第10話


「これがXCP245『異世界水』の効果なのか」

 彼はそうぼそりの呟きつつ五号『ダンジョン』での勤務終えて、手野本社に

 戻る前に散布したXCP245『異世界水』の確認を行っていた

『ドローン』より送信されている映像には、『廃棄異世界』からの

 開拓移民集団その数10名が彼の眼に映っていた

「散布して良かったんだよな?・・・」

 彼は思わず呟いた

 10名の開拓移民集団がいる周辺には、未開の森林と

 草原ばかり広がっている



 送られてきたリアルタイムの映像には、10名の開拓移民集団が

 未開の森の中に入ってゆく姿が映し出されていた

「あんな森を切り開いて小屋を建てるのか」

 映像を見ながら彼は呟いた

 XCP245『異世界水』の効果が彼には分らなかったため、散布する

 場所も念入りにドローンで確認をしていた

 その結果、丁度森林と草原ばかり広がる地形を発見した

 また五号『ダンジョン』の出入り口からも距離的には遠かった事もあり、彼は

 慎重にその場所まで脚を踏み入れて散布を行った

 効力を発揮した事は、その翌日で五号『ダンジョン』勤務でこれから

 日課となる『ドローン』からの映像確認で発覚した


『ドローン』からのカメラ映像から次に送られてきた映像は、数頭の

 魔獣の群れと10名の開拓移民集団が激しい戦闘を行っている場面だった

「マジですか?」

 彼は思わず呟いた

 魔獣の群れは、白黒の縞模様の毛皮で覆われた胴体や脚が特徴の

 狼に似た動物で、まるで機械の様に一直線に開拓移民集団に向かって

 走ってゆく

 そして鋭い牙を剝き出しにして、2頭ずつ群れとなり四方八方から

 飛びかかっていた

 斥候役の1頭が偵察を行いながら死角から迫る戦法をとっているが、当の

 開拓移民集団は器用にいなしながら迎撃していた

「えげつねぇな・・・」

 彼は思わず呟きつつドローンのカメラを操作した

 襲いかかっている狼に似た魔獣へ、開拓移民集団から

 火球と雷球が放たれた

 凄まじい炸裂音が辺りに響き、スパークのような閃光が発生した

 そして閃光が晴れると、カメラから送られてくる映像には四散した

 魔獣の群れの残骸が地面に横たわり、絶命した個体は消えていた

「どうなってんだよ・・・あれ」

 彼はその映像を見ながら、唖然と呟いた



 さらに5分後、10名の開拓移民集団の代表者と思わしき男が何やら

 指示を出している様子が見られた

 指示を受けた男達が皆一様なデザインをした剣と盾を取り出した

 それらは、まるで中世ヨーロッパ時代を彷彿させる

 デザインをなしていた

「ん?・・・」

 彼が首を傾げ、映像に映る男達をよく見ると何かを背負っているのが

 見えた

 そこには色々なアイテムや武器が満載されているのが『ドローン』から

 撮影しているカメラの映像で確認できた

 彼がポカンと見ていると、男達はそれぞれが背負っているアイテムや

 武器の確認作業を始めていた



「あれって・・・」

 彼はそう呟くと、映像に映っている男の一人にズームアップした

 その男が持っている剣は長さ一メートル程の直刀で鞘部分は白銀に

 輝き柄の部分には紫黒色の宝石が埋め込まれており、鍔には紫色の

 宝石のような物が埋め込まれていた

 同様の剣を持っている男達が、同じような装飾を施された盾を

 かざしたりアイテムを手に取っている様子は まるで

 RPGの勇者を連想させる装備をしていた

「まじか・・・」

 彼が茫然と呟くと、その映像を見たドローンから

 音声も送られて来た

『よしっ、皆準備できたな』

 代表者と思われる男の声が聞こえてくると、他の代表者と

 思しき男が声を掛けていた

『旦那~いつ行きます?』『そうだな、とりあえず斥候役が戻ってくるまで待つか』

『了解です』

 代表者と思わしき男がそう答えると、他の男達もそれに同意した様子で

 頷いたり返事をしたりしていた



「 『廃棄異世界』からの開拓移民って・・・ひょっとしてヤバいんじゃ・・・」

 彼はその映像を確認しつつ、横に置いてある『異世界水』というラベルが

 張り付けられている瓶に視線を向けた

「まだ半分も散布してないんだが、もし一本丸ごと散布していたら

 どれくらいの効果があるんだ?」

 彼はそう言うと恐る恐る『異世界水』の入った瓶を手に持ったまま立ち上がると、仮設小屋内の壁に積まれている木箱へ向って歩いていく



 蓋の空いている木箱に載っていた『異世界水』の瓶を持つと蓋を開けて

 中身を確認する

「色が濃いのも混じっているんだが・・・濃度高いのか?」

 彼がそう呟きつつ小瓶に貼ってあるラベルを見る

 そこには『従来のXCP245『異世界水』より、基準値が上回っています』との

 記載があった

『この液体ってやっぱりヤバい系なんじゃ・・・』と瓶を見ながら彼は思う

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