第15話 課題


 目が覚めたら、すべてが夢だった。なーんて都合のいい現実が良かった。私のタクシー兼布団兼下僕(モノホンの人)の拘束で目覚めること何日目か。リアルより2次元がいいと何度目かに思う、永遠の喪女 山科 楓 中身は乙女 19歳です。

 なんでも今日は、ついに国境の山脈にある峡谷に入るとのことだ。正規の道は峡谷の上の方にあってすんげぇ狭いらしい。そして、私たちが密入国ルートに選んだ谷の底は、雪溶け時期でもない限り水はなく、ただし高ランク魔物がうじゃうじゃ出て安心安全に進める人間はいないらしい。Aランク冒険者パーティーでもやっとだとか。ま、それがどんなもんか知らんけど。

 と言うことで、ウォルフはお休み。私はこの機会に、魔法で援護しつつグランとの連携を強める予定だ。ウォルフとは、結構連携できるようになったし。そのせいで、嫉妬の視線が痛いから、いい加減黙らせるためにも。


「おはよう、カエデ。今日も可愛らしいな」

「はよ。グランは、今日も無駄にまぶいね。ちょっと、光量落とそうぜマジで。そして、布団になるのは許したけど、乙女の寝顔ガン見すんのは許してねぇよ」

「分かった。次からはこっそり見るに留める」

「まぁ、私が気づかないなら、精神衛生的に変わらないからいいかな。起きぬけに覗き込むのもやめて。網膜と穢れ切った心に厳しいから」

「カエデは、穢れてなどいない」

「おい、何時までじゃれてんだよ」


 ウォルフの横やりに、私は取り敢えず反論する。


「おはよ。じゃれてないし。グランがホールド解除しないせいで起きれないだけだし」

「死神、放せよ」

「主従の絆を深めているだけだ。部外者は黙っていろ」

「心の距離が離れてくだけだよ。気づこうよ、いい加減」

「マスターがお命じになるのであれば是非もなく。どうぞ、お命じください。『その汚らわしい手で触れるな、下郎』と」

「マジもんだ。マジの人だよこの人」


 私のつっこみなど何処吹く風で嘯くグランは、ほんと強かな性格してると思うよ。私が嫌がるツボを押さえて、自分の趣味全開にすんのやめてほしい。速攻でウォルフの影に逃げる私を、クスクス笑いながら見送る確信犯に威嚇する。

 気を取り直して顔を洗いつつ、私は軽く目玉焼きと昨夜下味をつけて味をなじませておいたウィンドバードの肉を焼く。

 ついに昨日、塩がなくなってしまったから、ルアークまで先を急ぐ必要が出てきた。

 食べながら、私はグランにスケジュールを確認した。


「こっからだと、峡谷抜ければ3日で到着だっけ?」

「そうだな。何事もなければ。谷を抜けるには少しスピードを速くする必要もあるし、3日~4日だ」

「…一応聞くけど、ウォルフもついて行けるスピードでって思っていいよね?」

「あぁ。レベルが上がったことで、ウォルフもスピードが速くなっているようだし、いけるだろう」

「…一応聞くけど、野営有りでって思っていいよね?」

「いや。そんな暇はないだろう。谷は、群れになる種類の魔物は少なくなるが、強い魔物たちの縄張りだ。入り込めば襲われるから、休むんでいる暇はないだろう。カエデの結界でも、常に攻撃され続ければ魔力がもたない」


――んなら、魔力がもてば問題ないと。あ、でも…


「無理だな。途中休憩ありで。スピード上げるってことは、時速60くらいってことでしょ?」

「じそく?」


 グランは普段でも、多分時速50kmくらいで移動する。安全運転法律厳守をモットーとした父さんの車乗ってる時の車窓と同じ速さで景色が流れるから。ただ、車と人間じゃ話が違う。


「私分かったんだ。そもそもドライブ向いてないって。せめて車だったら良かった。でも、風を直に感じる乗り物は、長時間無理。疲れる。気疲れと、なんか使ったことのない筋肉が死ぬ」

「…そうか。そうだな。ヒューマンは体の造りが脆弱だったのを忘れていた。すまない。では、スピードを落とそう」


 グランと話してていつも思う。多分私の言ったこと1割分かってないだろうけど、よく通じるよなって。ドライブとか、車とか。そして、逆にジョーク混じりの比喩が通じない。深刻な顔で、「死ぬ」と言うワードのみチョイスしたグランは、真剣そのものだ。私はどうしてあげたらいいんだろうか。


「あ~グラン?それは本末転倒じゃん?いつも通り、朝準備整えて、昼御飯になるまで移動して、暗くなる前に野営準備して晩御飯食べて寝るでいいんじゃないかな?そんでスピードはいつもより速くするでいいよ。ただし、私にGがかかりすぎないスピードでね」

「ジーってなんだ?ランクか?」


 きちんと疑問に思った気になることは尋ねるウォルフに答える。


「憎むべき油テカった人類の敵を指して言うこともあるが、私の言ってるのは圧っていうの?高いとこから落ちるときヒュッってなったことない?」

「ねぇ」

「うん。忘れて。私に獣人の君たちに理解を求める言葉はない」


 私は説明を放棄した。ウォルフとは、こうして結局理解できぬまま終わることが多い。


「本当にスピード上げて大丈夫か?そうだ、風魔法で防いではどうだろうか?」

「それはしてる。風を感じたくない時は。ただ、それとGは別もんなんだよ」

「そうなのか…分かった。だが、速く谷を抜ける必要はどうしてもある」

「谷から魔物のレベルが上がるんだっけ?」

「そうだ。今までの森はLv F程度だったが、峡谷に入ればLvC~Bはある」

「となると、いつもの流れで移動するってなると、どのくらいかかりそう?」

「そうだな…8日ってところだ」

「ま、夜通し走るつもりの計算だったら、それが当然か。でも、塩がなくなったからなぁ。ま、言っても仕方ないか。分かった。谷抜けたらルアークは近いの?」

「あぁ。谷を抜ければ、ルアークまで半日程度だ」

「そっか…」


 現状、私たちは服と靴と塩と美味しい食事を求めてルアークを目指している訳だが、今の私たちには課題がある。

まず、竜人で奴隷なグラン。そして、子供なのはまだ良かったものの、森移動ですっかり布切れと化してしまい、服を着ていると言うより布を付けていると言われても仕方がないウォルフ。上の服は右脇から斜めに布が破れて脇腹が見え、辛うじて袖が残っている状態。上下とも袖端はボロッボロ。スラムの住人と言うより、ターザンに近づいている。今最もマシなのは私は、最も幼く幼気な幼女。一人で門に行けば絶対悪い大人に絡まれる。

 ルアークに着いたとして、無事入れる気がしないのは私だけか。が、今更場所変更しようにももう塩がないから、人里には絶対行く必要がある。ジレンマだ。


「まぁとにかく、考えても仕方ないな。行くか」


 私は気を取り直して、出発を促した。


■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.4 女 ヒューマン

 HP 45/45  MP ∞  SPEED 6

 ジョブ:チャイルド

魔法属性:全属性 『初級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』

 スキル:『探索(サーチ) Lv28』『審眼(ジャッジアイ)Lv.15』『隠密 Lv.3』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『亜空間倉庫(アイテムボックス)最大』『ユニーク:絶対防御』

 状態:『若返り』『闘神の加護』

 称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』

 アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]、所持金 56,780,450ユール、毛布、回復薬4、ダガーナイフ(鉄)、フライパン(鉄) etc…


■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人

 HP 1,000/1,690  MP 2,690/2,690  SPEED 299

 ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕

 魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』

 スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.80』

 称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』


■ウォルフ:(9)Lv.12 男 獣人(狼属)

HP 120/120 MP 15/15 SPEED 194

ジョブ:孤児

魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv6』

スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv4』『掻爬 Lv5』

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