11 美少年とすれ違い

 自分でなんとかするとは言ったものの。

「何をすれば……」

 考え込んでいたら、あまりよく眠れないまま朝になってしまった。

 魔法を使って、わたしを好きになった朝陽くんは、まるで別人に変わってしまった。

 だから、わたし自身の魅力で、努力で、好きになってもらわなければ意味がない──でも、具体的な方法がまったく思いつかない。

 だって、恋愛経験がゼロなんだから……。

「ふあぁ……」

 特大なあくびが出た。

 眠くても、学校には行かなきゃ……。

「ちょっと、アンタ寝てないの? ちゃんと寝なきゃダメよ! 授業が頭に入らないでしょ!」

 キッチンから母の小言が飛んでくる。

 うるさいなぁ……。

 こっちだって、寝たくなくて寝てないわけじゃないのに。

 母を無視して、わたしは二度目のあくびを手で隠しながら、玄関のドアを開ける。

「おはよ。今日は早いじゃん」

「れ、レンくん」

 背中で手を組んだレンくんが、家の前に立っていた。

 わたしが出てくるの、待っててくれたのかな……?

 自分に都合のいい解釈をして、胸が熱くなっちゃう。

 レンくんは、わたしに呼び出されたからわたしの近くにいてくれるだけ……。

 きっと、それだけだから。

 勘違いしたら、レンくんに失礼だよ。

「あとちょっと出てくるのが遅かったら、インターホン鳴らすところだったよ」

「あはは、危ない」

 軽く笑って、わたしたちは通学路を歩き出す。

「…………」

「…………?」

 なんだか、雰囲気が重い気がする……?

 というか、さっきからレンくんが不機嫌なような……?

 テンションが低いっていうか、冷たいっていうか……。

「れ、レンくん、なんか、怒ってる?」

「……怒ってないよ」

 ピシャリと一蹴される。

 やっぱり、怒ってるよね……!?

 怒っている理由──は、わたしが朝陽くんの魔法を解いてって言ったから……だよね。

 実際、魔法を解いてくれたわけで。

 レンくんが天界へ帰れなくなるリスクが上がってしまった。

 それでいて、結局、わたしは何の対策も思いついてない。ただ寝不足になっただけ。

 怒るか、そりゃあ。

「ごめん、レンくん……」

「だから、怒ってないって」

 謝っても、レンくんの態度は変わらない。

 謝って済む話じゃないから、当然だ。

 悲しくて、でも自業自得で、あからさまに態度に出てしまう。

「はあ……、そうじゃなくて……」

 レンくんは深くため息をついた。

「……ボクは必要ないのかなって」

 ぼそり。

 あまりにも小さい声で、聞き取れなかった。

「え? もう一回言って?」

「……なんでもない!」

 今度は大きな声だった。

 ……また、怒らせちゃった。

 完全に壁を作られたみたいで、わたしたちはもう会話をしなかった。

 なんで怒ってるのに、迎えに来てくれたんだろう……。

 ……キューピッドとして、わたしの恋を見届けるためかな。

 だとしたら、レンくんはテキトーそうに見えて、意外と責任感が強いタイプなのかも……。

 ──わたしも、行動で示さないと。

 足にオモリをつけて歩いているくらい、学校へ続く道のりが長く感じられた。

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