第19話

生活しているのは齢を重ねている年配の男女ばかりだが、最初に赴任挨拶に

回った感じでは極度な排他的でなく、よそ者の移住者でも温かく

迎えてくれそうな雰囲気だった

(これで超排他的だったら、本当に救いようがなかった)

そんな事を思いながら向かった先には、二階建ての建物が見える

それが目的の建物だ

正面にある観音開きの扉があるだけの古びた大きな倉庫のような建物だ

遠くからでも目立つ様に鎮座する電飾看板があった

倉庫のような建物の付近は、田畑だったのだが今では雑草が生い茂っているだけの

荒れ地となっている



▼探索者協会中部支部作成:探索者用注意書き

・周辺環境に異変を感じた場合、速やかに探索協会の指定する緊急避難所へ移動してください▼


「緊急避難所うんぬんと書かれていても、『異変』が発生したら避難する前に

普通に死ぬと思うんだが・・・」

彼はそんなことをぼやきながら、観音開きの扉に手を掛けて開く

どうやら鍵はかかっていないようだ ギィィと音を立ててゆっくりと開いた

先にあったのは広い空間だ

屋内を見回して見ると、数名の手野武装警備株式会社の武装警備隊員がいた

主に外回りや警戒を担当していて、社宅などには常駐していないようだ

その為か、今回特別に室内にいるのだろう。

「おはようございます 『日本探索協会ダンジョン課』の江崎です」

江崎が挨拶すると、その場にいた数人が貌を向ける

「ああ、噂の・・・」

そんな事をボソッと漏らしながら彼らは挨拶をしてくる

(その『噂』のって、本当に気になるぞ?)

不安な事を考えていた彼に対して、一人の壮年男性が近づいてきた



「おっと、お前さんか」

男性が江崎に近づき話しかけてきた

その男性は明らかに他の隊員とはガタイが違った。身長は190センチ近くあり、

腕も丸太のように太い。

筋肉ムキムキである 野性味溢れながらも優しいそうな眼をしている

「ご苦労様です 嵩原班長。何か変わった事とかはありましたか?

(やっぱでけぇなぁ)」

江崎が問いかける

嵩原と呼ばれた男は、周囲を見てから口を開く

嵩原は平均的な身長を持つ人間が多い日本人にしては大きい部類だ

そしてやや顔立ちが濃いため印象的だ

但し、純日本産の顔つきではあるが髪色は茶色に少し黒みがかったような

色であり瞳は大きくはない

「 『ダンジョン』内部での異常は無いが、お前さんから言われていた

夜間にこの集落の『廃寺』で沸くキョンシーを幾体か捕獲出来たぞ。こっちだ」



嵩原と呼ばれた男はそう言いながら、江崎を連れて地下への階段を降りていく

(ここ日本なのに、なんでキョンシーがいるんだよ! あと、本当にこの人の

外見からは想像できない言葉を発されると、違和感が凄まじいんだが・・・。)

内心でそんなどうでもいいツッコミを彼は入れていた

そうして歩くこと十数分、その先には牢獄のような檻が数十個あった

四つほどの檻の中には、映画やテレビで登場する清時代の満洲族の

正装である暖帽と補褂を身に着けたテンプレートと言うべき

キョンシーが額にお札を貼られ、柵に杭で縫い付けられていた

それらは不気味なほど静かだった

「集落の村長も、『夜間の廃寺には、アンデットやら妖怪やら出没して困っていた』と言っていたから、捕獲する事には何も苦情は言わなかったぞ」

嵩原がそんな事を言う

(本当に謎の多い『世界線』だよ・・・。)

彼は檻に視線を向けつつそんな事を考える

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