第16話 供養するから勘弁


 神も仏も信じない。山科 楓 19マイナス13歳です。え?何故かって?私のこの姿を見て、聞くんか?私のこのQPボデーを見て、それ聞いてんのか?あ?責任者(神)がいんなら、出て来いマジで。説明責任果たせよ、いい加減。


「タイガー!」


 今まさに倒されてしまったネコ科の大型魔獣に向かって、私は叫んだ。


「な、なんだよ。いきなり」

「ダメだ。ニャンコはダメだ。ニャンコは可哀そうだって」

「何言ってんだよ。魔物だぞ?今までさんざん倒してきただろ」


 倒した魔物はそのままに、少し距離を開けて置いていった私たちのもとに戻ってきたグランは、戸惑いに首を傾げる。


「何かダメだったか?ならば、行いを正すが」

「私、犬派じゃなくて猫派なんだよ。鳥とか、狼とか、鹿的なんはいいけど、猫はダメだった。なんか、ショック。地味にショック。憐みが尽きない」

「何がだよ。殺さなかったら、殺されんだぞ」

「そうだよね。弱肉強食だよね。でも、その獰猛さだってあの子たちの良さなんだよ。可愛いは正義だよ」

「…そうか。カエデには、あれが可愛く見えるのか」

「なら、どうしろって言うんだよ」

「取り敢えず、近くで見せて」


 私は、首とおさらばしてしまった胴体に近づいた。見た目的に、サーバルキャットとトラを足して二で割ったみたいな。


■サーベルタイガー Lv.B  HP460 MP380

 攻撃:火球(ファイアボム) Lv.15 影移動(シャドートランス) Lv.8

 スキル:ジャンプ Lv.54 噛千切 Lv69 掻爬 Lv75

 補足:上質なしっとりした手触りの毛皮と牙が高値で売れる。


 サーチやジャッジアイがレベルアップしたことで詳細情報が増えたその補足を見て、私は冥福を祈り手を合わせた後、そっとその毛皮に触れ心に決めた。


「よし!もう少しこれを狩って、毛布作ろう」

「お前、最悪だな」

「だぁって、さらっふわなんだもん。ラグちゃんとかのとは違うけど、マジ最高!所詮私は、欲にまみれた人間さ。種を絶滅させる強欲の生き物さ。寧ろ、魔獣は湧いて出るってことだし?間引きしないとスタンピード起こすんでしょ?可哀そうだけど、飼えないってんならこの毛を堪能する術は決まってくる!グラン、次から襲ってきたら、倒そう。私が収納しとく」

「わ、分かった。その・・・それでいいんだな?本当に」


 何故か確認を取ってくるグランに、私は首を傾げて首肯する。


「何か問題でも?」

「いや。カエデの心が傷つかないのならそれでいい」

「弱肉強食の世界で、降りかかる火の粉を払うのを否定はできん。であれば、振り払った火の粉の意地の結果を、骨まで有用に活用してやるのが振り払った側の礼儀かなと」

「いい感じに言ってっし、間違ってはないのかもだけど。お前、最悪だな」


 何故かウォルフに同じこと2度言われた。解せぬ。

 そして、グランはグランで何かヤバいスイッチを踏んでしまったらしく、キラキラエフェクト満載に恭しく跪いて宣言された。


「カエデの慈悲深さに、改めて感激させられた。承知いたしました。不肖の身ではありますが、貴方様の忠僕として、主の崇高なる御意のままに、サーベルタイガーを狩り尽くしましょう」

「いや、狩り尽くさんでいい。絶滅まで追い込めとか鬼のようなことは言っとらん。なにより、これ1匹で私の毛布としては十分だしね。襲ってきたら、避けることなくガンガン行こうぜってスタンスでいい」


 この人、ホント奴隷根性焼き付いちゃってるよなって改めて思いつつ、私は再び専用シート(グラン’s 腕) に乗車した。


「さて、じゃ先を進もう」


 谷底は、幅100mほどしかなく。大きな岩がゴロゴロしているから、進みにくい。そして、来る魔物を迂回や回避ができない。しかも、見上げても頂上の見えない岩壁には、鳥系の魔物も住みつくらしい。ルアークはこの壁の上方にある街道しか道がなく、巣ができるとそこが通行止めになる為討伐が必須なんだとか。

グランの腕の中で岩壁を見上げる私に、グランは微笑ましそうな目で尋ねる。


「どうした?」

「いや。上に道があるんだよね?落ちたら死ぬなって」

「実際、ルアークへ行く道は結構な頻度で事故はつきものだと聞く」

「ふーん」


こう言う、異世界冒険もののテンプレは、道すがら魔物とか盗賊に襲われる金持ちとか有力者を助けて何かを貰ったり、街に入る顔役になって貰ったりだけど。それ考えると、私一カ月くらい経つのにまだ一回も人工の道歩いたことない。それはそれでどうなんだろう?

でも、そうだよな。人里に入らず商人に恩売って物買えたらそのがいいか。これはいっそ、商人が通りそうな街道で張ってた方がいいんか?いや、そんなご都合主義…でも現状大概ご都合主義が多いしな。ルアーク入れなかったらそれも考えよう。

 そんなことを皮算用してた私の心を読み取ってくれたのか、前方にあるものが目に入った。


「グラン、ちょっとスピード下げて」

「分かった」

「ハァハァハァ。な、何だよ?」


 移動中は割かし口数が少なくなるウォルフも、上がった息を整えながら訝しんだ。


「あれは…荷馬車?」


 近づくと、人工物の残骸の散らばる中、それと分かる形を保った状態の荷馬車があった。


「よく原型留めてるなぁ。上から落ちたら、木っ端みじんでしょ」

「普通はな。あれは恐らく、付与魔法が掛かっていたんだろう。強度強化とか」

「もしかしてさ、ここってあぁいう遺品が多いんじゃない?」

「そうでもないはずだ。死体なり荷物なりは魔物や魔獣に食い荒らされるし、カエデの言う通り上から落ちれば跡形もなく砕け落ちるものが多いはずだからな」

「それでも残ってるって事は、グランの言う付与魔法系のかかってる道具や遺品だってことだよね?」

「そうなるな」

「ちょっと寄ってく」

「だが」

「計画変更。追剥になっちゃうし、死人からってのは正直私も精神的に抵抗が激しいけど、背に腹は代えられないのも事実。服がいる。グランはマント。聞いた感じ、ここを通るってことはルアークに出入りする人間で、それなりに力量のある冒険者が多いってことになる。その次に多いのは、商人。つまり、この谷底の遺品は、レベルの高い冒険者のか、商人のもの。付与魔法付の武器や防具なんかが少なくはないはず。死んだ人には悪いけど、こっちも切実な以上、確認しながら進もう」

「お前な、魔物がうようよしてんだぞ。んなこと言ってる場合か」

「今ここら一帯にいるのは、6体。全部こっちに向かってるか、近付いて来てる。でも、まだ谷に入ってそう時間経ってないし、グランの腕もそうだけど、私の力も通用するのか試せてない。なら、一旦止まって結界の強度が通用するかと、グランと私の戦闘コミュが取れるか試してみるのも手だよ。無理だった場合、ルアークは諦めて他に行くのも策なんだし。ルアークに固執する必要はない」


 谷に入って倒してきたのは、今のところさっきのサーベルタイガーと森林狼(フォレストウルフ)と獰猛熊(バーサーベア)だけで、一番Lvが強いのがさっきのサーベルタイガーだけど、数が多かったのは群れで襲ってきたフォレストウルフだったし、HPが高いせいで一番倒すのに時間がかかったのがバーサーベアだったりする。狼と熊の個体LvはDとC。ま、時間かかったって言っても、一撃で倒せなかったってだけで、3撃目で仕留めたけど。

 とにかく、今のところ手こずってないし、グランのLvは世間一般では多分異常に高いとは見てるから心配いらないとは思ってるけど、引き返せる位置にいるのは確か。だったら、まずは入り口で色々検証してからでも遅くない。なにより、谷抜けてすぐにいよいよ高度?高度か?いや、一応高度だよ。な人工文明に足を踏み入るのなら、賊に襲われて一文無しとか、魔物に襲われて着の身着のまま逃げてきたとか無理のある設定にするより、旅人に見える最低限の恰好を整えられるのなら望むべくもない。


「だが、それだと到着が遅くなるぞ?」

「今の最優先は、布系でしょ。特にグランは、その角と顔が目立たないフード付きのマントさえ手に入れば、正規に門通れるんでしょ?」


 グランたちに聞いた話、門がある街は入門時に通行税を取られる仕組みになってるのだとか。大体高くて1銀貨(100,000ユール)安くても1小銀貨(1,000ユール)を支払い、犯罪歴がないかを魔法水晶で確かめれば通れるのだそうだ。因みに犯罪歴があったら事情聴取の上、グレーなら犯罪ダメ!絶対!!の誓約書を書かされて補償費として更に2銀貨を支払わないと入れてもらえないのだそうだ。日本円にして…知らん。物価も違うだろうし、日本円為替なんぞ意味がないだろう。

 そして、国に登録している各村町の住民や、定住してない各ギルド所属の人間…いやこの世界の場合亜人は、身分証を提示することで犯罪歴チェックも支払いもパスされるとのことだった。

 魔法水晶は、名前と種族とジョブも提示されてしまうため、ちょっと有名人になってしまってるグランは一発アウト。

 それでも、緩い街――今から行くルアークとかの自由自治区ならよっぽど怪し気ではなければ止められずに通れるらしい。あとは、蛇の道は蛇な感じの金を積んだ裏ルート。

 

「あぁ。犯罪確認が絶対求められる訳ではないからな。確か前に来たときは、犯罪確認の意思は選べたはずだ。ただし、受けない場合は入門税が変わるから、若干高額にはなるが」


 竜人の特徴は、細長い瞳孔の蛇目と角、尖った耳と一部鱗になってる肌だとか。全身を鱗化することも出来るけど基本ヒューマンの様な見た目の肌をしていて、ただそれでも何処か一部が鱗状になってるのだそうで、個体によって鱗が残る部位は違うらしい。因みにグランは胸元のほんの一部で普段は服で隠れてる。見せてこようとしたから、頭叩いたのは旅を始めた最初の夜だ。どうも、変態臭がちょいちょいすんだよなグランって。まぁ、兎に角、だからこそ竜人独特の角さえ隠せれば何とかなるはず。フードの膨らみがあっても、獣人は大抵が耳で膨らみが出来るから見分けはつかない。


「だったら、まぁ。塩は当分諦めるから、服の確保を優先しよう」


 不幸中の幸いと言っていいのか、武具やなんかの持ち主は骨と化していた。寧ろ骨が残ってる方が少なかった。寄ってきた高Lvの魔獣、魔物にも私の結界と魔法は通用することが分かったし、魔力はチート(∞)だし。


「あ、これとかいけそう。グラン、着てみて」

「あぁ。これならちょうどいいな」


 進む道で私が見つけたのは、ゲームで見るようなフード付きの冒険者風マント。本来ロングマントなはずだけど、グランが着ると裾が太ももまでになると言う不思議現象。ジャッジアイで視ると魔法耐性と状態保持の付与がかかっていた。


「うん。個人の所持品だって分かるような名前とかはなさそうだし、いけるかな」

「そう言うのって関係あんのか?」

「上通って死んだってことは、ルアークから来たか向かってたってことでしょ。そしたら、個人の特定ができる服着てたりすれば、あらぬ誤解を持たれかねないでしょ。だから、それ持ってくなら寄越しなさい。盗難疑われるよ」


 しれっと何処かから見つけて来たのか剣を担いでいるウォルフに、手を突き出した。


「ヤダ。これは俺のだ」

「誰も取らないから。アイテムボックスに仕舞っとくだけだって。大体、体と剣のバランスが取れてないじゃん。自分の身の丈に合ってる武器にしないと、死ぬよ?マジで」

「でも・・・」

「グランに稽古付けてもらいながら、これから自分の戦い方と武器見つけなさい。これは、使えるようになるか、使える武器を買う軍資金の為に売るか、決めるまで預かっといてあげるから。如何しても旅での武器が欲しいなら、私が一度渡して預かってるあの宝石売って買いな」

「そうだな。腕の長さと間合い、重さが合わなければ、素手の方が強いこともある。武器を買う時に選んでやる」

「・・・分かった」


 不貞腐れながらも私にそれを預けるあたり、まだ素直だなともう直ぐ思春期になるであろう男の子を宥める。ま、私は現実的に持てもしないから、触れてボックスに仕舞うだけだけど。


「あ、それとグラン。状態保持と魔法耐性って珍しい?」

「状態保持が掛かっているなら、相当高額だが。唯一ってことではない」

「なら大丈夫かな。元々ロングマントだったから、ロングのイメージの方が強いだろうし。そのボタンだけ、模様ついてるから加工しよう。ちょい貸して」

「あぁ、頼む」


 火魔法で金属が溶けるくらいの小さい火を出し模様を消すと、私はマントの近くに転がってる骨を魔法で埋めて合掌する。


「南無南無」


 その後ろで、意味が分かってないながら真似をするグランとウォルフが続く。こうして、流石に幼女用はなかったけど、ウォルフの上に羽織れる大人サイズの服とグランのフード付きマント、そしてラッキーなことに魔法鞄(マジックバッグ)が手に入った。え?服?巨人と子供のサイズ感に応えられるバリエーションを、谷底のフリマに求めるのは酷だって。

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