第17話

 新島がそう言い終えるのと同時に、会議室のドアをノックをする

 音がする

 佐藤が新島に一瞬だけ視線を向けると、佐藤が入室を促した

 ドアを開けて入ってきたのは、2人の男女だった

 男は細身で黒いスーツ姿である 髪は黒く、顔はいわゆる塩顔で

 整っていた

 精悍な顔立ちをしてはいるが鋭い目つきのせいか近づきがたい雰囲気を

 醸し出している

 そんな男と対照的に女性は背が高くスラリとしたスタイルの持ち主で、貌は

 憂いを含んで繊細そうな雰囲気を醸し出していた

 銀色の長い髪を頭の後ろで一つに纏めており、後ろ髪は長いため床

 に着きそうな程だ



 服装はこちらも女性用スーツであり、黒と紫の色違いのツートンカラースーツは

 上下が分かれていた

 しかし2人共にネクタイを着けておらず、首元を開けていた

 女性は優雅な動作で席に着き、男性は気品が感じられる動作で着席した

(はて、この2人はあっちの『世界線』で営業課にいたか?)

 彼はそう思いつつ観察する事にした

「『魔震計測』の定時報告ですが、体感には感じられないので本日も変化なし」

 男性はそう言ってから一呼吸置いて話を続ける

「 『東日本百鬼夜行』以降、国内『放置ダンジョン』内部は活性化の兆しが

 見られるものの、 異常をきたしていると言う報告は受けていません」

 女性はそう言って全て英語で書かれている書類をめくった

「日本は『魔震大国』なのよ? いつ何時『首都直下百鬼夜行』や『連動型逢魔時』が起こらないとも限らない

 それこそ手野グループが管理する『放置ダンジョン』を含めて、国内すべての

『放置田ダンジョン』で魔震現象を伴えば活性化したモンスターが

 地上に氾濫して、『百鬼夜行』や『逢魔時』が発生する可能性もあるから

 本来であれば今すぐにでも関連企業へ指示して、内部を常時監視する事

 も考えるべきよ」

 新島はそう言って、報告してきた女性を睨んだ



「それと連動して『宝永百鬼夜行』以後、現在に至るまで氾濫していない

 富士樹海から深層型モンスターが流出すれば――

 その被害は『東日本逢魔時』とは比べものにならないぞ」

 続けて佐藤が眉間に皺を寄せつつ怒気を孕んだ声音で話を続けた

 女性は肩を竦めつつ書類を閉じ、男性は怯まず平然としている

「発生のXデーが近づいている『連動型逢魔時』ですが、国と我々

『日本探索協会』最悪の想定に備えて、ハザードマップの整備等のハード・ソフト両面から対策を推進していますが?」

 男性が渋い声でそう言う



「『放置田ダンジョン』を有した地域を完璧に網羅できている訳では無いの

 何を対策すると言うの?

 今だ100%の対策は取れてもいないのでしょ」

 新島はそう言って鼻を鳴らす

「それにあくまで一つのケースとして整理されたものだ。

 実際に想定どおりの現象は起きるはずがない

『東日本百鬼夜行』発生する事は、それ以前誰も予測ができなかった」

 佐藤は表情を曇らせながらそう言った

(あー・・・・自分がいた『世界線』だと東日本大震災にあたるのか。

『魔震大国』って『地震大国』っていう認識でいいのか?)

 彼はそう思いながら、下手に口を出してややこしくしたくないため

 静かに聴くことにする

 新しい用語が出てきたため、困惑している事も事実である

 どういったスタンスで介入すべきか迷っていた事も確かだった



「『東日本百鬼夜行』復興関連ですが入国緩和後、またぞろ『帰還困難区域』へ

 訪日観光探索者が無断無許可で踏み入れる事案が

 急増しつつあります。

 現地行政と同行している警察や『帰還困難区域』の警備業務を

 請け負っている『手野武装警備株式会社』が取り締まっていますが、

 予算削減と人員不足で 後手後手です。

 現地行政と警察、『手野武装警備株式会社』から再三に渡って

『日本探索協会からも現地に人を出してほしい』と 嘆願されています」

 男性がやや焦った風にそう言う

「 『日本探索協会』は行政と警察、そして手野武装警備株式会社よりも

 人手不足なのよ?

 それに『放置田ダンジョン』の警備や監視、日本人や訪日観光探索者に

 対しての立入許可・禁止を 選別する業務もある

『帰還困難区域』については、手野武装警備株式会社と現地の警察、

 現地の行政に一任しているのに何を言っているの?

 これ以上現地に人を回す余裕はない」

 新島は厳しい声音でそう言い切ってから、ジロリと焦っていた男性を見る

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