第32話 私に行かせてください!

 一通り貴族たちを乗せた馬車が出発し、残ったのは騎士団とトムさんたち使用人、アリスたちだ。


「避難誘導ありがとうございました。魔石獣の幼体は我々騎士団にお任せください。アラン様たちも早く非難を」


「ああ」


 ああ、じゃない。この流れだと私も避難することになる。せっかくの魔石獣の幼体。姿も見たいし、どうせなら魔石も回収したい。


 どうしたら残ることができるのか。魔獣の討伐するついでに乗り遅れたとか言って残るか。


「カレナ。早く乗ろう」


「え? ああ、うん」


「あんたまさか残って魔石獣の幼体倒したいとか言うんじゃないでしょうね」


「あははは。ま、まさか~。そんなことないよ。その目はなに?」


 ジト目で見てくるサリーには私の考えていることはお見通しだ。さて、なんて誤魔化そう。屋敷の外では騎士団が魔獣と交戦している音がする。


 魔石獣の幼体の放つ魔獣は魔力を吸収する。アンスロポスが一人もいない騎士団はすぐに魔力を吸収されて悪くて全滅だろう。


 魔石獣の幼体が到着する頃には足止めすらならない。残る理由が思いつかず私は強制的に荷台に乗せられた。


「……」


 未練がましく遠くなる屋敷を見つめていると急に馬車が急停止する。


「な、なに?」


「どうした」


 アランが声をかけると御者が青い顔で振り返った。


「も、申し訳ありません。前で馬車が止まっておりまして」


「ほんとだ。馬車が止まってる。どうしたんだろう。ん? 誰か外に出てる」


 私たちも降りて事情を聞いてみることにした。近づいてようやく降りている人物がネヴィル公だと判明した。


「ネヴィル公、危ないので馬車にお戻りを」


「何を言うか! 孫がおらんのだ。孫を探しに行かせてもらう!」


「し、しかし。ほ、他の馬車に乗り避難している可能性もあるかと」


「では君は孫が他の馬車に乗っておらず万が一屋敷に取り残されていた場合、その身に何かあったら責任を取れるのかね?」


「そ、それは……」


 威圧的な物言いと鋭い眼光に若い御者は口ごもる。誰だって責任を問われれば何も言えなくなる。これだから嫌味じじいは。


 ん? 待てよ。これはチャンスなのでは? 孫のテイオを助けに行く口実で屋敷に戻ることができるのではないか。よし、行ける!


「お話し中失礼いたします。ネヴィル公、もしよろしければテイオ様の捜索は私に任せていただけませんか?」


 突然の申し出に驚いたのはネヴィル公だけではなかった。アランをはじめアリスたちも目を丸くして止めようと一歩前に出る。


 それを片手で制止して私はネヴィル公を見据えた。ここで引けば仮に残されたテイオ様の命も危ない。


 なによりせっかくの魔石獣の幼体と戦える機会を逃してしまう。絶対に引かない。


「君はアランの婚約者だね。アンスロポスの君に何ができる。出来もしないことを安易に言うのは感心しないな」


 ネヴィル公の睨み付けるような視線に怯むことなく見返していると屋敷の方から咆哮が聞こえた。すぐに反応したネヴィル公は顔色を変える。


「なんだあの咆哮は! 火事ではないのか!?」


 森の方では火事は起こっていない。代わりに屋敷から煙が上がっている。おそらく騎士団は魔石獣の幼体と魔獣によって全滅に近いのだろう。


 ネヴィル公に隠し通すことは出来ない。アランが先に口を開いた。

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