第11話

 ―――数日、五号『ダンジョン』内ではそれほど大きな出来事はなかったが、

 円安や入国緩和により訪日観光探索者が増えはじめ

 閑散としていた観光地にもにぎわいが戻りつつあった

 手野グループが管理経営する一号から四号『ダンジョン』にも、訪日観光探索者の

 混雑度合いが高まってきた

 特に大陸観光探索者による一部商品の『爆買い』と『爆狩り』とも言われる

 一方的な乱獲の兆しも表れはじめていた



 そして水際対策の緩和前まで海外企業や手野グループ主催で実施されていた

 日本『ダンジョン』最下層到着及び攻略速度の速さを競う『speedrun』なる

 ランキングイベントも開催されつつあった

 緩和前は全世界へネット中継や掲示板での情報提供が行われた事もあり、

 世界中に日本『ダンジョン』はかなりの注目を集め知れ渡っていた

 この『speedrun』は、『ダンジョン最下層にどれだけ速く到達できるか』という

 企画だ

 海外『ダンジョン』は、日本『ダンジョン』よりも何処まで続くかも

 知れぬ地底奥深く一層一層が『オープンワールド』を思わせる程限りなく広く

 そして危険に満ち溢れている



 最も奥深い海外『ダンジョン』は500層え、200層程度の海外『ダンジョン』は

 世界中の国々に数多く点在する

 だが、日本国内『ダンジョン』は『耕作放棄地』から始まっているため

 5層か深くても10層程度までが平均的であり、手野グループが管理経営し

 訪日観光探索者や日本探索者に開放している『放置田ダンジョン』で、

 一号『ダンジョン』と二号『ダンジョン』は

『オープンワールド型ダンジョン』の広さで最深部も40層程度の

 深さしかない

 三号『ダンジョン』は10層程度の定番な『地下』型ダンジョンだ

 四号『ダンジョン』は調査中のため訪日観光探索者や

 日本探索者に対して開放はしていないが、判明しているのは

『地下』型ダンジョンで7層までぐらいしか深くはない

 五号『ダンジョン』に至っては今後訪日観光探索者や日本探索者に対して

 開放するかどうかも未定だ


 訪日観光探索者や日本探索者に開放している『放置田ダンジョン』一号

『ダンジョン』と二号『ダンジョン』、三号『ダンジョン』内部は

 海外『ダンジョン』モンスターと比べると装備品類を揃えていれば比較的に

 対処が容易であり、『罠』もしっかりと準備を整えはそれほど

 キツくはない

 また海外『ダンジョン』内部にはモンスターが近寄らない『安全エリア』が

 少なく、そのほとんどが20層までにあるかどうかだ

 それに比べ日本『ダンジョン』には、お手軽に階層ごとモンスターが近寄らない

『安全エリア』があるため初級者~中級者の海外探索者にとって

 人気が高い理由の一つとなっている

 それ故に日本『ダンジョン』では『speedrun』が開催されているが

 海外『ダンジョン』では日本『ダンジョン』以上に広大で危険なため、

 実際に開催してもさほど参加者は集まらない


 でも、日本『ダンジョン』は装備類を揃えていれば比較的に安全で階層も深くないため、海外企業はそこを知り積極的に『speedrun』を企画開催している

『speedrun』専門企業は、誰もが知る海外大企業から郡小企業まで様々だ

 それに対して辣腕を振るっているのが『手野グループ』当主で、日本

『ダンジョン』でのあらゆる便利を図る代わりに、『手野グループ』当主が

 どんな交渉をしたのか、『speedrun』専門企業は収益の1%を払っ ている

 これが恒例となって緩和前は、年に二回三回と『speedrun』は開催されていた

『手野グループ』に支払われる銭もその場限りのアブク銭ではなく、しっかりと

 日本『ダンジョン』内 の『便利施設』の建設やメンテナンス費用、または

 輸送費や運営費などに充てられている事が明記され ているため参加者に

 理解がある

 日本『ダンジョン』へ赴く訪日観光探索者限定で、有料ではあるがざという時の

 フォローをするという手法で手野グループ所属の『手野武装警備隊』の

 隊員が随伴し、経験を積むにも容易となっているため満足度は高い

 基本的に海外『ダンジョン』内部は自己責任だが、日本『ダンジョン』内では

 隊員が随伴することで日本『ダンジョン』探索記念として色 々な

 サービスを受けられる

『日本ダンジョン』内の娯楽施設は、たいていの事はスタッフや隊員が

 融通を利かせてくれるため満足度は高い



「 『違法探索』ですか?」

 そう聞き返したのは、『ダンジョン課』で五号『ダンジョン』へと

 赴く準備をしていた江崎 零士だ

 同じ部署の先輩である佐藤 正樹が話を振ってきた

「あぁ、そうだ

 日本探索者は『放置田ダンジョン』関連で迷惑行為の動画などを上げても、

 名も売れず金も稼げない事を知っている

 ただ、海外企業や訪日観光探索者の一部は日本が治安の

 いい優しい社会であることを知ったから、そこで『放置田ダンジョン』関連で

 動画のネタになるものを撮って、アップするってわけだ

 それを海外『ダンジョン』内から援護しネタにする事で

 収益化するって事だ

 そういった意味でも日本『ダンジョン』は安全で比較的にいい

 コンテンツ素材が転がっていると言えるんだ」

 佐藤 正樹がそう続ける


「そうなんですね……(自分が考えている以上に危険なんだな)」

 江崎は最近SNSをチェックし始めたばかりであり、そう言った迷惑行為の

 動画なども実際に見てはいたが詳しくはなかった

「「観光方面ではオーバーツーリズムが復活するだろうが、『ダンジョン』方面は

 ダンジョン化した『耕作放棄地』へ所有者の無許可で訪日観光探索者が

 入り込む事故処理が増えてくるだろう

 SNSなどの媒体で攻略に向かったと投して配信することでフォロワーを増やすし、

 それを取り上げれば企業広告となるからな」

 佐藤 は忌々しいと言わんばかりに吐き捨てる

「あんな雑草だらけで訳のわからないモンスターが棲みついている場所に、

 よく踏み込もうと考えますね」

 彼は引きつる様な貌つきで、感想を述べる

『転移』して初めて見たのが、放置田化した田に出来ていた『ダンジョン』だ



 特に別の所有者の『耕作放棄地』内には、草木が伸び放題になっている中に

『ダンジョン』出入り口があるらしいのたが、到着するには獣道とでも言える様な

 道なき道を進まなくてはならないらしい

 彼も初めて見たが雑草や野草が生い茂っている間を、RPGゲームで

 言う所の中盤以降に出没するモンスターが貌を出していた

 そんな場所に、この『世界線』の訪日観光探索者の一部が

 フォロワーや企業広告などの収益化目当てに探索動画を撮影する事に彼は

 信じられなかった

 中盤以降に出没するモンスターの姿を一瞬だけ思い出して、鳥肌が

 立ち 悪寒を覚えた

「まぁ……農家からしたら迷惑極まりないし、ああいうのは許可を

 取ってくるもんなんだけどな」

 佐藤は吐き捨てる様に言う


「俺は特にそういった収益化に興味はありませんし、よく

 理解していないのですがそういう迷惑行為を動画にするって

 犯罪じゃないんですか?」

 彼は素朴な疑問を浮かべる

「『ダンジョン探索者法』で罪状として指定されている場合がある」

 佐藤ははっきりと答える

「・・・ですよねー(やべぇ、また新しい言葉が出てきた)」

 彼は返答に困って愛想笑いを浮かべた

「緩和前に日本国内の『放置田ダンジョン』に、所有者の無許可で

 訪日観光探索者が入り込んでは、『speedrun』競技を

 開催したりで随分社会問題化していたのは覚えてないのか?

 何度か無許可『speedrun』競技を行っていた訪日観光探索者の

 事故処理にも奔走したのに、お前は全然覚えていないんだな」

 佐藤が憤る

「あはは・・・(この『世界線』の俺は何に関わっていたんだ?)」

 彼は困ったように愛想笑いをする

「・・・確かにあまりにも凄惨な現場の事は忘れたい気持ちはわかるが」

 佐藤はバツの悪い表情を浮かべる

「あぁ……いえ……(佐藤さんが悪いわけじゃないんだけど、どんだけ

 やべぇ現場だったんだよ)」

 彼は愛想笑いをするしかない

 佐藤と江崎が話しているここは、手野グループ『日本探索者協会』の

『ダンジョン課』オフィスである

 主な事業は、ダンジョン関連法や条例に基き、日本探索者協会への

 登録とランク管理、 そして訪れる訪日観光探索者の便宜を図ることだ

 協会の構成は二十名ほどの職員による庶務課や 協会運営にかかわる

 広報課と多岐にわたる事業がある

 彼がそんな事を知ったのも、『転移』後の翌日に勤務している場所へ

 赴いてからだ

 営業所だった所が、この『世界線』では手野グループ『日本探索者協会』の

 オフィスになっていた

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