第45話 二人で帰還

「まさか、聖女エマの最後の魔法が、王様のインポ○ンツを治したなんてね」


 エマは、ケラケラ笑いながらエドガーの馬に同乗していた。


 あの後、宰相は失脚、正妃と他の二妃は夫人に降格させた。また、第二王子を王太子に立太子させ、第一王子、第三王子共に王位継承権を剥奪して臣籍降下させた。サーシャ第一王女は遠方の国の王のハーレムに入り、第三十夫人になることに決まったらしい。


 全てをたった一日で決定した王は、正妃不在にして聖女エマを後釜にするつもりだったようだが、再度エマの魔力が無くなったことを知ると、ただの孤児を正妃には迎えられないと、エマを正妃にする目論見をすぐに断念した。


 しかし、インポ○ンツを治癒したことについては、それなりに聖女エマに感謝したようで、辺境への金銭的支援を約束し、ユタヤ司祭の裁判を行うことも約束した。こちらは、権力が大きくなった神殿への牽制という意味もあるらしい。というか、治癒魔法を扱う治癒院を神殿から切り離して、王家の専属機関にする前段階として、神殿の権力を削いでいく第一歩として利用したかったようだ。


 今回、デュボン辺境伯領では神殿を撤廃し、治癒院のみ残すことを認めさせた。また、孤児院は神殿管理から辺境伯へと移行した。国に先んじて、神殿からのデュボン辺境伯領に対する干渉を0にした訳だ。

 このことをユタヤ司祭を断罪する際に裁判にて神殿に認めさせる為に、エドガーとエマは三ヶ月王都に滞在しすることになった。


 やっと、その裁判も終わり、エドガーとエマは懐かしい辺境伯領へ、一足先に騎乗して帰ってきている途中だった。もう辺境伯領に入り、北の館まではあと僅かの距離まで来ていた。

 ララやイリア達は王都に残していた護衛と共に、馬車でゆっくり帰ってくるだろう。


「絶対にこっちに呼び戻してくれるとは思ってたけどさ、エドに会いたくてしょうがなかったよ」


 エマは、エドガーの胸に寄りかかり、エドガーはそんなエマの腰を片手で支える腕に力を込めた。


「俺もだ。目の前にエマがいるのに、エマじゃないということがしんどかった」


 エドガーがエマの頬にキスをした。エマはそれをくすぐったげに受けながら、顔をエドガーに向け、唇にキスしてとキス顔で待つ。エドガーは触れるだけのキスを数回落とすと、エマの存在を確かめるように、鼻に頬に目にオデコにと、顔中にキスの雨を降らす。


「聖女エマにも、ムラムラしたりした?」

「する訳ないだろう。同じ顔なのに不思議だな。双子の片割れといるような感じと言えばわかるか?結局は顔が同じでも、中身が違えば他人だ。ただ、同じ顔だから、見れば見るほど逆にエマが側にいないことを思い知らされたよ」

「そっか。聖女エマの日記をね、あっちにいる時に見ちゃったんだけど、凄くいい子っぽかったんだよね。私にも凄く申し訳ないって、無茶苦茶悩んでてさ。こんないい子が側にいたら、エドも彼女の方を好きになっちゃうんじゃないかとか、聖女エマもエドが格好良すぎて、エドのこと好きになっちゃうんじゃないかって、悶々としてたんだよ」


 エマは鞍の上で器用に横乗りになると、エドガーの厚い胸板を撫でながら、その胸に顔を埋めた。


「あり得ないな。彼女はあちらでの恋人のことをよく話していたぞ」

「ああ、健人ね。彼なら、聖女エマが向こうでちゃんと馴染めるようにフォローしてくれるだろうし、うちの親にも馴染んでたみたいだから、将来は結婚とかしちゃうのかもね」


 エドガーは、ジッとエマを見下ろしていたかと思うと、何度か躊躇った後に少し嫌そうに口を開いた。


「向こうでは……エマはケントの彼女として振る舞っていたのか?」

「?」

「つまり、二人で出かけたり、触れ合ったり……だな」

「出かけたりはしたよ。ほら、いつ入れ替わるかわからなかったから、戻った時に聖女エマが混乱しないように、健人と一緒にいた方がいいと思ったしさ。向こうで食べたい物食べたりとか、行きたいとこ行ったりは、健人に付き合ってもらったもん」


 エドガーの表情がドンドン険しくなっていく。


「それは……ケントと沢山デートをしたということか」

「デート?違う違う。友達と出かけるのはデートじゃないっしょ?」


 エドガーはエマの頭にグリグリと頬を寄せた。


「しかし、エマとそれだけ一緒にいたら、絶対にエマに惹かれるだろう。エマほど魅力的な女性はいないのだから」

「うーん。それはどうかな。ほら、この見た目は聖女エマのだから可愛らしいけど、あっちの私はボーイッシュというか、まんま見た目男の子だもんな。髪の毛はエドよりちょい長いくらいだし、化粧もしないし、いつもズボンで凹凸もほぼないし。健人からは、中身が聖女エマの時は女子にしか見えなかったけど、中身が私だと弟にしか思えないって言われたよ」

「あっちのエマも、きっと愛らしいんだろうな。どちらのエマも、中身がエマである限り好きになるだろうな」

「ええ?あっちは本当に色気もなんもないんだよ。まぁ、ぺったんこなのはこっちも同じか」


エマは薄い自分の身体を残念そうに見下ろす。女に生まれたからには、一度は「胸が大きすぎて肩がこるのよ」というセリフを吐いてみたかったものだ。


「色気?俺はエマにしか女を感じないがな」

「本当に私だけ?」

「エマは違うのか?」


 エマはエドガーの首に抱きついた。


「私もエドだけだよ」


 エドガーはエマの頭に手を当て、深いキスをした。


★☆★最終章完結★☆★



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【完全版】脳筋な元聖女は、辺境騎士団に入団して旦那様の推し活中です 由友ひろ @hta228

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