挿話 【ギャビーのお仕事】

 ミュリエル薬店を一時的に閉めることが決まりミュリエルが野戦病院へ拠点を移す前日、ギャビーとイザベルは荷造りを手伝った。


「ミュリエルさん、私も野戦病院に連れて行ってください。お手伝いがしたいです」ギャビーは強く願い出た。


「連れて行けません。ギャビーさんはここにいてください」


「何故ですか、何故駄目なのですか?私何でもします。患者さんの看病とか、雑用でも何でも出来ます。力仕事でも大丈夫です」


「感染してしまいます」


「ミュリエルさんも同じじゃないですか、感染するかもしれないのに……手伝いたいんです。連れて行ってください」


「ギャビー、ミュリエルさんを困らせてはいけません」イザベルはギャビーの手を握った。


「でも、お母さん。私力になりたいの」ギャビーは悔しさからぽろぽろと涙をこぼした。


「ギャビーさんが野戦病院に行ってしまったらイザベルさんもユーグさんもティボーさんも困ります。私もギャビーさんにもしものことがあったらとても悲しいです。だからここにいて下さい」


「私もミュリエルさんにもしものことがあったらとても悲しいです」ギャビーは袖で涙を拭って鼻をすすった。


「モーリスさんもフィンさんも野戦病院へ行きます。ミュリエル薬店の管理を任せられるのはギャビーさんだけなのです。薬草園を守ってもらえますか?」


「分かりました。必ず薬草園を守ります」


「ありがとうございます」ミュリエルは優しく微笑んだ。


 翌日、薬草や調合するための道具、着替えを荷馬車に詰めてミュリエルたちは野戦病院に向かった。


「お気をつけて!無事に帰って来てくださいね!毎晩祈ります!」ギャビーは遠ざかる馬車に向かって叫んだ。


 その日からギャビーとイザベルは来る日も来る日も薬草園の手入れに精を出した。暖かい日はユーグとティボーも手伝った。


 気温がぐっと下がり、雪がちらつく日も欠かさず、ミュリエルがしていたように愛情を込めて薬草のお世話をした。


 手がかじかんで上手く動かせなくなるとシャンタルが指だけ出た手袋を作ってくれた。


 春の知らせがもうすぐだと感じられる浅春の頃、ようやくミュリエルとモーリスとフィンの帰還の知らせが届いた。


 ジゼルとイザベルは朝から手の込んだ料理を沢山作り、ギャビーとユーグとティボーはおかえりなさいパーティーの準備をした。


 お昼が少し過ぎた頃、馬車の音を聞きつけてギャビーとユーグとティボーは家を飛び出した。


 ミュリエルたちの乗った馬車を見つけて力いっぱい手を振った。


「おかえりなさーい」

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