第16話

「―――これは『幻神』型召喚陣ね。江崎君が望んでいる『聖灰』型召喚陣なら

 高値で海外企業と取引で巨額利益でしょ?

 残念だけど『幻神』型は探索者に取ってはあまり反応は良くないわ」

 そう言って肩を竦めるのは、『日本探索者協会』の会長であり江崎 零士の

 上司でもある新島 美香だ

 彼のいた『世界線』では営業部の美人上司で有名だった

 年齢は彼女の方が3年も早く入社しており、物怖じせずに次々と

 結果を出してゆく行動力は営業部期待の新星であった


 この『世界線』では、手野グループ『日本探索者協会』会長という職についている

「・・・(あっちの『世界線』ではゲームやらなんやらの用語すら口に出した

 様子を見た事ないから、違和感が半端ないな)」

 江崎が内心でそんな事を考えている

「差し当たり合衆国中西部地域を拠点としている二大探索者団体、『熱砂の旋風』か『夕闇の涙』に入手した『英霊召喚』を高値で売り込もうと

 考えていたんじゃないのか? 残念だったな」

 そう続けて話すのは、目鼻立ちは整って俗に言うイケメンで、やや長めの髪で

 清潔感があり爽やかな印象の佐藤 正樹だ



 彼のいた『世界線』では営業部の先輩にあたるのだが、この『世界線』では

『日本探索者協会』の副協会長的な職に就いている

 また『日本探索者協会』の旅行代理店部門と軽食屋チェーン店の 責任者でもある

「・・・・(あっちの『世界線』でも優秀な人だったけど、どうやらこっちの

『世界線』でも結構優秀な先輩の様だ。

 しかし、この人もゲームやらなんやらの用語すら口に出した様子を見た事ないから

 本当に違和感あるな)」

 江崎が内心でそんな事を再び思う

 佐藤正樹 身長は180cmを少し超えたくらいあり、少々痩せ型ではあるが

 スーツを着ると更にシュッと引き締まって見える



 3人がいるのは、『日本探索者協会』の会議室で朝からの定時会議の

 真っ最中だ

 彼が昨日発見した『英霊召喚陣解放』の件も報告したのだが、少し

 期待もあった大騒ぎにも何もならず落胆した

「『聖灰』型召喚陣が発見されるのは、欧州や中東の『ダンジョン』だから

 それ以外では発見報告は無いからそう落胆しなくても良いと思うわよ?

 江崎君」

 新島が何故か満面の笑みで話しかけてきた

「 『契約』型召喚陣も発見されるのも米国や南米の

『ダンジョン』だ

 何かまたぞろ面倒ごとを画策していたのか、江崎?」

 そう言って佐藤がニヤリと笑みを零す

「いや、特に何も(何、この『世界線』の俺はかなり傍若無人な

 営業スタイルしてたの?)」

 彼は、何故かゾクリと背筋に悪寒を走らせた

「せめて、本当に画策する時は一時間前でも良いから書面で報告はしてね」

 新島がため息を零す様に言葉を吐いた

「『ブラッド・クリスマス』と『青龍会』の案件レベルの時は、必ず俺にも

 報告してくれ

 そうでないと対応が後手後手に回って面倒ごとに巻き込まれるからな」

 佐藤もため息を吐きつつ、念を押してきた

「はい、それはもちろん(と言うか、そんなにヤバい事案だったのか!?)」

 彼は内心で冷や汗を搔きながらも、愛想笑いを浮かべつつ返事をする



「・・・それとXCP245『異世界水』を使用する時は、くれぐれも慎重に

 うっかり漏出でもさせたら、後々五月蠅いわよ」

 そう言って新島が少し表情を曇らせつつ、タブレット端末に視線を向ける

「報告を確認したが『廃棄異世界』からの開拓移民集団はゴブリンの群れと

 ひたすら対峙中か

 そちらも引き続き監視と管理は頼むぞ」

 佐藤は視線を彼に向けて、念を押した

「わかりました(頼むって・・・あのガチガチのあの闘いを管理しろって

 マジかよ)」

 彼はそんな事を思いつつ、頷く

「次は・・・こっちの方が重要ね

 やはり一部の訪日観光探索者が『限界集落』の『放置田ダンジョン』へ

 入り込んだという報告は確認されたけど」

 新島は顎に手を当てて考える素振りをするが、眼は笑ってはいない

「入国規制中は幸いにして訪日観光探索者は、『限界集落』関連の

『放置田ダンジョン』へ赴く不届き集団は確認できませんでしたが、

 今後順調に訪日観光探索者が回復すれば、またぞろ『探索公害』だの

 何だのと騒ぎ出す事でしょう

 現時点では具体的に規制する法律は無いため、対策も難しいところですね」

 江崎がそんな新島をチラチラ見つつもそう進言する

 その貌は、何とかしてくれと訴えているようでもあった


「確認できているだけで、どれほど?」

 新島はそんな江崎をスルーして尋ねた

「どの辺りまで潜っているのかは把握できていませんが日本に

 現在滞在している、訪日観光探索者の中で推定で約1万人ほどが

 全国地方の『限界集落』関連の『放置田ダンジョン』へ、ほぼ無許可

 で訪れていると思われます」

 江崎がそう応える

「各都道府県の観光課は対応に追われて大変ね。 

 しかし、今は訪日観光探索者産業を興そうとしている企業の誘致等で、海外からの

 訪日観光探索者を受け入れているから そう言った無許可で

『ダンジョン』に潜っていると思われる集団は即刻退去させなさい」

 新島は冷ややかな視線を江崎に向ける

「もちろん各都道府県の観光課は 対策チームを設置していますが、訪日観光探索者の急増で取り締まりは後手後手に回っています

 入国規制が厳重だったせいもありますが・・・。それに中には探索動画配信者や

 大手攻略サイトなど運営している海外企業もあり、その関係で

 この『日本探索者協会』の他に、観光庁にも多数クレームが寄せられている

 ようです」

 江崎は苦笑しながら肩を竦めて応えた



 その貌はどこか複雑な感情が入り交じっているかのようだ

「無許可で廃村集落を拠点地区にしている、訪日観光探索者企業や訪日観光探索者団体の取り締まりはどうなってるの?」

 新島はそう言って眼光鋭く、佐藤を見やる

「東京出入国在留管理局に通報は行っていますが、不法入国者を摘発し

 国外へ強制退去の調査にも時間をかけているため 確約はできませんが、

 今のところ入国管理局の厳重注意や勧告だけですので、詳細な摘発には

 至っていないとの報告です」

 佐藤が少し難しい貌をしつつもそう応えた

(放置田の草刈りから、何でこんな面倒な『世界線』に転移したんだ?)

 2人のやり取りを聴き内心で嘆息しつつも、気持ちを切り替えようと

 水を飲む事にした

「お上品な訪日観光探索者企業や訪日観光探索者団体は『日本探索者協会』に

 取っても歓迎するけど、気を付けた方が良いのは、

 世界的にも悪評の高い外国企業や犯罪者集団よ

 彼等は日本文化や風習を下らない偏見で見下したり、金になるなら何でも

 やる連中だから」

 新島は怒気を孕んだ声音でそう断言した

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