第31話 魔石獣の幼体襲来
アランも感じたのか不機嫌そうに眉を寄せつつも遠くへ視線を向けた。私も魔石の気配を辿って森の奥を視る。
なぎ倒される木々にバルコニーの手すりから身を乗り出して観察すればすぐに正体がわかった。
「魔石獣の幼体だ。まっすぐこちらに向かってきてる。アラン様、今すぐみんなを避難させましょう」
「わかった」
向かってくる魔石獣の幼体はあと三十分足らずでこちらに到着するだろう。だが、その前に幼体の放つ魔獣の到着が早い。
鳥型でないことを祈りながらバルコニーから離れようとした私は外から一人伝令役が馬に乗り向かってくるのが見えて急いで一階へ降りた。
カーテンの番をしていたアリスが驚いていたけれど、簡単に事情を話せば三人は目を丸くしながらも騒ぐことはなく私たちの後を付いてきた。
一階に向かえば伝令役の青年が到着したところだった。
「で、伝令! 西の方角より魔石獣の幼体が出現。騎士団が討伐に向かいましたが、足止め程度しか出来ておらず、じきにこちらへ到達する模様。すぐに避難を!」
一気に伝えたせいで息切れしている青年へ水を渡しながら私はアランに目配せをする。この会場に来ているのは貴族たち。彼らの身に何かあれば大事になる。
魔石獣の幼体の出現を知らせればパニックになりかねないため、情報は最低限にする必要がある。
「アラン様、カレナ様。避難の件は私たちにお任せください」
「今、馬車の手配をしております」
「念のため救護班も呼びました」
「避難経路は東に進めばウォード家の所有する別宅へ出られましょう。そちらでよろしいでしょうか」
トムさんを始めにエリナーたちがテキパキと進めていく。
私たちがやろうと思っていたことを彼らは意図を汲み進めていく彼らに驚いているとコリンが笑顔を向けた。
「アラン様とカレナ様のめでたい婚約パーティーなんですから、怪我人なんて出したくないですからね」
「そうですよ。と言ってもこれくらいしか出来ませんけど」
「普段からこの子たちにもしもを想定させて訓練していた甲斐がありました。さ、私どもが避難誘導を行いますので、お二人も早くお逃げください」
トムさんたちの言葉に私とアランは顔を見合わせると、彼らにお礼を述べて会場内へ戻った。
逃げろと言われても私は逃げるつもりは初めからないけれど、アランやアリスたちは無事に逃がしたい。
中では貴族たちが困惑しながらもシルビアたちの誘導に従い到着した順に馬車へ乗り込んでいく。
馬車では大人数が運べないため、荷台付の馬車も駆り出して荷台にも案内していく。
貴族のプライドからか文句を言う者たちに困っているシルビアの隣にアリスが立ち笑顔を向けた。
「皆さま、森の方で少々火事が起こっております。火の手は風のせいで収まることなくこちらへ向かっております。せっかく参加してくださった皆さまにお怪我などしてほしくはありません。どうか、ここは私に免じて一刻も早い非難にご協力ください」
そう言って一礼すると文句を言っていた貴族たちは顔を見合わせて言葉を呑み込んで次々に馬車の荷台に乗り込む。動揺を隠しきれていない人が一人私の視界に入る。
レティーシャだ。彼女は小さな声でどうしてこんなことに? とこぼしているが、誰も聞き返す者はいない。
それどころか父親が手を引いて荷台に乗せようとしている。
レティーシャが気になったが今はそれどころではない。事態が落ち着いたら事情でも聞かせてもらおう。
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