第18話

「 『帰還困難区域』を担当させられるより、マシと思う事にしよう」

 江崎 零士がは自分に言い聞かせるように苦笑しつつそう呟く

 朝からの『日本探索者協会』での定時会議後に向かったのは、担当となった

 五号『ダンジョン』施設だ

 辺り一帯は、雑草が生い茂り荒れ地化する前までは田畑で、本来農業用施設が

 建っていた

 最初はトマトやきゅうりなどの簡単な野菜と果物栽培に使われていたらしい

 彼が担当する『ダンジョン』は、手野グループが管理している

『ダンジョン』の中で山間部の限界集落にあり、人気など全くない場所だ



 集落には昔ながらの雑貨屋が一軒あるだけ 周りには耕作放棄地、昔林業をしていた山がポツンポツンとあり、一番近くにある森林も植林などされていないため

 暗くジメジメした感じがある

 道はあれど舗装されていないため移動は専ら自動車だ

(と言っても手野グループのハイブリット車や電気自動車しか走っていないが)

 その為、道は雨や雪でぬかるんでいるのがほとんどであり、街灯もない

 そんな場所を江崎零士が運転する五号ダンジョン専用の社用車が

 ゆっくりと進む

 が、道は一本しか無く、目的地までは真っ直ぐ進むのみで迷う心配はない

 その為、スピードは出さないようにしている



 そんな事をしながら先ほどの会議を彼は思い返していた

 と言っても口を挟もうとしても、こちらの『世界線』の人間ではないので、

 ほとんど沈黙して聞いていて、時折、同意する程度だ

 ただ、あまりにも口を挟まなかったためか、それともこの『世界線』の

 彼は何かと積極的だったのか判断できないが会議を締めくくった後、

『江崎君? 何か気にいらない点が?』や『またぞろ、妙な事を計画しているのか?』と新島や佐藤から聞かれてしまったが・・・。

 さすがに、『俺は、この『世界線』の人間じゃないのでよく分からない。』などと

 正直に言う訳にも行かず、ただ適当に誤魔化しながら曖昧に頷いておいた。



 そんな事を思い出していると、舗装されていない道が集落の

 入口を指し示す

 奥には、僅かに古めかしい和風建築の家々が建ち並ぶ集落が現れた

(初めてここに来た時は、都市伝説などで語られている幽霊村か

 ミステリースリラー系の舞台みたいだ、なんて思ったりした事もあったっけ)

 特に山間にある事から、その鬱蒼とした雰囲気がいかにも霊的なモノが

 居そうだと思わせる雰囲気がある

 まさに、テンプレートのそれである

 現実の日本ではあるが、この『世界線』にはRPGゲームやラノベで登場する

 モンスターがダンジョン化した『放置田』に棲息しているため、時折

 そこから唸り声が聞こえることがある。

 彼は集落の入口に車を止め降りた


「異常発生はしてないか」

 そう呟きながら辺りを見回しながら歩く

 そして、ふと視線を下ろすと目に入るのはお地蔵様だ

 彼は手を合わせる

(どうか今日も無事にでありますように)

 最初にこの集落に訪れて見つけた時、定期的に誰かが掃除や草刈りなどをしている

 様子はないため雑草が伸び放題になっていた

(ここは俺が担当するんだよな?)

 そんな思いに囚われた彼は、五号『ダンジョン』施設へ訪れるたび定期的に

 掃除や草刈りなどをしていた

 お地蔵様に手を合わせ終えると、集落の中へと足を進めた

 彼の足音だけが、僅かに響く

(夜になると涼しくなるとは言え、まだ暑さを感じる時期だな。しかも

 今日はここで泊まり込み・・・)

 そんな事を思いつつ集落の中心辺りまで来た

 集落には若い者はおらず、遠くから見れば廃村である

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