第18話
「ん?どうした?」
「えっ?ああ、この女の人……」
「お袋が、どうかしたか?」
「うん……弟さん、年いくつくらい離れてたの?」
「いくつだったっけなぁ……そうだ」
ひっくり返した写真の裏に、名前と、誕生日が書かれてあるのを思い出した。
「ええっと……俺が4月26日で、強太が3月18日だから、そっか、年子だったのか。学年的には同じだったんだ。11か月くらいだな。確か強太は早産だったって聞いたような……唯志?」
俺の言葉など聞こえていないようで、じっと記された日付に見入っている唯志の顔は、心なしか青ざめて見えた。
「唯志どうした?具合でも悪いか?」
「似てる……でも、母さんはともかく、小さい子供の顔なんてどれも同じようなもんだけど、でも、まさか」
独り言の声まで、震えているようで。
「おい、唯志っ」
俺の声に、唯志はやっと我にかえったようだった。
「あ、ごめん。ちょっと、驚いたもんだから」
「何に、そんなに驚いたんだよ」
「うん……笑わないでよ?」
唯志は、恥ずかしそうに目を伏せ、
「今日の僕はどうかしてるんだ、きっと。この女の人、僕の2人目の母さんにそっくりなんだよ。名前まで同じ、君子で」
「えっ……」
今度は俺が驚く番だった。
「純平さんのお母さん、小学校の時に再婚したって言ったよね。僕の2人目の母さんが家に来たのも、僕が小学校の時だった。すごく優しい母さんだった。それから、名前こそ違うけど、僕の誕生日も3月18日なんだよ。そして、僕は有野家の養子で……これって、偶然なのかな。だとしたら、よくできた、すごい偶然だよね。似たような経験を持った人間が、こんなに近くにいて、しかも出会っているなんてさ。そう思わない?純平さん」
何だ?どういうことだ?唯志は何を言ってるんだ……何を、言ってるんだ?
「僕はね、もちろん全くの想像だし、たぶん僕の願望なんだと思うんだけど。純平さんのお母さんが僕の2番目のお母さんで、僕は、実は純平さんの弟なんじゃないか、なんて、チラッと思っちゃったんだ」
驚きで声も出せない俺から目をそらし、唯志はボソッとつぶやいた。
「ほんとうにそうだったら、うれしいな。純平さんが僕の本当の兄さんだったら。でも、だとしたら僕は……あんなに憧れてた実の母さんと、そうとは知らずに一緒に暮らしていたことになるんだよね」
しばらく、沈黙の時間が流れた。
俺は、ぐちゃぐちゃになっている頭の中を必死で整理し、唯志は……何か物思いに耽っている様子だった。そして、ようやく頭の中がまとまりかけた頃。
「調べてみない?」
「えっ……調べるって、何を?」
「僕たちのこと」
「俺達のこと?」
「そう。僕たちのこと。僕と、純平さんと……純平さんのお母さんと、僕の2番目の母さんと……純平さんの弟さんのこと」
俺とは対照的に、唯志はすっきりした瞳で俺を見た。
「ただの偶然かもしれない。でも、調べてみるだけの価値は充分にあると思う。僕だって、ずっと実の母に憧れていた。純平さんは、自分のお母さんや、弟さんがその後どうなったのか、知りたくはないの?」
「そりゃ、知りたいけど」
「だったら、調べてみようよ。いい機会だと思う。今を逃したら、ずっときっと知らないままになる……そんな気がするんだ」
「……ああ」
唯志の言うとおりかもしれない。
今まで気にかけながらも、ずっとそのままになっていた、母親のこと、弟のこと。唯志とのことは単なる偶然かもしれないにしても、俺も来年は社会人だし、調べるには今しかない。たとえ、会うことはできなくても、どこで何をしているのか、無事であるのか、それぐらいは知りたい。
「そうだな」
これが、終わりであり、始まりだった。
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