第3話 秋の収穫祭2
「おはよう、エマ」
「おはようございます、エド」
エマが立ち上がりエドガーの元へ行くと、エドガーはエマの腰を抱いて額にキスした。スリスリとエドガーの胸筋に擦り寄ったエマは、「朝からご馳走さまです!」とエドガーの筋肉を堪能する。
アンは気を利かせて、お辞儀をすると何も言わずに部屋を出て行ってしまった。
扉の閉まる音でアンの退出を知ったエマは、アンの婚約者を聞けなかったことを残念に思ったが、意識はすぐにエドガーの素晴らしい肉体に行く。
この世界にスマホがあれば、確実に待ち受けは鍛錬後のパンプアップされたエドガーの半裸写真だろう。いや、シャツをたくし上げて顔の汗を拭く、チラ見え腹筋も捨て難い。
網膜に焼き付けるしかない現状が怨めしい。
「エマ、今日は仕事が早く終わる予定なんだが、一緒に祭りにでかけないか?」
「行く!行きたい。秋の収穫祭だよね。さっきアンに聞いたとこ」
「そうか、夕飯は祭りで食べよう」
「賛成!」
「……夜の祭りは酒が出るが、エマは酒は飲むなよ」
「うん、止めとく。残念だけど」
キララの時はワクと言われるくらい酒に強かったし、飲むのも好きだったが、この身体はワイン一杯で記憶を無くすし、次の日の半端ない二日酔いを思うと、飲みたいとすら思えなかった。
「じゃあ、これを渡しておく」
エドガーが懐から取り出したのは、SMの女王様がつけるような黒い蝶の羽の形をしたアイマスクだった。
「これは?」
まさか、エドガーがSMごっこを提案するとも思えないが、SMのマスクにしか見えずに戸惑う。
「夜の部は、マスク着用なんだ。冬の間のパートナーを、フィーリングで選ぶ為にマスクをつけたのが元だな」
「冬の間のパートナー?」
「辺境は冬が長い上に厳しいから、外に出れるのは晴れた日の数時間くらいなんだ。ほとんどを家の中で過ごすから、若者だとやることが……なんて言うか……アレだ。アレくらいしかなくてだな。顔だなんだは飽きるから、一緒に一冬越せる相手を直感で選ぶ為のマスクだ」
寒い地方は子沢山が多いとは聞いたことがあるが、吹雪などで家から出れない日が長いと、他にやることがないから子作りに勤しむのか、寒過ぎていわゆる生命の危機を感じるから子作りに勤しむのかはわからないが、つまりは冬はH三昧ってことだろう。
「冬限定のパートナーなの?」
「とりあえずお試しで一冬過ごしてみて、うまくいけば付き合ったり結婚したりって感じらしいな」
「エドは、何回冬限定のパートナーと過ごしたの?」
エドくらいのイイ男(注:エマ主観)ならば、沢山の女性と関係していて(注:エマの思い込み。実際は閨の実地の一回のみの素人童貞)もおかしくないし、エドガーの年齢を考えれば、二桁……いや三桁もあり得るかもしれない。
エドガーが色んな女性と……と考えると、胸の奥がギューッと苦しくなるが、一度気になると聞かずにいられないのがエマである。
エマがジトッとエドガーを見上げながら言うと、エドガーは変な勘違いをされたらたまらないとばかりに、慌てて答えた。
「秋の収穫祭でパートナーを探したことは一度もない。騎士団はだいたい祭りの警らで忙しいしな」
「そっ……か」
(婚約者もいっぱいいたみたいだし、わざわざお祭りで一冬の相手なんか探さないよね)
勘違いされずに良かったとホッとするエドガーと、祭りでパートナーは探さなくても、婚約者とは毎冬ガッツリ営んでいたんだろうなとモヤモヤするエマ。
そこで、エマはあることに思い至った。
最初のエドガーが手に入れたいと考えていた(注:エマ勘違い)ミアという婚約者は、年齢も若かったから関係を持っていなかった可能性があるが、他の婚約者達とは身体の相性が悪かったから婚約解消になったんじゃないかということだ。
エマはエドガーの身体は素晴らしいと確信している。その理由はエマの幻の記憶に起因していて……。
まさか、自分からキスした上に、エドガーのナニをアレして☓☓☓したなんて思い出したら、エマは恥ずかしさのあまりに逃走するんじゃないだろうか。しかも、その後にエドガーに反撃され、アレやコレやされた挙げ句、最終的にはいざという時に寝落ちしてしまった……とか、エマ的には覚えていなくて良かったのかもしれない。
そんな幻の記憶のせいで、エドガーと婚約者達の身体の相性が悪いとしたら、それは婚約者に問題があったのではと考えたのだ。
たとえば婚約者達が揃って貧乳だったとか……。
結婚してから手を出されていない自分が、女性としての魅力に欠けるとしたら、一番に思いつくのがそこだった。なにも、日本人だったキララと、聖女だったエマが、そんなところだけリンクしなくてもいいじゃないかと、エマは声を大にして言いたい。
盛大に勘違いされているとも知らず、エドガーはマスクをエマの顔に当ててみる。
「プラチナブロンドに黒いマスクは映えるな」
「やっぱり衣装は革のボンテージファッション?」
「ボンテージ?なんだそれは」
革のボンテージコルセットに、網タイツは必需品だろう。さらにエドガーが持ってきた蝶のマスクをつけ、手には鞭を持たせれば、立派なSMの女王様だ。
エマが女王様スタイル(SM)を絵に描くと、エドガーはギョッとしたように目を剥いた。
「これを人前で着るのは勘弁してくれ」
「まぁね、私じゃ胸もないしあんま似合わないと思うしね。あ、でも、足なら自信あるんだけど」
エマがスルスルとスカートの裾を持ち上げて太腿まであらわにすると、エドガーは真っ赤になって目をそらした。しかし気になるようで、チラチラ視線がエマの太腿が戻ってはそらすを繰り返している。
その様子を見て、エマは一人溜飲を下げた。
足は、エドガーの興味が引けそうだ。
「エマの足が魅力的なのは知ってる。こんな衣装も似合うとは思うが、他人に見せて欲しくないだけだ」
「私も嫌だよ、恥ずかしい」
エマがケラケラ笑いながらスカートを元に戻すと、エドガーは困ったように苦笑する。
「祭りは、夫婦やカップルは揃いのマスクをつけ、それ以外は独自の個性的なマスクをつけるんだ。服装はそれに合せて個性的な者もいるが、大抵は普段着だ」
「マスクをつけてない人は?」
「老人や子供くらいか。まぁ、祭りの夜の部は深夜からが盛り上がるから、その時間は老人子供はいないがな」
深夜にマスクをして盛り上がる集団って、怪しいオカルト系か、アダルトな乱パを想像してしまう。
合コンはしてみたかったが、乱交パーティーに参加したい訳じゃない。
「深夜までいるの?怖くない?」
「俺が一緒だ。怖い訳ないだろう」
辺境騎士団団長であるエドガーは、辺境一強い。辺境伯だから団長になったのではなく、実力で騎士団長になったのだから。そのエドガーが側にいて、確かに怖いことなど起こる筈もないだろう。
「だよね。うん、エドガーに張り付いてはぐれないようにしよう」
「そうだな。じゃあ、夕方には戻ってくるから、祭りはそれから一緒に行こう」
「わかった。楽しみに待ってる」
実際には騎士団に鍛錬に行く予定だから、おとなしく屋敷で待っている訳ではないが、その辺りは適当に流してしまおう。エマは「行ってらっしゃい」とエドガーを送り出すと、自分も厨房で作ってもらったお弁当を持って第二鍛錬場へ向かった。
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