小話 サリー・ルイス

 私はサリー・ルイス。王宮付きの研究員だ。


 学園リマリパテを首席で卒業して王宮の魔石研究機関へと抜擢された。


 学園生活は勉強ばかりで友達は作らず基本一人だった。思い出はない。


 学園で首席を取ることが両親との約束だったし無事に王宮の研究機関へと所属できたのだから後悔はしていない。


 所属して少しした頃に魔石の研究をする人なら誰でも知っているルーシー・オーウェン様から声をかけられた。


 研究成果を認められたと喜んでいた私はルーシー様からの指示に目を丸くした。


「サリー、ちょっと頼まれてほしいんだが」


「なんでしょうか」


「リマリパテに私の娘で弟子のカレナがいるんだがな。その子のサポート兼報告を頼みたい」


 え? 私がサポートと報告を? なんでと疑問が浮かぶ。


 カレナ・ブラックウェルは学園に入学して飛び級した子で魔石や魔鉱物のこととなると見境ないらしい。


 ルーシー様はカレナに一般教養をつけるために入学させたらしいけれど、入学後の生活はどうなっているか分からない。


 だからといって忙しい身のルーシー様が学園に行くことは難しい。そこで白羽の矢が私に立った。


 悩んだ末、ルーシー様の弟子が気になったこともあり私は学園リマリパテへと向かった。


 カレナはなんというか、一言で言えばさすがルーシー様の弟子。


 魔石や魔鉱物のことになると危険を顧みず突っ走るし、魔力暴走を起こした生徒を見つけるとすぐに治療して魔石を回収する。ほんと変わった子だった。


 私が魔石の研究をしていると知ると目の色を変えて詰め寄ってきた。その顔はルーシー様の本当の娘でないのにすごく似ていて私は思わず吹き出した。


 定期的にカレナの奇行……もとい、様子をルーシー様へ報告するたびにルーシー様は大笑いした。


「あっはっは! あの子らしいな。サリーも振り回されて苦労しているだろう」


「いえ、そんなこと……は、ない、です」


「うんうん。振り回されているな。なかなかにサリーも学園生活を楽しんでいるようでなによりだよ」


「いや、そんなことは」


 否定しようとして私は口を閉ざした。カレナとの学園生活を楽しんでいると気づいたからだ。


 水を利用して通信が出来る魔道具越しに私の反応に満足そうな顔をするとルーシー様は引き続き頼んだぞと言って通信を切った。


「はぁ……。案外カレナのこと気に入ってるのかな私。友達なんて必要ないって思ってたのに。変な感じ」


 椅子に背を預けて天井を見上げていた私はカレナの顔を思い出して笑った。


「サリー! いるー?」


 扉の外からやかましい声が聞こえる。誰かなんて考えるまでもなく声の主はカレナだ。返事をしない私にもう一度カレナが声を張り上げる。


「サリー!」


 もう、聞こえてるって。私は溜息を吐きながら扉に向かった。今度は何を持って来たのやら。


 自分でも分かるくらい口角が上がっている。私は返事をしながら扉を開けた。

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