魔石の研究一筋の私ですが、突然冷酷と噂の侯爵と婚約することになりました~婚約後も変わらず魔石の研究を続け、魔石欲しさに領民を助けていたらなぜか溺愛されました~
第29話 嫌味じじいと孫のテイオ・ネヴィル
第29話 嫌味じじいと孫のテイオ・ネヴィル
「ネヴィル公、お久しぶりです。私とて侯爵家の人間です。いつかは結婚しなくてはなりません。それが今だっただけです。ご心配をおかけいたしました」
「それにしても、相手は」
「カレナと申します」
余計なことは言わない方がいい。教わった通りに一礼して相手の反応を待つ。顔を上げればやはり冷たい目。
「君はアンスロポスだね」
「はい」
「知っていると思うが、アランはウォード家の人間だ。
言いたいことは分かる。遠回しに貴族の中でもトップクラスの男がお前のような者に釣り合うわけなかろう、と言っている。
そんなことは私が一番よく分かってる。でも、エリナーたちの言っていた言葉が脳裏で蘇る。
「でもアラン様がご自分でお選びになったのですからどんなに周りが言ってもカレナが婚約者と言う事実には変わりないでしょう」
あの言葉に背中を押されて唇を引き締めて耐えていると肩に温かな感触が触れる。
「ははは。ネヴィル公、カレナは私が自ら選んだ人です。彼女はアンスロポスと言っても優れた知性と、技術を持っています。釣り合うには十分かと。それにご存知かと思いますが、
アランが私の肩を抱いて引き寄せながら言う。それだけで胸が熱くなって気を抜くと涙が出そうになる。
ああ、この人は本当に私にはもったいない人だ。だけど、嬉しいと思う自分がいる。
ふと視線を感じて目線を下げると、ネヴィル公の隣に小さな男の子がいて私を見つめていた。アランもそれに気付いて視線を向ける。
「ああ。この子は孫のテイオ。挨拶しなさい」
ネヴィル公に促されたテイオ様は緊張した面持ちで口を開く。
「テイオ・ネヴィルともうします。このたびはこんやく、おめでとうございます」
すごい年下なのにしっかりしている。私がテイオ様と同じ年の頃ってどうだったっけ。荒れていたな。少なくともこんなに礼儀正しくなかった。
「ありがとうございます。テイオ様」
「……」
無言で見つめられて私は冷汗をかいた。何か粗相でもしただろうか。ネヴィル公相手には上手く切り抜けられたのに。
「あの、テイオ様?」
「カレナ様はちせいがあると言いましたが、まりょくについてもくわしいですか?」
「はい。主に魔石や魔鉱物、魔石獣に関してならですけれど」
一気にテイオ様の表情が明るくなる。もしかしてこの子も魔石に興味が? 少し親近感が湧いたところでネヴィル公が口を挟んだ。
「テイオ。そのことは今は忘れなさい。母親は病気だ。決して魔力暴走などではない。医者もそう言っていただろう」
「ですが……」
それ以上は何も言えずテイオ様は口を閉じてしまった。唇を強く噛んで言葉を呑み込む姿は痛々しい。ネヴィル公に嫌味じじいとあだ名を付けたくなる。
「それでは我々はこれで。アラン、相手はよく選ぶように」
まだ言うか。嫌味じじい! 私が耐えている隣でアランはにこやかに対応していた。逆に怖いな。無表情の方がまだいい。
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