第21話

 3日後。

 真夜中に突然唯志が訪ねてきた。


「どうしたんだ、こんな時間に……おいっ!」


 立っているのもやっとのフラフラの状態で、いったいここまでどうやって辿り着いたのか不思議なほど疲れ切った様子の唯志は、ドアを開いた俺の腕の中に倒れ込む。


「唯志っ」

「ごめん、純平さん……少し、休ませて」


 気怠そうな、かすれた声でそう言うと、唯志の頭はカクンと後ろに傾いた。

 俺はその、力の抜けきった体を抱えると、急いでベッドへと運んだ。


(おいおい、どうしたんだよいったい……まさか死んじゃいねーだろうな)


 おそるおそる薄く開かれた口元に手をかざす……熱い息が感じられ、まずは一安心。


(しかし、いったいどうしたっていうんだ?こんなになるまで、何をしていたんだこいつは……仕事、って訳でもなさそうだし)


 眉根を寄せて、少し苦しそうな寝顔を見つめていても何がわかるでもなく、俺はいつの間にかベッドに突っ伏して眠り込んでしまった。

 が、いくらもたたないうちに眠りを妨げられた。


「いや……だ……いやだぁぁっ!」


 大声に飛び起きると、唯志がうなされている。


「いや、だ、やめて……」


 思わず俺は唯志を揺さぶり起こした。


「唯志っ、おい唯志っ、大丈夫かっ!」


 唯志が焦点の合わない瞳で俺を見、


「もうこれくらいで、勘弁して、ください……」

「唯志?」

「もう、いやだ……」


 何だか尋常じゃない唯志の様子に、肩をつかんでいる手に力が入る。


「唯志っ、おい、唯志っ、しっかりしろっ。俺だ、純平だよっ」


 次第に焦点が合ってきて、やっと悪夢から覚めた唯志は


「……はぁ」


 安心したように、頭を俺の胸に預けた。

 その肩を、まるで子供をあやすかのように軽くたたきながら俺は口を開いた。


「何かあったのか?来るなりいきなり倒れ込んで、寝たと思ったらうなされて。すごいうなされ方だったぞ。いったいどうしたんだ?」

「ごめん……迷惑、だったよね」

「そんなのはどうでもいいんだよ。いったい、何があったんだ?」

「別に。ただ、仕事で疲れただけだよ」


 そっけなく言い放つと、唯志は大きく息を吐いた。

 だが、次の瞬間には、まるで別人のような明るい声を出した。


「そんなことより、ねぇ、純平さん」


 ぱっと、唯が顔を上げて俺を見る。


「僕たち、兄弟だって」

「……えっ」


 突然の結果報告に頭がついてゆけず、我ながらものすごく呆けた声が洩れた。


「兄弟……って、え?もう結果、出たのか?もっと時間がかかるものかとばかり」

「……急いでもらったから」


 俺からスッと体を離し、唯志はベッドを降りる。


「でも、手は抜いてないはずだから。僕たち、兄弟なんだ……実の兄弟なんだよ、純平さん」


 正面から強く肩を掴まれながら、まだ俺の頭の中では唯志の言葉が受け入れきれないでいた。

「純平さんは、僕の本当の兄さんだったんだ……」


 本当に心の底から嬉しそうな唯志の呟きが、俺の耳に届く。

 だが。


(本当の、兄……本当の、弟……唯志……強太……)


「僕だけの、兄さん」


(公一……)


 ぎゅっと俺を抱きしめて来た唯志を抱き返しながら、俺はなぜか公一のことが気になっていた。


(公一は……公一がこのことを知ったら、どう思うだろうか……)

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