第15話
「なぁ、ほんとうに、どうしたんだ?何かあったのか?」
「うん……いや、別に何もないんだけど……」
ようやく、歯切れの悪い口調で公一は口を開いた。
「兄貴、なにか言ってた?」
「何かって何だよ?」
「それがわかればおれだってこんなに悩まないよ。ただ、ここのところ兄貴、おれのこと避けてるみたいなんだよ。純平、何か聞いてない?」
「いや、別に何も……」
なんとなく、俺も歯切れが悪くなる。
何か心にひっかかるものがあった。
(そういえば唯志、ここに来ていることも公一にはあんまり知られたくないようなこと言ってたなぁ……何か関係でもあるのか?)
「純平?」
「ん?ああ、悪い、つい考え事を。別に深刻に悩むこと無いんじゃないか?唯志も仕事が忙しいようだから疲れてるんだろう。疲れてると、1人になりたくなるだろ?」
「でも、純平の所には来てるんだろ?」
何だか、拗ねた子供のような口調。……何だ、そうか。
「お前、やきもち妬いてるのか?」
途端に、公一の頬が朱に染まる。
「ちっ、違うよっ。何言ってんだよ、おれ、そこまで子供じゃねぇよっ。ただ、兄貴が心配だっただけで」
「そうかそうか、公一は兄思いの優しい弟だもんなぁ」
「ああそうだよっ。ちぇっ、からかいやがって」
(相変わらず、素直なやつ)
口を尖らして隠す事も無く拗ねる子供のような公一の姿が、なんだか微笑ましく見えてしまう。
「別に心配することもないと思うけど、今度来たらそれとなく聞いておいてやるよ。それで気が済むか?」
「ああ」
やけ気味に、公一は残りのコーヒーを一気に飲み干し、
「腹減った」
空のカップを手に、キッチンに行く。
「今作るから待ってろ、この欠食児童が」
その後ろ姿を見ながら俺は、何だかいやな予感がしていた。
(唯志が公一くらい素直ならいいんだが……)
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