第6話 本日、休みになる

外で小鳥たちがチュンチュン鳴く声がしている…。これがいわゆる朝チュンというヤツだろうか。

…事後ではないけど。

俺は時計を見た。8時45分。

遅刻だ。朝礼の時間はもう45分前に終わっている。

それと、なんかさっきから部屋のインターホンの音とかドアノブをガチャガチャやる音とかが半端ないんだが。

そして、誰かの中級魔法がドアを吹き飛ばし、何十人もの団員が突入して来た。

筆頭は副団長、レーロン・キサラギだ。マズいことになるな。


「貴様ァ!!遂に団長に手ェ出したんかァ!?」

「いえ、出してないですし、むしろ出されてるところですが」

「は?っていうかこれ誰だよ」

「ほら、俺のドラゴン。リーヴァですよ」

「こんな美少女があのヤバいドラゴンなワケねぇだろ。どうせデリヘルだろ?」


そして、俺の後ろで何かの切れる音がした。


「あのですね…!!ルークさんがデリヘルを呼ぶような人に見えますか…?」

「見えるも見えないも、男だから普通だろ」


リーヴァは俺の真正面に向き合って、正座をした。


「私は本当のことを知りたいので、正直に答えてください。ルークさんはデリヘルを呼んだことがありますか?」

「いや、無いけど」


リーヴァは勝ち誇ったような満面の笑みで副団長に吠えた。


「ほら、やっぱり呼んでないじゃないですか!!」

「分かった分かった。それで、この部屋に団長はいるの?」


急に大人しくなった副団長の質問に俺は答える。


「団長なら、そこのベッドにいます」


そのタイミングで団長は起き、時計を見て顔を青ざめさせた。


「え、えっとー…、今日は全員休みでいいぞ。好きな過ごし方をしてくれ」


リリアが寝ぼけて言っているのか、それとも団員たちの気を取る為に言ったのかどうかは分からないが、玄関先で溜まっていた団員たちの群れからは歓喜の叫び声が上がった。


「だ、団長。そんなことして大丈夫なんですか?我々国家機関に休日など…」

「たまにはいいじゃないか。ローレン、今日はお前と出かけてやるから許せ」

「おおおおありがとうございます!!だけど、いつもの召使いみたいなヤツは来ないのか?」

「まあ、彼なりの事情があるんだろう、私の傍にいないってことは」

「もしかして、団長はあの召使いが好きなんですか!?」

「いや、そういうわけではない」

「よかった…」


言われてみれば、普段からリリアの傍にいる筈の召使いの男を昨日から見ていない。

あの全身を黒と少しの白で固めたクールな感じの男の召使いを。


「すいません、少し警戒していたばかりに付き添うことを忘れてしまっていました、リリア様」

「その声、まさかフェレスか?昨日は何してたんだよ、警戒って」

「その、そこでルーク殿に抱き着かれている女性から強力なドラゴンの気配がするので、ずっとそれを追っていました」

「ああ、そういうことね」


この召使、気配でリーヴァがドラゴンだって気づけるだなんて相当優秀なのか。でも、普通の人間じゃないな。

そして召使いは、俺の方を向いて言った。


「リリア様以外の方には申しておりませんでしたが、我はドラゴン、リリア様の脚であるメフィストフェレスでございます」

「え?」


まさか、リーヴァ以外に人間になれるドラゴンがこんなところにもいたなんて…。

そして、反応からしてその事はリーヴァも知らなかったらしい。


「じゃあ、その気配から私が誰か分かりますか?」

「そうですね…。リーヴァ殿くらいにしか心当たりがないですね」

「正解です。それで、なんでメフィストフェレスは人間になれるんですか?」

「それはこちらのセリフですね。つい一昨日まで人間化できなかったはずですが。」

「一昨日から昨日にかけての深夜に、急になれるようになりました」

「そうですか、我の時も急でした。それで、昨日の話からするとご結婚されるようですが」

「まあ、そうですね」


それを聞いて、急にリリアと副団長がニヤニヤし始めた。


「それで朝からそんなに近距離で…」

「熱いですな~」

「2人とも、茶化さないでください」


2人はともかく、メフィストフェレスの表情だけが曇っていた。


「我としては、結婚はしても役所に届け出ない方がいいと思います。過去に、モンスターと人間が結婚した例は幾つかあるのですが、その夫婦は皆、届け出から1年足らずで何者かに暗殺されています。もしも届け出をされると、お2人に危害が及ぶ可能性があります。なので、届け出だけは…」

「いえ、しますよ」

「…はい?」

「何があっても、私はルークさんと結婚したことを役所に届け出ます。そこまでしなければ真に結婚したとは言えませんから」

「しかし、それで危ぶまれるのはお2人です。周りの方々のことも考えては…」

「うっせぇよ虫ケラが。私はルークさんを他の女に盗られた時に処刑を合法化したいんだ。私、ルークさんを盗ろうってヤツにも、私たちを殺そうってヤツにも絶対に負けないから」


コワイ。さすがドラゴン、自分に向けられてなくても威圧感が半端ない。

…怒らせないようにしよう。


続く

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ドラゴン、竜騎士の妻になる~訓練中のいちゃらぶも合法です~ クラプト(Corrupt)/松浜神ヰ/ハ @monohoshiP

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