?」

「塩?」


 掌に載せたそれを、じっと見つめる私に、グランが隣にしゃがんで尋ねた。


「これは塩の実と呼ばれている。外の皮をむくと塩玉が取れて、これを潰して塩になる」


 グランが私の掌から回収したそれを親指と人差し指の関節で潰すように押し出すと、白い粒になった。なるほど。異世界の塩は奥が深い。

 こうして、私は塩の為に狩って狩って狩り尽くし、気付けば5層のダンジョンボスまで倒し尽くして初のダンジョンを踏破し終えた。


■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.7 女 ヒューマン

 HP 52/70  MP ∞  SPEED 7

 ジョブ:チャイルド

魔法属性:全属性 『初級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』

 スキル:『探索(サーチ) Lv34』『審眼(ジャッジアイ)Lv.27』『隠密 Lv.3』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『↑亜空間倉庫(アイテムボックス)最大』『ユニーク:絶対防御』

 状態:『若返り』『闘神の加護』

 称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』

 アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]、所持金 56,780,450ユール、毛布、回復薬4、ダガーナイフ(鉄)、フライパン(鉄) etc…


■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人

 HP 1,000/1,690  MP 2,690/2,690  SPEED 299

 ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕

 魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』

 スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.80』

 称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』


■ウォルフ:(9)Lv.13 男 獣人(狼属)

HP 100/125 MP 11/39 SPEED 194

ジョブ:孤児

魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv7』

スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv5』『掻爬 Lv7』

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